女魔王と幼女勇者
女魔王は目の前の光景に困惑していた。
「えっと…。これが、勇者?」
「すぅ…すぅ…」
女魔王は自分を倒すため、訓練に励む勇者を先に討つ為に、女兵士に化けて訓練所にある勇者の部屋に侵入したが、そのベッドで寝ているのは6歳位の少女だったのだ。勇者は男だと思っていた魔王は困惑せずにはいられなかった。
「か、可愛すぎるわ…」
女魔王は寝ている幼女勇者の寝顔をまじまじと見つめ形相を崩す。小さく丸い顔に、綺麗な金髪のショートカットの幼女が気持ちよさそうな寝息を立てているのを見ていると、世界を混沌に突き落とす事などどうでもよくなってきた。
「んにゅ…」
「はぅっ…!?」
ぷにぷにそうな幼女勇者の頬を人差し指で軽く突いた女魔王はその感触に思わず声を上げてしまう。
「な、なにこれ…。すごく気持ちがいいわ」
その感触の虜になった女魔王はつんつんと幼女勇者の頬を突く。
「んむぅ…」
「しまった…」
頬を突かれまくった幼女勇者がついに起きてしまう。ゆっくりと開かれていくまぶたの隙間から藍色の瞳が覗いてくる。
「おねーさん…。だれ…?」
「わ、私…?」
完璧に開かれた幼女勇者の目と、女魔王の目が合う。幼女勇者は眠たそうに眼をこすりながら、寝ぼけた声で言う。
「わ、私は、ま…」
「ま?」
女魔王は危うく魔王と答えそうになるも、なんとか堪える。
「ま、マーガレット。貴女のお世話係になったのよ」
「お世話がかり…?」
(だ、ダメそんな純粋な目で見つめないで!)
女魔王は嘘をつき、それを聞いた幼女勇者はキョトンとして首を傾げ、女魔王を見つめる。そんな、幼女勇者に女魔王の鼻から熱いものが出そうになるが、女魔王は意地と女魔王の威厳にかけて耐え切ってみせた。
「そ、それじゃあ。顔を洗って眼を覚ましましょうか」
「わかったー」
「……?」
女魔王が微笑みを浮かべ、提案すると幼女勇者は目を擦り終えると、両腕を女魔王の方に伸ばしてきた。女魔王は何事かと思い首を傾げる。暫くその状態が続き、幼女勇者が口を開く。
「まだ、眠いから抱っこして、連れてってー」
「わ、わかったわ」
女魔王が幼女勇者に近づき、恐る恐る抱き上げると、幼女勇者は女魔王の首に手を回す。そして、その小さな顔を女魔王の豊満な膨らみに埋める。
「ちょっ!?」
「ふかふかー。…くぅ…くぅ…」
(ね、寝ないで欲しいんですけど!?あぁ。でも近くで見る寝顔を最高に可愛いわ…。仕方ないわね。このまま連れて行きましょう。洗い場じゃなくて私の城に…だけど)
女魔王は、この幼女勇者をお持ち帰りする事を決めほくそ笑む。女魔王にはこの小さくて可愛らしい女勇者を手にかける事は出来ない。と言うか、したくなかった。それならば、自分の城でのんびりと成長を見守る事にした。女魔王は幼女勇者を抱っこしたまま、幼女勇者の部屋から出ていく。
「何者だ!?その子を何処へ連れて行く!」
(チッ…。厄介な事になったわね)
幼女勇者の部屋から出たところで、背後から女性の声が詰問の声をあげる。
(あら。この子も可愛いわね)
「私はこの子のお世話係に任命されたものよ」
「お世話係だと?そんな話は聞いてないぞ」
「事実…よ」
「…っ!?」
振り返った先には18歳位の女兵士が立っていた。金髪碧眼のスタイルが良く、美人というよりかは可愛らしい顔立ちをしていた。女魔王はその女兵士に微笑んで言い、女兵士はそんな女魔王を訝しげに見つめてくる。女魔王は魔眼で女兵士に催眠術をかけ、自分の言ったことを信じさせる。
(催眠術が解けた時に面倒だから、この子もお持ち帰りしてしまいましょう)
「こっちにきなさい」
「…はい」
催眠術が解けた時に女勇者が幼女勇者を連れ去った事を報告されたら面倒なので、女魔王は女兵士を下僕にして幼女勇者と一緒に連れ帰る事に決め、女兵士に自分の方に近づくように命令する。命令を受けた女兵士はふらつきながらも女魔王の元にたどり着く。
「…ちゅ」
「…うぐっ!?」
女魔王は自分の目前まできた女兵士の唇に、自身の唇を合わせると、魔力を送り込み魔族にすると同時に自分の下僕にしてしまう。
「ふぅ…。どうかしら?」
「最高です。魔王様。私を魔族にしてくださったばかりか、魔王様の下僕にしてくださるとは。いくら感謝しても足りないくらいです」
「そう。嬉しいわ。この子を連れて帰りたいのだけど、見つからない様に出る方法はあるかしら?」
「はい。此方です」
肩肘をつき頭を垂れる元女兵士現女魔族に女魔王が問いかけると、女魔族は立ち上がり歩き出す。女魔王はその後ろについていった。
暫く女魔族の後について歩くと、誰にも見つからずに訓練所の外にでる。
