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血と暴虐に飢えた狼

 危険が去ったところで、アデルは隠れていた2人に声をかける。

「生きてるか?」

「は、はい」

 二人はガタガタと怯えつつも、アデルの問いかけにうなずいた。

「で、何しようとするところだったんだ?」

「え、……それは、あの」

「その革袋。中身は、誰なんだ?」

「う……」

 看破され、二人は顔を見合わせた後、大人しく白状した。

「ひ、昼間、そこの姉御に右手を潰された奴だ。あの後、死んじまって」

「あれだけで?」

「い、いや、……あんたらに逃げられた後、すぐに俺たちのボスが来て、とどめを刺したんだ。『役立たずはいらない』って言って」

「ふーん……、なるほどな」

 続いてアデルは、遠くに見えていた給水塔を指差す。

「で、あそこに吊るすつもりだった、と」

「な、何でそれを?」

「簡単な推理だ。あの給水塔から放射状に、ちょうどこの荷車と同じ幅の轍が、いくつも延びている。

 んで、給水塔の足元には妙に黒ずんだ泥だまりだ。これで誰かを何人も運んであそこに吊るしてると分かんないようじゃ、探偵とは言えないな」

「え……?」

 これを聞いた二人も、エミルも、一斉にアデルへ振り向く。

「昼間こいつらが捜してるって言ってた探偵って、……まさか、あんただったの?」

「いや……、それとは多分、違うと思うぜ。俺がこの町に来たのは偶然だよ。本当に『デリンジャー』を追ってのことだし。

 ま、それはともかくとして、確かに俺は探偵だ。東部のパディントン探偵局から来た、正真正銘の探偵さ。賞金稼ぎはその業務の一環ってわけだ」

「ふーん……。

 それなら昼間の約束って、あれはどうするの?」

「どう、って?」

「『デリンジャー』の懸賞金よ。勝手に折半にしていいのかしら、って。後であんたの雇い先から、あれこれ言われたりしない?」

「ああ……、業務上やむを得なきゃ、人の手を借りてもいいとは言われてるしな。

 どの道、懸賞金を手に入れても俺の懐に入るわけじゃない。給与としてほんの数分の1、入ってくるだけだし。

 半分と言っても4000ドル、大金だからな。局も納得するさ」

「ならいいけどね。……で、正義の味方なら、今ここで行われようとしてたことについて、何か言うことがあるんじゃない?」

「そりゃ、勿論。これは明らかに私刑リンチだ。出るところに出て告発すれば、実刑は免れない。……ちゃんと保安官のいる町ならな」

「……」

 アデルはそこで言葉を切り、「ライダーズ」たちをにらむ。

「な、何だよ?」

「聞かせてくれないか? この町にはなんで保安官がいない? 何故、こんな私刑がまかり通ってるんだ?」

「……『ウルフ』だ」

 二人は恐る恐ると言った口ぶりで、この町に起こった凄惨な出来事を語った。




 このパレンタウンと言う町は、ほんの2年前までは穏やかな、しかし活気のある町だった。

 しかし町にあるうわさが上ったことを境に、それまでの平和は終わりを告げた。とびきりの無法者として名高い、あの「スカーレット・ウルフ」が潜んでいると言うのだ。


「スカーレット・ウルフ」は、元は南軍の下士官であったが、歳はなんと、現在においてもまだ、30半ばにもならないのだと言う。

 相当若い頃、まだティーンであろう頃から既に並々ならぬ才覚を発揮し、各地で獅子奮迅の活躍。一時期は英雄ともてはやされたが、やがて彼自身の欠陥――極度に残忍で、感情がたかぶると仲間にさえ銃を向ける見境の無さから、彼は軍を追われることとなった。

 その後、彼は西へ西へと流れ、その行く先々である、奇妙な行動を執るようになった。それは言うなれば、「己のカリスマ性と破壊衝動の、執拗な誇示」であった。

 町へ密かに侵入し、そこで若者たちを惹きつけ、惑わし、己の忠実な兵隊に仕立て上げ、やがては町をその私兵によって制圧し、その私兵もろとも破壊する。

 まるで寄生虫のような所業と、それでもなお信奉される不可解な神秘性から、やがて彼は「狼」と呼ばれるようになった。


 その「ウルフ」が、このパレンタウンに現れたのだ。

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