第二幕 宵の街
さっきまで何処にいて何をしていたのかわからない。
右目が見えず、だだっ広い草原の中1人。
ただ、ヤバい状況であるという事だけはわかる。
「どうしよう…」
呟いてみても何も起きない事は分かっていた。
持っているカバンの中には携帯とペン何も書いてないメモ帳、それから大きめの勾玉。
ポケットの中には財布が入っていて、中には五千百五十円と紙切れが一枚。
紙切れには2つの丸がぶつかり合い、ゆがみ、ひび割れるようなイラストの上に×印が描かれていた。
「こんなもの持っていたかな…とりあえず、何処かに進もう。」
大体20分ぐらい歩いただろうか、丘のが見える。
「あそこからなら広く見渡せるかもしれない。」
丘を登ると遠くに街が見えた。
ただ、遠くから見ていてもわかるくらいその街はどこかどんよりしていた。
「なんか、嫌な予感しかしないけど他に何も見えないしな。」
街に着く頃にはすっかり夜になっていた。
さっきまでのどんより感は全くなく、とても活気があるように見える。
建物が多いのはもちろんだが、びっしりと色んなお店が並んでいる。
「そこの兄ちゃん突っ立ってると危ないぜ。そんなとこでボーっとしてないでウチの店に入らねぇか!」
酒場の兄ちゃんが客引きをしてきた。
「いや、少しこの街を見て回りたいんだ。」
「なんだい、この街は初めてなのかい?」
片手剣を腰に付けた騎士のような女性から声を掛けられる。
「そう、初めてなんだ。全て…
情報を集めたいから図書館のような場所はあるかな?」
「?…図書館はあるが、この時間はやってないから明日の昼間に来た方がいい。場所だけ案内しよう。」
図書館だと案内された建物は街の真ん中にある教会のような建物だった。
今すぐ入りたい衝動を抑え、今日の宿を確保しなければ。
「その眼帯…目が見えないのか?それとも何か黒魔術のような呪いか?」
「いや、わからない。間違いなく見えないんだけれど、そもそもここに瞳があったのかさえわからないような…そんな感覚なんだ。」
唐突に騎士様が聞いてくる。ずっと気になっていたのだろう。
「そうか、気の毒だな。まぁ、それより宿を案内しよう。」
「そうしてもらえると助かるよ。」
宿は少し遠いようだ。
宿へ着く途中何度かキラキラした小石のようなモノと不自然な水の音が気になった。
宿も賑わっていて人が沢山いる。
「お二人さんだね…おや!騎士隊長さんじゃないか!ついに一晩お楽しみかい?」
「なっ!そんなんじゃないよ!」
「あんたウブだから一生独り身なんじゃないかと心配してたんだけどねぇ…良かったじゃあないか!」
「そういえば、お金はあるの?」
「一応これだけなら。」
と、財布の中身五千百五十円を見せる。
「なんだい、これは。お金がないなら泊めてあげられないよ。1人許すと他の客にも広まっちゃうからねぇ。」
「分かった。とりあえず、ここは私が払おう。1人分頼む。」
あれはお金じゃなかったのか?…
「ごめん。これ以外は持っていないからいつか返すよ。」
「それは、いいよ。それより明日、もしくは明後日の夜、最初に見た酒場で会えないだろうか?」
「図書館で調べ物する以外は特に何もやる事はないから、大丈夫だけど…」
「良かった!お金の事は気にしないで欲しい。明日酒場の前で待ち合わせだ!」
そう言って彼女は去って行った。
とにかく、歩き疲れたし寝よう。
何も食べていないけれど、強い睡魔に耐えられずベッドに倒れこみすぐに寝てしまう。
翌朝目が覚め、部屋を出ると朝食のいいにおいがしていた。
食堂へ向かうとそこには料理が並べられているが、まだ誰もいない。
朝食を済ませ、図書館へ向かうと受付にも館内にも誰もいない。
それよりも、朝起きてから朝食を食べ、ここに来る間人一人見かけなかった・・・