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王子と小人

今更ですがRタグ付けました。

「……霧が出て来ましたね……」

 森の中を探索中に、ハインリヒが何気なく独り言ちた、次の瞬間。

「ん……? は、ハインリヒ、霧が……」

 王子が狼狽えるのも無理はありません。

 ハインリヒがふと気が付いたその霧は、不自然な勢いで濃さを増していくのです。

「王子、離れないで下さい!」

 自分で言いながら王子の手を取り、ハインリヒは不自然極まりない霧の中で神経を尖らせます。

 義叔父が使う諜報員達はともかく、このヘタレ王子からは目が離せません。王子が蛙になってから、なおさらそう考えるハインリヒです。

 面倒臭いから放置したいのが本音だとしても。

 そして――その濃い霧はやがて、綺麗さっぱり嘘のように晴れていきました。ええ、ものすごく不自然です。

 ですがハインリヒが眉を寄せたのは霧に対する不自然さよりも、霧が晴れたそこに突然現れた小屋のせい。

 諜報員達が確認し、そして今の今まで探していた、あの小屋です。

「……これですか?」

 まさかと思いながら彼等に問えば、黒ずくめの面々も呆気に取られつつもこくこくと頷きます。

「で、でも、一体、何が、どうなって……」

「若が言っていた妖精の乳母の仕業だとしても、何が目的で……」

「さて、それは定かではありませんが……む?」

 ハインリヒがそれ(・・)に気付いた時には、向こうも彼等に気付いていました。

 その結果、

「王子、こちらへ」

「わひゃ!?」

 ハインリヒは素早く王子を自分の背後に隠し、諜報員達はそんなハインリヒも込みで二人を守るように周囲を固めます。

 ほぼ同時、四方八方から襲い来る、狼の群れ――

 ですが。

「お座りっ!」

『きゃわん!!』

 ハインリヒの一喝で、野生の本能は相手の格を悟りました。


 出鼻を挫かれ、それどころか威圧されて、狼達はその場でぴるぴる震えます。

 ですが彼等とは違ってそれなりの「見栄」や「メンツ」を持つ小人達は、底知れぬ実力を感じさせる従者を前にしてもすぐには引き下がれません。

「……何者だ、てめぇら」

「ふん、どうせ青髭の子飼いの奴等に決まってるぜ!」

「姫さんは渡さねぇぞ!」

 小屋に戻って来た小人達は、結界で隠されているはずの小屋の周囲にいる見知らぬ人間達に、露骨な敵意と警戒を表します。何だか一人、やけに無駄な威圧感を放っている男がいますが――実際、その気迫で狼達は完全に委縮してしまっていますが。

