RXー7 FD3S
いつの時代でも、人を惹きつける車がいる。そうまさに目の前にあるその車がそうであった。
神奈川県 アパート
「車の引き取り?」
朝母親からの着信で起こされ寝ぼけながら聞く
「そう、お父さんの遺品。私も全然知らなかったけど・・・隠れて車持ってたみたい」
「へぇ・・・んで、ここから近い私に白羽の矢がたったわけ?」
「ごめ~ん、お願いできる?」
私はこの春から、地方から上京し、都内に通う大学生だ。
父親は2年前に病気でなくなった。それがどーいう訳か神奈川のとある車庫を借りて車を所有してたらしい
なぜ今になってわかったか?それが実家に車検の通知の手紙が届いたそうで・・・
神奈川 とある車庫
「ここね・・・ってシャッターかかってるし、鍵も・・・どーすればいいのよ」
「おや?君が七海さんの娘さんかな?」
後ろを振り返ると作業服をきた男性がいた。30代ぐらいだろうか・・・
「僕は黒川、よろしく。君のお父さんとは友達でね・・・まあ、亡くなったの知らなかったけね・・・」
「ああ、初めまして七海結花といいます・・・もしかして車屋の・・・?」
「うん、君のお父さんの車の面倒を見ててね。まあしばらく連絡こないな~って思ってたらこれだよ。
君のお母さんから連絡がきてビックリだよ、えーと・・・鍵は、おおこれだ。」
黒川さんはシャッターのガキをを開けながら言う
「可能であれば、買取か処分してくれって言われてね・・・でもまあ、これに値をつけれるかなぁ・・・よっと!」
シャッターが開く、瞬間息を呑む・・・なんだこの圧倒する雰囲気・・・車のことは全然わからない・・・せいぜい免許を持ってるぐらいだ。
そんな私でもわかる・・・この車は普通じゃない・・・魅力的であまりにも危険な・・・
黒川さんは、ドアを開けキーを回す、一発でかかるエンジン・・・車庫に響くエキゾースト
「やっぱすげぇな・・・2年近く放置してもかかるとはなぁ・・・」
手に胸をあてる・・・気分が高揚する・・・なんなのこの車は・・・
「わかるようだね・・・やっぱ親子、同じ遺伝子を持ってるというか・・・なんなら運転してみるかい?」
まるで悪魔の囁きのように聞こえる、もしこの車を運転したら今の自分の日常が失う自分の直感がそう思わせる。
そして、抑えられない・・・この車を自分の物にしたいという欲求が。
「この車って・・・なんて言うんです?」
「マツダ RX-7 FD3Sだ」
深青の体を持つ、FD3S・・・この車の出会いは偶然か、宿命か、必然だったのか・・・
数ヵ月後
首都高 都心環状線 C1内回り 午前2時
一般車両が少なく、ガラリとする環状・・・そこに結花とFDは走っていた。
非常識な速度、荒い路面で揺れる車内、コーナーが近づくと一気にブレーキング・・・ヒール&トゥをかましてギアを合わせてエンブレもかける
「うぅぅ・・・」
鳴るタイヤ、結花の体にGがかかる。
体内の液体という液体がシェイクされる感覚、そして高騰する血と気分。
結花は走りの虜になっていた・・・歪で間違えているとわかっていながら・・・
神奈川 黒川自動車
「おお、帰ってきたか・・・」
ドッドッドッドッというリズミカルなアイドリングを鳴らしながら、FDが帰庫してくる。
「まだ、起きてたんですか黒川さん。」
「ん・・・まーね・・・」
リトラクタブルライトを閉じ、フォグランプを消し・・・エンジンを止める・・・
水温、油温、油圧、排気圧、バキューム計の追加メーターの針が降りる。
FD3S・・・ぱっと見は普通の濃い青色のRX-7、フロント、サイド回りが純正とやや異なり仕様
車の中は追加メーターが埋め込められている
「しかし、よくこの数ヵ月で乗れるようになったね・・・最初、全然ぺーぺーだったのなぁ」
「教える人がよかったからじゃないんですかね?」
「やっぱ、君の父親と同じだね。あの領域とこの車の虜になってしまった。」
「惚れ込むのいいことさ、ただね・・・少しラフな感じが気になってね。」
「お説教の為に起きてたんですか?」
「いや、ちょっと忠告かな・・・連日走ってるとなると他のドライバーの目に写ってるだろうし・・・たぶんね、君を狙う相手が出るかもね。」
「?」
数日前 黒川自動車
基本的に軽自動車や、コンパクトカーの中古車を扱う自動車屋
そこに一台あまりに不釣り合いな車・・・35R日産GT-Rだ
「雑誌屋ね・・・なんでうちに?ここはホラ、こんな車しか扱ってないしがない車屋だけど?」
黒川の事務所・・・もといプレハブ小屋に黒川と若い女性
「黒川さんが個人的に所有してる車に用があるんですよ。バニシングロータリーと呼ばれたRX-7を」
「・・・なんのことかな?おれの車はあそこに止めてる初期型の黒いスイフトだけだぜ?」
「いやいや、隠さなくていいですよわかってますから。ここに青色のべらぼうに速いFDがあるって首都高を走ってる人間なら結構聞くんですよ」
「もし、そのFDがもっていたとしてだ。それがなにか?」
「出来るなら、譲ってもらえないでしょうか?私達モーターストリートに」
モーターストリート・・・車雑誌の中のひとつであり、おもに改造車メインだが・・・一番の目玉企画
チューンドカーによる峠バトル、群馬のサーキットで行う企画だ。
黒川はその企画で使うだろうなと思ってはいた。
「悪いけど、どんな大金を叩かれようが譲る気はないし、あんたら雑誌屋に貸す気もない。」
「んぐぐぐ・・・」
大層困った顔をしていた、大方譲ってもらえる前提で企画を既に立てちまったのかな・・・
うーんしかし・・・割と可愛い子だ、そんな子にネタを一つも持ち帰らないのもあれかな。
「ところで、あの35R。ありゃメーカー保証外の物じゃないか?ホイールとかもそうなるとリミットを切ってるな。あんた首都高、環状線お得意かな?」
「え?」
一瞬キョトンとした表情になったが、なんとなく真意を読み取ったようだ
「こう見えても、環状線に自信がありますよカメラの位置、コーナーのギャップも覚えてるぐらいに
現在 黒川自動車
「そんで、私が受けて立つということなの?」
もらったドクターペッパーをすすりながら、ぐーたらに言う結花
「派手にやれとは言わねーよ、別に勝ち負けとかじゃない見せてやるんだ君とそのFDを。」
「でもねぇ・・・」
「勝負できるほど君は上手いわけじゃないし、なにせ相手は現行のGT-R。本来対等な走りになるわけがない」
「というか忠告じゃなくて大体黒川さんが悪いんじゃ。」
「それを言われると耳が痛いが、反省はしない」
腕を組んでドヤ顔で語る黒川
「それなら、黒川さんが乗って走ったほうがいいんじゃ・・・」
実のところ、書類上は黒川がFDを所持していることになっている だが・・・
「いや、僕は持ち主であって乗り手は君だ。乗り手の君とFDの走りを見せることに意味があるんだから。」
走り合うことで見える、語れる事がある。それが命を掛けであればあるほど・・・まさに狂気の領域だからこそ・・・