表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

無法の荒野

 ゴールドラッシュからは三十数年――そして戦争からも十数年が経ち――西部は少しずつ、落ち着きを見せようとしていた。

 だが、軍や教育、経済や法整備が充実する東部とは違い、西部におけるその落ち着きは、中には暴力と圧力――即ち「無法」によってもたらされるものもあり、それは到底、平和と呼べるようなものでは無かった。




 その町もまた、今まさに無法によって支配されようとしていた。

「う、……ぐ……」

 町の裏路地で、老人が一人、胸を押さえてうずくまる。しかし胸を覆ったその両手の隙間からは、ボタボタと赤い血が流れ出している。

 致命傷を負ったのは明らかだった。

「……こんな……ことを……して……っ」「どうなるって言うんだ?」

 うずくまる老人の周りに、若く、しかし汚い身なりの若者たちがぞろぞろと現れ、彼を取り囲む。

「アンタはここで死ぬ。遺った娘は今アンタを撃ったあの、『ウルフ』の兄貴のものになる。そしてアンタの金もだ」

 この台詞に、その老人はさぞ悔しがるだろうと、若者たちの誰もが思っていた。

 ところが――老人は額に脂汗を浮かべながら、引きつったように笑って見せた。

「……く、くく、くっ」

「何がおかしい?」

 老人は口からびちゃ、と血を吐き、続いてこう言い捨てた。

「くく、ぐっ、ゲホッ、あいつの言った通りだったからだよ……!

 やはりあの、あのっ、あの若造が、……ゲボッ、『スカーレット・ウルフ』だったか! やはり、あ、あいつは、……間違っていなかった!」

「……なんだと?」

 老人を撃ってから今まで、ずっと黙っていた青年が、そこで口を開いた。

「『あいつ』ってのは誰だ?」

「ふ、ふふ、ははは……、言うものか!

 ゴホッ、お前に娘はやらん! 遺産も、町も、何一つな!

 わしは既に東部から探偵を呼び寄せ、密かに探らせていたのだ! もしわしが死のうとも、彼ならお前にしかるべき制裁を下してくれるはずだ!

 地獄で待っているぞ、『ウルフ』! 絞首台からそのまま、わしのところへ落ちて来るが……」

 老人が言い終わらないうちに、青年は彼の頭にもう一発、弾を撃ちこんでいた。

「うるせえ、ジジイが……ッ!」

 青年は銃を納め、手下の若者たちに命じる。

「吊るせ。いつものところにだ」

「アイ・サー」

 頭の後ろ半分が無くなった老人の体を4人がかりで担ぎ、手下たちはその場を後にする。

 残った「ウルフ」は地面に残った血の跡を、ブーツで砂を蹴ってまぶしながら、こうつぶやいた。

「『彼なら見抜くはずだ』……? 誰なんだ、そりゃ?」

 地面の跡が血とも泥とも付かなくなったところで、「ウルフ」は町の方へと顔を向ける。

「ここで俺が『スカーレット・ウルフ』と町の奴らに知れちゃ、全部水の泡だ。

 東部から来たって奴……、そいつを捜さねえとな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