 一方でハインリヒは小人達の口にした単語に、軽く眉を寄せました。

「……ふむ。どうやら彼等には色々と質問すべきことがあるようですね」

「し、質問……? ハインリヒ、それって……」

 拷問の間違いじゃないかとか思っているんでしょうね、この王子は。

 ……それ以前ですが。

「……あの女好きのことだ……姫さんは綺麗だから、前から目を付けてたに決まってる……」

「でも、でもまさか、本当に連れ去られるなんて……」

 ハインリヒが放った無言の恫喝によりあっさり膝を突いた小人達は、姫を匿っていることのみならず、青髭候との因縁をもぺらぺらと語りました。

 ところが今やその姫は、結界を作っていた妖精ごと魔女の手の内。

 姫も妖精もいない事実に、小人達は憤ります。

「頼むよ、旦那! そっちの坊っちゃんは、婆さんが言ってた王子なんだろ!? 未来の王妃様を助けてくれよ!」

「無論だ! 急ぐぞ、ハインリヒ!」

 王子もまた然り。

 しかし王子はいつものことですが、どうしてこの小人達まで当然のようにハインリヒを頼るのでしょうね。

 ……まあ、義叔父からも言われましたし、姫と確定した時点で保護するつもりではありましたが。

 諸々を溜め息一つで片付けると、ハインリヒは早速叔母夫婦に仕える諜報部隊に指示を出します。

「早急に青髭候の周辺を探りなさい。

 ただし彼の周囲には魔法使いがいると考えられます。くれぐれも注意するように」

『はっ』

 短く応じ、諜報部隊は瞬く間に木々の中へと姿を晦ませました。

 そして王子は、怪訝そうに瞬き一つ。

 美貌の王子ですので、首を傾げるその仕草自体は母性本能を擽りそうな、可愛らしいものですが――男のハインリヒに母性なんぞありませんので。

「魔法使い……? 青髭候は、そんな者まで飼っていると言うのか?」

「乳母殿が――妖精の名付け親フェアリー・ゴッドマザーが、庇護する子供を護るための結界を張っていたのに、それを突破して姫君を連れ去ったのです。それ相応の能力を持つ者がいることは、まず間違いないでしょう」

「……く……」

 あどけない怪訝顔が苦々しく歪められたのは、自分が蛙にされたことを思い出して、でしょうか。

 姫を捕らえたのはその魔法使いではありませんが、彼等は魔女の存在を知りません。それに魔法を使える者なんて、その辺にごろごろ転がっているわけでもありませんから、どうしてもあの高笑いをイメージしてしまいます。……ハインリヒの記憶には、情けない悲鳴をあげる姿もありますが、まあ、それはそれ。

「……姫……無事でいてくれ……」


 青髭城に軽やかな足音が響きます。

 敷地内にこびり付いた淫靡な腐臭には不似合いな、幼い少女のスキップ――そして鼻歌。

「ふふふ~ん☆ らんらんるらん♪」

「くうっ、この魔女が……!」

 あ、手に提げた鳥籠からも声がしますね。まんまと捕らえられた乳母妖精の金切り声が。

 重厚な調度品で飾られた古城にも似つかわしくない、平民の幼女の姿ですが、相手は年増の魔女だと言うことを、城に仕える者達も知っています。妖精に罵倒される幼女から、擦れ違う彼等はそっと目を逸らして。

 これまで城主が行って来た諸々からも目を背けていた者達ですからね。今更、この程度は。

「ただいま~☆ 侯爵様、見て見てー☆☆☆」

 城主の私室にも堂々と足を踏み入れると、魔女は手にした鳥籠を掲げます。

 一方の青髭候は、組み伏せていた女性から手を離さぬまま、物憂げに扉の方を振り向いて。

 ええ。何をとは申しませんが、真っ最中でした。

 堂々と入って来た魔女は、今になってわざとらしく「きゃあ☆」と手で目を覆います。

「……貴様、知ってて入って来たのだろうが。

 で? その様子では、巧く行ったのだな」

「うん☆☆☆」

 ドヤ顔で戦利品を掲げる魔女の姿に、昔飼っていた猫を何となく思い出した青髭候でしたが――まあ、それはそれとして。

 鳥籠の中の妖精は、寝台から身を起こした裸の男と、更に両手を縛られている女性に、「穢らわしい!」と憤ります。

 青髭候はそれを無視して、鳥籠の中を覗き――

「……ほお」

 動かぬ姫の美貌に、感嘆の吐息を漏らしました。

 その好色な視線から隠すように、妖精は自分と同じ縮尺の姫を抱き締めます。

 必死な保護者意識に、魔女は敢えて、

「どぉする? 今すぐ味見しちゃうー?」

「……いや、後でいい。

 元々その大きさ、ではないのだよな? 普通の牢に入れ直しておけ。育ちがどうであろうと王女は王女だ、ならば鎖に繋いだままにしておかんとな」

「ごめんその理屈解んない★

 でも、そー言うことなら、毒もちょっとだけ抜いておくわ☆ 莫迦力だからねー☆」

 ――かくして、姫は青髭候の手中に墜ちたのでありました。

弱体化してなかったら、姫は自力で牢破り可能。

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