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独戦

作者: 御霊

はじめまして。

思いつくままに短編で流れを書いてみました。

そしてあらすじの書き方は下手くそすぎて目も当てられませんね。申し訳ありません。


この話に共感出来る部分がある方は是非精神科を受診してください。

生きていてもいい事はなかなかありませんが死んでもそれは変わらない気がします。

それを分かっても生きる事を諦めてしまった方々へのご冥福をお祈り申し上げます。

雨の強い日だった。


白一色で統一された部屋の寝台に深く身を預けている。容赦無く叩きつける雨音と働く医師達の忙しない声を聴きながら、少し早めの呼吸を繰り返していた。

此処は栄えた街のすぐ横、何とか市内だと言える範囲に位置する閉鎖病棟だった。

先程迄俺は至極興奮状態で、何かにつけて泣いたり、怒鳴ったり、物を壊したりと意味も無く大騒ぎしていた。

隔離室の中で看護師の柊さんに宥められて居たが今は薬の効果で落ち着きを取り戻し、与えられていた病室に戻って来ている。泣いたせいで頭痛が鳴り止まない。

携帯端末もネット環境も刃物も無く、する事など無い病棟の中で向い側の寝台から静かな声が響いた。

雨音に織り交ぜた様な細い声だ。

「今度は何をしたの」

俺と同じ年で黒崎という名の少年だ。其の名の通り艶のある黒髪を持つ小柄な容姿は一見少女にも見える。

「…休憩室で何時もの様に思ってる事を沢山書いていたら、止まらなくなってしまって。…いつの間にか泣いていて、気付いたら」

黒崎はその短髪を耳に掛けると肩を竦めた。

「それで右手が黒ずんでいたのか。次はボールペンにした方がいいね」

俺は同じ様に肩を竦めて薄ら笑って見せた。

「…そうか、盲点だったな」

何時も暗い思考へと堂々巡りになりそうな時は他愛無い会話へ連れて行ってくれる。そんな黒崎は閉鎖病棟に居るのが不思議でならない程、常に落ち着いていた。

まだ降り止む気配など素振りも見せない曇天に呆れた視線を送ると、黒崎は寝台からすとんと降りてみせた。

「手洗へ行ってくる。…もう少し落ち着いたら庭へ行こうじゃないか」

そう微笑み言い残すと返事も待たずに病室の戸を開けて行ってしまった。


…落ち着いたらというのは天気の事か、俺の事か。


兎に角、気分転換と言う意味合いで間違いは無さそうだが彼は偶にこういう所がある。

熟々読めない人だ。

聞くところによると黒崎は幼少期からなかなかハードな対人関係を蓄えてきたそうだ。

詳しくは聞いたことが無い。否、聞けなかった。

話した所で無駄だと言わんばかりの雰囲気を身に纏う彼にずけずけと話題を重ねるのは気が引けたのだ。

しかしその割にはユーモアも気遣いも立ち回りも人として並以上備えている。

俺は医師よりも彼に救ってもらっているような気さえしている程に。

入院初期に看護師に囲まれて父親から受けたという生傷に包帯を当てられる中「これが長いものに巻かれるという事か」と真剣な顔をして呟いていた事も記憶に新しい。


一呼吸置くと俺は横に置いてあった紅茶に手を伸ばし、幾分か不貞腐れた様に其れを飲み下した。黒崎の事を考えていると何も取り柄のない自分が際立つ。

カップを置いて目線を上げると丁度その先で黒崎が戸を開け戻って来ていた。何があったのか、そわそわと落ち着きが無い。

「どうかしたのか?」

俺が声を掛けると、黒崎は良くぞ聞いてくれましたと言わんばかりに満面の笑みを浮かべた。其れからぱたぱたと小走りに近付いてきて耳打ちをする様に腰を曲げた。

「今日からこの部屋に一人増えるそうだよ、トイレの帰り道に二階堂さんが教えてくれた」

どんな子だろうね、とニコニコしているが相変わらず目に光は全く感じられなかった。口にしたことは無いが時折こういう差分にゾッとする。今まで見たどの患者よりも畏れを抱くものだ。