「ご苦労様」
「はっ!ありがたき幸せ」
女魔王は女魔族の頭を微笑みを浮かべ撫でる。
「ん…。あれ?何でお外にいるの?」
「さ、散歩に来たのよ」
「そ、そうですよ。勇者様。日頃の訓練でお疲れのようでしたので、所長に許可を得て散歩に来たのです」
突然起きた幼女勇者の問いかけに、女魔王と女魔族はしどろもどろになりながらも誤魔化す。
「ふぁ〜。そうなんだ。マーガレットお姉ちゃんの隣にいるお姉ちゃんはだれ?」
(ま、マーガレットお姉ちゃん!!わ、私がお姉ちゃん!?小さい女の子にお姉ちゃんと呼ばれるのがこんなにも心地よいなんて…)
「わ、私はジェシカと言います。マーガレットさんのお手伝いを命じられてます」
(魔王様。しっかりしてください…)
幼女勇者にお姉ちゃんと呼ばれた女魔王は形相をくずしまくり、とても部下の前では見せれないニヤニヤ笑いとなる。そんな女魔王を呆れながら見つつも女魔族は女兵士だった頃の名を名乗る。
「ジェシカお姉ちゃんも私のお世話係なんだね。えへへ。よろしくね」
(うっ…。こ、これは、魔王様がああなるのもわかりますね。可愛すぎます)
嘘の自己紹介だとは思っていない幼女勇者は女魔族に向け、満面の笑みを見せる。そのあどけない笑顔を見た女魔族は、一瞬で幼女勇者の虜になってしまった。
「あ!蝶々だ!マーガレットお姉ちゃん下ろして!」
「え、ええ」
蝶々を見つけた幼女勇者は女魔王に下ろしてくれと頼む。女魔王は幼女勇者の温もりをいつまでも感じていたかったが、拒否して泣かれて嫌われるのは何としでも避けたかったので、幼女勇者を地面に降ろそうとする。
「待ってください。マーガレットさん。勇者様に靴を履かせてからです」
「そ、そうね」
「ジェシカお姉ちゃん早く!蝶々いなくなっちゃうよ」
「慌てなくても大丈夫ですよ。…はい。履かせれました。マーガレットさん降ろしていいですよ」
「わかったわ」
「蝶々さーん」
女魔族が靴をどこからともなく取り出すと、幼女勇者に履かせ、靴を履かされた幼女勇者を女魔王は地面におろす。地に立った幼女勇者は蝶々に向かってニコニコしながら駆け出した。女魔王と女魔族は同じくニコニコと笑い見送る。
「僭越ながら魔王様。勇者ちゃんを魔王様の居城に連れてかれると、勇者ちゃんに魔王様が魔王であると暴露ると思われるのでお止めになった方がよろしいかと」
「うっ…。そうよねぇ」
花畑で蝶と触れ合っていた幼女勇者はいつのまにか現れた小動物とも楽しいそうに触れ合っている。そこには日々の厳しい訓練をしている勇者としての側面は全く見られず、普通の幼い女の子だった。そんな、幼女勇者を見守りながら女魔王と女魔族は話し合う。女魔王も自身の城に幼女勇者を連れて帰ると、魔王である事が分かってしまう危険は感じていたが、一刻も早く自室で幼女勇者と戯れたかったので無視していた。
「こういうのはどうでしょう。魔王様」
「何かしら?」
女魔族は女魔王に何事かを耳打ちする。
訓練所から消えた幼女勇者に焦り、周囲を探していると、いきなりフードを深々とかぶった人物の顔が大空に映し出される。
「私は女魔王よ。人間と敵対するのはやめにするわね。もう二度と人間の住処に手は出さないわ」
口元しか見えない女魔王の宣言を人間達はぽかんとして見つめていた。
女魔王が人間に手出しをしないと宣言してから1ヶ月がたったある日。魔族領の近くにある小さな村の小さな家。そこには可愛らしい小さな女の子と、その女の子の姉が2人の計3人が住んでいた。
「…くぅ…くぅ…。マーガレットお姉ちゃん。ジェシカお姉ちゃん…好き…。くぅ…」
「き、聞きました?魔王様」
「ええもちろんよ」
右側を女魔王がそして、左側を女魔族が陣取り、2人の間では幼女勇者が気持ちよさそうに寝ている。幼女勇者の両手は2人の服を掴み離さない様にしている。そう。女魔族が女魔王に提案したのは城には戻らず、小さな村で生きていく事だった。魔王を倒しに行かなくても良い。と聞いた幼女勇者はぽかんとしていたが、女魔王が魔王は人間と敵対するのを止め、何処かに消えたと話すと納得したように返事をした。
「訓練厳しいから嫌だったんだよねー。もうやらなくていいんでしょ?」
「ええ」
「はい」
「やったぁ!」
厳しい訓練に嫌気がさしていた幼女勇者は訓練が必要なくなったと聞くと、満面の笑みを浮かべて女魔王と女魔族に抱きつく。
「あ。次からは勇者じゃなくて、アリスって呼んでね!マーガレットお姉ちゃん!ジェシカお姉ちゃん!」
「わかったわ。アリス」
「わかりました。アリス」
こうして女魔王と女魔族は元幼女勇者現幼女と仲良く幸せに暮らしましたとさ。