エロ本みいつけた!
頭空っぽにしてどうぞ。
レイリーは絶望のどん底に落とされていた。
目の前にはかつて永遠の愛を誓い合った幼馴染みと異世界から召喚された勇者の青年が仲睦まじそうに立っていた。
『ごめんなさいレイリー。私、勇者様のことが好きになってしまったの』
『ハハハ、悪いね。もうリリアンは僕のモノなんだ、諦めてくれないかな』
全く申し訳なさそうな顔もしないでそう言った幼馴染みと此方を馬鹿にしたような顔の勇者。
僕の婚約者だった、聖女となって旅に出たばかりの頃の彼女の姿はもう何処にも無かった。
訳が、わからない。
なんでこうなったんだ?
理解できない。
『君の●●よりも僕の●●の方が●●●●ったみたいでね、●●●●で●●●●●リリアンはとっても可愛かったよ。君じゃああんな表情は出せないだろうね』
『勇者様ぁ♡レイリーが見てるぅ♡』
『良いじゃないか、昔の婚約者に見せつけてやろう』
『勇者様素敵ぃ♡』
レイリーの見ている前でリリアンの服の中に手を差し込み、なにやらもぞもぞと動かし始めた勇者。
●●●●●●●、●●●●した。
『やめろ…………やめてくれ』
『止めないよ、だってリリアンはもう僕のモノなんだから。君にどうこう言われる筋合い、無いよね?』
『勇者様ぁ、早くはやくぅ。 勇者様の●●●●が●●●●のぉ♡』
『あははは!リリアンは●●だなぁ!』
『やぁんっ、勇者様ったらひどーい!』
身体に、力が入らない。
目の前で幼馴染みを、僕の婚約者を汚している勇者の顔面を殴ってやりたくて仕方ないのに身体がまるで動こうとしない。
ああ、僕の身体が無意識に敗北を確信してしまったんだ。
世界最強の人類である勇者に一介の村人である僕が適うはずが無い事なんてわかりきっていたんだ。
僕は、この行為をただ眺めることしか出来ないのか……………。
『リリアン…………●●』
『勇者様ぁ………来てぇ』
勇者がその●●●●を●●てリリアンへと近付け―――――
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「『●●●●●●、●●●●●●。りりあんはゆーしゃの●●●を●●●●●●●られて●●●●●った。』なんでこのおにーちゃんは目の前で幼なじみの女の子がひどいことされてるのに戦おうとしないのかな。なんで助けようとしないのかなぁ」
僕は薄暗い部屋の中で偶然見つけてしまった変な絵物語を読んでいた。
これは、いわゆる『ださく』というものではないだろうか。なんで主人公は戦おうとしないのかな?なんで助けにいこうと思わないのかな?
なんでなんでー?
「『●●●●●●●●!●●●!●●●●!●●●、●●●。やめろー、やめてくれー。ふははは、みじめなものだなれいりーくん!』」
「あ、アイル…………」
「あ、パパ」
いつの間にかパパが部屋の戸口に立っていた。
顔を真っ青にしてこっちを見てる。
「パパはなんでこんな『ださく』持ってるのー? 主人公はなんで戦おうとしないのー?」
「あ、アイル?それは五歳児が読んでいいものじゃないんだよ、ほら、早くそれをお父さんに渡しなさい」
「『●●●●!●●●●!おらっ、●●●●●●、●●●●。●●●!●●●』」
「ウワァァァァァァ!朗読しないでぇぇぇぇぇぇぇ!棒読みで淡々と音読しないでぇぇぇぇぇぇぇ!」
顔を真っ赤にして慌てるパパ。
面白いからもうちょっと音読してみよう。
「『うおっ、●●●●。●●●●!●●。うわぁぁぁぁぁぁー。ふははは、どうだいれいりーくん!めのまえでこんやくしゃだったおんなが●●●●されるこうけいは!』」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!そこ多分クライマックスぅぅぅぅぅぅぅ!まだちゃんと読んでなかったのにぃぃぃぃぃぃ!」
「何が……………まだちゃんと読んでなかったって?」
「ひ、ひゅっ……」
「あ、ママ」
顔面蒼白になったパパの後ろに、『鬼』が立っていた。
