事件の終わりとコンビの誕生
事件解決から一夜が明け、ふたたびサルーン内にて。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!? じゃあ局長、俺たちより先に『ウルフ』が行商人だって分かってたんスか!?」
アデルと、そしてエミルの二人は、パディントン局長から今回の事件のいきさつを聞かされた。
なんとエミルたちが訪れるよりもっと早く、局長は「ウルフ」の当たりを付けていたと言うのだ。
「ああ。しかし残念ながら、町長を含めて4名もの犠牲者を出してしまうとは。
わたしがここまで出張っていながら、とんだ失態を演じてしまったもんだよ」
「そうね。名探偵とは言い難い成果だったわね」
エミルの言葉に、局長は顔をしかめる。
「うーむ……。いや、言い訳するわけでは無いが、あいつも短気過ぎたんだ。
娘から突然、『ウルフ』と結婚したいから、なんて言われたもんだから、あいつは『娘を獲られるくらいなら』って怒り狂って、一人でライフル片手に乗り込んだそうなんだ。
歳を考えろ、ってもんだ。60過ぎたじいさんが一人でのこのこやって来て、30はじめの若造に敵うわけが無いと、誰でも分かるだろうに!
しかも、わたしがこの話を聞いたのが、もう死んだ後だったんだ。どうしようもできなかったんだよ、本当」
「一体誰から?」
「半分は『ウルフ』の供述からだが、もう半分はあいつの娘からさ。今頃になって謝りたいと言っていたが、……何もかも遅過ぎたわけだ」
「有名なパディントン探偵局のやった仕事にしちゃ、案外ずさんなもんね」
そう返したエミルに、局長は肩をすくめる。
「とは言え解決はした。『ウルフ』は捕まえたし、『ライダーズ』も解散した。懸賞金もちゃんと出る。成果は挙げられたものと判断している。
ミス・パレンバーグも悲しんではいるが、父親の遺産はかなり大きい。この先も問題なく生きていけるだろう。
あのディーンとか言う若者も、仇討ちができたから良しとしてるしな。恐らくこの町に残るか、どこかの町に流れ着くかして、後は平和に暮らすだろう。
犠牲は多かったが、一応解決できたわけだ。……と、そうだ」
急に局長が、表情を険しいものに変える。
「ネイサン、君は局に8000ドル上納するところを、4000ドルでごまかそうとしていたね?」
「う」
痛いところを突かれ、アデルは苦い顔をする。
「いや、別に構わんさ。君がわたしの目の前で言ってたように、4000ドルもそれなりの大金だからな。事情も知っているし、その点は不問にしておいてもいい。
しかしその補填に『ウルフ』を狙おうと言うのは、ちょっとばかり粗忽な作戦じゃあないか?」
「仰る通りで……」
赤面するアデルに、局長はこう続けた。
「君は頭は悪くないが、一人じゃあ突拍子もない、無茶な真似ばかりする。誰かにお目付け役を頼んで二人組で行動した方がいいと、わたしは思うんだがね」
そう言ってから、局長はエミルの方に目をやった。
「……え? 局長さん、それってもしかして、あたしにってこと?」
「傍で見ていた限りでは、なかなか相性は悪くない感じだったよ。悪くないコンビだ。
どうだろう、ミス・ミヌー。うちの局で働いてみないかね?」
「お断りよ。誰かに縛られるのは嫌いなの」
ばっさり言い切ったエミルに、局長はこう返してきた。
「うちで働けば、色々お得なんだがねぇ。
給金はきっちり出るし、旅費も出す。ひもじい思いを全くせずに、好き勝手に放浪ができると思えば、悪くない話だと思うがね。
君は口ではイギリスで隠居したいとか言っていたが、まだまだ今のところはこの自由の国、期待にあふれる大地を、勝手気ままに歩き回りたいんじゃあないかな?」
「……」
これを聞いたエミルは、何も言わずサルーンの外に目をやる。
しばらく間をおいて、エミルは目をそらしたまま、尋ねてきた。
「一つ、聞いていいかしら」
「いいとも」
「お給金、いくらかしら?」
「月給で52ドルだ。いい仕事をすれば昇給もあるし、ボーナスも弾むつもりだよ。積立金もあるから、長く勤めてくれれば本当に、イギリスでの隠居もできるだろうね」
「……そ」
それから10分ほど後、局長が作ってくれた朝食を平らげる頃になってから――エミルは結局、この打診に応じた。
この、エミル・ミヌーとアデルバート・ネイサンとの出会いが、後に様々な探偵譚を生み出すこととなるが――それはまた、別の話である。




