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サルーン・ミーティング 1

 サルーンに戻り、共にカウンターに座ったところで、アデルが話を切り出した。

「そんで、だ。実はさっき、『デリンジャー』じゃないかってヤツを見付けたんだ。つい、さっきな」

「ふうん……?」

 と、グラスを磨いていたマスターが苦い顔をする。

「『デリンジャー』と言うのは……、あの『デリンジャー・セイント』ですか」

「ご名答。曰く、無差別に人を殺して回り、さらには死体の胸に十字傷と、『この者は行いを欠いた信仰である』とか、ワケ分からん文章を刻んで立ち去るとか。

 ゾッとするほどイカれた野郎だ」

「聖書にある言葉ね。本来の文章は、ヤコブの手紙第2章17節、『信仰は行いを欠けば死んだものである』よ。

 死体だからつまり、『行いを欠いた(動かない)信仰』ってことなんでしょうね。聞くだけで吐き気がするわ」

「全くです。……そんな話をされると言うことは、まさか」

「ああ。この町に来てる」

 これを聞いて、マスターは顔をしかめた。

「本当ですか」

「ああ。ついさっき、いかにもそいつだろうってのを見た。恐らく今晩、犠牲者が出る」

「なんと……」

「だが心配するな。犠牲者はほぼ間違いなく、『ウルフ・ライダーズ』の連中さ」

「え?」

 一転、きょとんとした顔をしたマスターに、アデルはこう続ける。

「その『ついさっき』ってのが――ミス・ミヌーも一緒に連れて来られた――保安官オフィスでの詰問だ。

 そん時に見たんだ、『デリンジャー』を」

「……そうね。確かにあたしも見たわ。でもそれだけで、あの人がそうだって証拠になるかしら?」

「なーに、俺の目はごまかされちゃいない。あいつで間違いない。

 そんなわけで、だ。今晩に備えて、今日は早めに……」

 アデルが言いかけたところで、エミルは席を立つ。

「マスター、一人部屋って2つ空いてる?」

「2階にございます。一泊、1ドル25セントです」

「じゃ、そこ借りるわ。こいつはもういっこの部屋ね」

「かしこまりました。こちら、鍵です」

「ありがと」

 ニヤニヤと目配せをするアデルを一瞥し、エミルはすたすたと2階への階段へと歩いて行く。

 その手前で彼女はアデルに振り向き、にこっと笑って見せた。

「それじゃ今日は早めに寝るわね。おやすみ、アデル」

「……ああ、おやすみ。夜9時には起こすよ。晩メシ、食うだろ?」

「ええ、お願いね」

 そのまま階段を上がるエミルを見送り、それからアデルはため息をついた。

「あーあ、あしらわれちまったぜ」

「金さえ払えばデートでも何でも請ける、と仰っていましたが」

「はは……、そいつが俺に払える額かは、別の話さ。

 それじゃ俺も寝るとするか。マスター、鍵を」

 アデルも鍵を受け取り、2階へと上がった。




 そして時間は経ち、夜の10時――。

「よいしょ、……っと」

 昼前にエミルたちを拘束した「ライダーズ」たちがこそこそと、革袋を荷車に乗せて運んでいた。

 中身は昼前まで、自分たちの仲間だったものである。

「こいつも災難だったよなぁ」

「まったくだ。……同情なんかしねーがな」

「確かにな。あの女にいらねー挑発したのもこいつだし、グラス投げ付けられて鼻血噴いたのもこいつ。滅多やたらに拳銃振り回して右手が千切れ飛んだのもこいつ。

 ……結局、自業自得って奴だ」

「兄貴じゃねーが、役に立たない上に使えない奴だってのは、確かに言えるぜ。

 今だってこうやって、俺たちの手を焼かせてんだからな」

「違いねえや、ははは……」

「ひゃひゃひゃ……」

 とても死体を運んでいる最中とは思えない陽気さで、彼らは荷車を運んでいた。


 その時だった。

 ポン、と乾いた音が、裏路地に短く響く。

「……なんだ?」

 誰からともなく発せられたその問いに答える代わりに、一人ががくんと膝を着いた。

「どうした、……!?」

 突然うずくまった仲間の右耳が、どこにも無い。

 そこに空いた大穴からは、ドクドクと赤黒い血が噴き出していた。

「な、な、なん、っ……」

 叫びかけた仲間も、同様に膝を着く。彼もまた同様に、いつの間にか左耳が弾け飛んでいた。

「う、撃たれた……!?」「一体、どこから……っ」

 残った2人はただ右往左往するばかりで、拳銃すら取り出せないでいた。

十分な資料が無いのでざっくりとした換算ですが、

19世紀後半~19世紀末頃の1ドルの価値は、おおよそ5,000円程度だったと思われます。

そのレートで言うと、宿代は大体6,000円強くらい。

カプセルホテルよりは多少いいかな、くらいのグレードでしょうか。

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