数時間後、家のリビングに完璧な土下座をキメているパパと腕を組んでそれを見下ろすママが居た。
それもただ土下座している前に立って見下ろしている訳ではない。土下座したパパの後頭部にママが足を乗っけて踏みつけた状態で見下ろしているのだ。
ママ怖い。パパは『じごうじとく』ってやつだと思う。
「これ、『寝取られ』モノってヤツよねぇ? そんなに私を他の男に寝取らせたかったのかしらぁ?」
「そっ、そんなわけあるはず無いじゃないか!ラシェルは僕だけのものだ!誰にも渡さない!」
「パパ、そんな格好でいってもカッコつかないよ?」
「アイル!分かってるから言わないで!心が抉れる!」
土下座して頭を踏まれた状態でわめくパパ。
僕はなんだか悲しくなった。
ママがあの『ださく』を手にとって、にぃっ、と笑う。
ママはこんな村に居て良いのかってぐらい美人だ。美人の闇のこもった笑った顔は本当に怖い。
「ねぇアイル、これ、何処で見つけたの?」
「パパのベッドの下からはみだしてたよ」
「へぇ………ベッドの下。割とスタンダードね。今度から定期的に部屋の中を見に行こうかしら」
「そ、それだけは!それだけはお許しをぉぉっ!?」
ママの足がぐりぐりとパパの後頭部を攻撃して床に押し付けた。
パパが変な音を上げて床にめりこむ。
「あーあ、こんな夫なら本当に誰かに寝取られちゃおうかしらー。この村って広いから他にもいい男ぐらい沢山居そうよねー」
「駄目だーー!絶対に駄目だッッ!そんなことしないでくれっ!頼む、頼むからーッ!」
土下座したまま床に顔面をめり込ませたパパの身体が小刻みに震える。
「あら、それなら本当に私のことを愛してるって、誠意を見せてくれない?」
ママがパパの後頭部から足をどかした。
パパがすごい勢いで起きあがる。
「誠意、見せる!もうあんなの買わないから!」
「そう………って、ひゃんっ!」
キリッとした顔になったかと思うと、ママをお姫様抱っこしてママの額にキスを落とした。
パパ大丈夫かな。なんだかテンションがおかしくなってる。
「僕だけのラシェル。誰にも渡さない。アイル、お前は外に行って友達と遊んできなさい。夕方まで帰ってきては駄目だよ」
「え、なんでー?」
「良いから、遊びに行ってきなさい」
顔を赤くしたママとやけにキリッとした表情のパパ。
なんで外でなきゃいけないのかな?なんで夕方まで帰ってきちゃ駄目なのかな?
なんでなんでー?
―――コンコン
「アイルくん、あーそーぼー!」
―――どたどたどた!ぴょんっ!
「うわっ、わわわっ!」
「今日も一緒におままごとしよーねー!」
ドアをノックした音がしたと思ったら女の子が飛び込んで僕に抱きついてきた。
僕の幼馴染みの女の子『ミリア・シュトラール』ちゃんだ。
さらさらの銀髪に紅い眼をした可愛い女の子。
見た目に似合わず結構パワフルでぐいぐい来る女の子で、よく僕のことをおままごとにつき合わせてくる。
「ホラ、ミリアちゃんも来たことだし、アイルは遊びに行ってきなさい」
「はーい」
パパとママがなにするのか気になるところだけど、ミリアちゃんと遊ぶのも楽しいからいっか。
ちらっ、とミリアちゃんの方を見ると『はやくはやく!』とでも言いたそうに目をキラキラと輝かせている。
幼馴染みの、女の子……………。
あの『ださく』が頭に浮かんだ。
あれは物語でしかないけれど、僕はもしミリアが酷いことされそうになったら守れるだけ強くなろう。
あの『ださく』の主人公みたいに全く動けずにイライラするだけなのは嫌だもん。
「今日は『農場を開いていた夫婦が、不作続きでお金が無くなっちゃったから夫の方が冒険者になるって言い出すけど、それを引き留めようとする妻』ってシチュエーションね!アイルは夫役!」
「ミリアちゃんのおままごとって妙にリアルだよね」
「いーからいーから!はやく行こー!」
今日も僕は可愛い幼馴染みに手を引かれて、外へと遊びに出かけていく。
アイル・ロズベルク 五歳。
この日が、僕の運命を分けることになった。