「…どんな子、って俺達よりも歳上かもしれないだろ」

それを悟られぬ様に呆れた顔をして見せると黒崎は目を丸くして頬を掻いた。

「おっ…そう言われればそうだね。同じ年くらいだといいなと思っていたからつい」

「気持ちはわかるけどな」

実はこの病棟は大人が多い。俺達のような成人間近の微妙な年齢層は限りなく少なかった為、黒崎は新しく入院する患者の情報を聞き取ると何時もこの様な事を言うのであった。

「ところで、だ。気分はどう?」

俺の寝台に腰掛けると眉をひょいと持ち上げて尋ねた。つまり落ち着きを待っていたのは天気ではなく俺の事だった様だ。

「…もうとっくに興醒めした。暴れても死ねないし、暫くは文字も書かないで治療に専念するよ」

じゃあ、と切り出した黒崎の言葉を遮る様に俺は起き上がった。

「でも外へは行かないぞ。二階堂さんにバレたら大変だ」

「…ちえ、雨の中大騒ぎするのもいいなと思って居たのにな…駄目かい?」

二階堂さんは俺達の担当医師だ。バレない筈が無いしずぶ濡れになって風邪を引くのは御免被りたい。

「せめて明日晴れていたら外で遊ぼう。今日は大騒ぎしていたら疲れた」

これは本当だ。反面、雨の中と言う一種の青春に興味が無いわけでは無いが自堕落故、そもそも動くのは億劫なのだ。

「なら仕方が無いか」

黒崎はため息混じりに呟くと自分の寝台へあがり、徐に脇机の中から本を取り出して適当な頁から読み始めた。

俺はそれに倣う様に両親から届いていた手紙を脇机から取り出して開くとゆったりと欠伸をする。

まだ定期診察までは時間があった。



どの位経っただろうか。俺が手紙を読み終え、返事を書いていると黒崎が本から顔を上げずに言った。

「ねぇ。この先の事って何か考えているかい?」

俺は走らせていたペンを止めると首を傾げた。

「退院後、って事か?」

「ああ。まともに生きていける自信ってどの位ある?」

正直に言うと何も考えられなかった。頭が真っ白になる様な漠然とした不安だけが残る苦々しさに顔を顰める。

「…無い。働いたり結婚したり、子供が出来たり同僚と飲んだり?した試しが無いことは想像出来ないだろうけれど、何とかやるさとも言えない。今ここまで来てしまったら次からは失敗を許されない気がして、どうにもお先真っ暗な気がしてる」

黒崎は視線を落としたまま目を瞬いた。彼は飄々とした態度が常だがこうしてなんの前触れも無く暗い印象へと自らを変えていく事が多々ある。

そういう時、一体彼は何がしたいのか何時も俺には判らない。

「俺は矢っ張り練炭がいいと思うよ」

「え?」

今度は俺が目を丸くする番だった。

「まだ諦めていないのか」

黒崎はパタン、とキレのいい音を立てて本を閉じるとそのまま続けた。

「何故本質的には独りぼっちな筈なのに自由は無かったのか。ずっと考えていた。可笑しいじゃないか、独りだったのに周りを気にしていたら自由にはなれなかった。上手く生きられなかった。俺達は此処を抜け出したらその後は『閉鎖病棟入院経歴有り』の印を押されてしまうだけだ、其れはこの矛盾に拍車を掛けるだけだろう」

「…何が言いたい?」

黒崎は口角だけを持ち上げた。

「君が先刻暴れた時もそうだった。ね、此処に居る限り俺達は生き苦しさに耐えるしかない。だって先生達は皆生きる事を説得するし、此処はそういう場所だから」

ぽつり、ぽつりと然し芯の通った声で黒崎は呟いていた。だが自虐の様な笑みを湛えていて下手をすれば消えてしまいそうだ。

俺は黙って聞くことしかできなかった。まただ。

彼を独りぼっちへたらしめるのはこういう所だ。俺は意思を汲み取る事が出来ずに、彼の思考を独り歩きさせてしまう。黒崎は何時でも俺を留めてくれていたのに。

「どんな治療もカンセリングも意味が無い。俺が求めたのは改善ではなく逃げの一手だったから。…其れが死だったのに。ここは地獄だ、保証されているのは飯と寝床だけだ。俺はもうこんな想いは沢山なのだよ」

「…生きる事が苦痛なのに其れを強要する尽くに呆れているのか」

そっと言葉を絞り出した。

「生きていればいい事があるだとか、死んだら全て終わりだとか、一体どんな夢を見たらそうなるのだろうね?いい事があった試しが無いのに、終わらせたいのに」

彼は外を眺めながら寝台の上で膝を立てると頬杖をついた。

「可笑しいと思わないか?いつ誰が一体俺に『生きていいよ』と言ったんだろう、誰も言わなかったのに一人残らず繋ぎ止めようとするだなんてさ」

承認欲求に当て嵌るのかな、と黒崎は続けるとやっと目線を俺の方へと向けた。

口元に手を当てたまま此方を見ている。

「…ところで、ずっと気になって居たんだけど」

「なんだ」

「文字は暫く書かないのではなかったのか?手紙書いてるけど」

「………はな、しの………流れ……」

黒崎は先程迄の暗い話題をぶち壊す様に、然し至って真剣な面持ちだ。彼自身の心の闇はこうして彼自身によって相変もわらず有耶無耶にされてしまう。

彼は何があっても自分の本心を最後の最後には濁してしまうのだ。

孤独たる所以はこうして自分から他者と距離を取ってしまうところにある。勿論、彼自身も其れは承知していた。

「…手紙はいいんだ、揚げ足を取るな」

「あぁそうなの」

打って変わってからかうように笑っていると彼に後ろめたい気持ちもあるが手紙は忘れていたから早めに返さないといけないのだ。仕方が無いのだ。



また此処から雑談を交えるようになり、雰囲気が幾らか登り坂を往く頃、看護師の柊さんがやってきた。それぞれ診察室へ向いカウンセリングを受けるのだ。

「二人とも起きてらしたのね。さ、お時間なので行きましょうか」

黒崎は耳にかけていた髪の毛を解くと今までより一回り元気な声で返事をした。


「…はい、今行きますね」


彼はこの先誰がこの病室へ来ようと、何が状況を変えようと、独りで孤独を知りながら嘆き、収拾のつかなくなった沢山の思考達を頭の中でぶつけ合いながら死を目論むのだろうか。


雨が一層濃くなっていく様だった。

最後まで目を通して頂きありがとうございました。

死にたがりによる自己満足の拙い文章でした。

文節や誤字脱字には気をつけておりますが万が一不備がございましたら申し訳ございません。

助言や感想等も良ければご教示ください。

一応漢字を滅多遣いしているのでパッと見で疑問符が飛びそうなものはここで紹介させて頂きます。

何時も=いつも

此処=ここ

寝台=ベッド

宥め=なだめ

偶に=たまに

竦める=すくめる

熟々=つくづく

其れ=それ

畏れ=おそれ

脇机=ベッドサイドテーブル

嵌る=はまる

迄=まで


他に読めない漢字など御座いましたらお教えください。お粗末様でした。

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