血色の世界
とある時代、とある王女のお話。
大きなお城の最上階の奥の部屋、謂わば王室に、数人の兵士と家臣、それに玉座に座る国王がいた。しかし、王室の雰囲気はとても和やかと言えるものではない。そんな中、一人の兵士が切り出した。
「国王!!城下町まで敵国が迫ってきているのです!このまま何もしなければこの国は崩壊します!国王!!兵士の出動命令を出してください!」
その言葉を聞いても、国王は微動だにしなかった。この国王は今の今まで戦うことを善しとしなかった。
時代は国々が領地の拡大のために他国に攻め入り、戦争が絶えないそんな時代である。勿論このような状況の中で、「戦わない」という選択肢を選ぶことは自殺行為に等しい。それをこの国の頭は選んでいる。国民も兵士も不思議で仕方ない。
「国王!!このまま国が滅びれば領地だけでなく、王女までもが敵国に奪われてしまうのですよ?!それでもよろしいのですか?」
先程の兵士が国王に投げ掛ける。その言葉に国王は顔色を変えた。
敵国が、この国に攻める理由は簡単なものである。王女が欲しいからである。何故なら、この国の王女はこの世界で知らぬ者はいない、とされるほどの美人なのである。そのような女を世の兵士達が気に止めないはずがない。その為、国が堕ちれば王女は白のままではいられない。
「国王!!本当によろしいのですか?!」
兵士は必死に訴える。その声が届いたのか、国王が口を開いた。
「王女を…、王女をここに連れて参れ。」
数人の兵士が王室を出て行った。暫くすると、その兵士達が王室の扉を開いて入ってきた。その後に王女が入って来る。
一目見るだけで彼女が噂に聞く王女であると分かる。栗毛色の長い髪と、大きな瞳。透き通るような肌と、真っ赤な唇。この女性に命をかけて戦争をしている兵士達の気持ちが少し分かる、そんな女性である。
王女は、自分がここに連れてこられた理由が分からなかった。困惑する王女に国王はこう言った。
「姫よ。この国から逃げよ。」
その言葉に王女はよりいっそう困惑した。
「何故です!お父様!」
声を荒くする王女に、王室中がどよめいた。しかしそれ以上にその後の言葉に驚いた。
「私、この国が戦争に負けそうなことはよく分かっています。もし、自分だけが逃げてこの国が戦うと言うのであれば、私はお父様の言うことは聞けません!私も戦います!」
剣も握ったことのない王女が戦う意思表明をしたのだ。王室はよりいっそうどよめいた。
「それはならん!!!」
そのどよめきを一瞬で消し去る勢いで、国王が叫んだ。一同が言葉を無くした。
「兵士達よ、姫を逃がしてくれ。城の前に馬車がある。行き先は、行けば分かる。」
動揺を隠せない兵士達が、王の命令に従い王女を連れていこうとした。しかし、王女もそれに反抗する。
「離して下さい!何故です?!お父様!何故戦わないのですか!!」
暴れる王女を数人の兵士が取り押さえ、王室の外に運び出した。
「すまない…。」
国王は小さくそう呟いた。戦う決断は下せずとも、逃がす決断だけはできたのだ。
王女は二人の兵士が操作する馬車に乗せられていた。見渡す限りの草原であるが、空は今にも落雷が来そうな、そんな色をしていた。
「私を何処に連れていくのですか。」
お城で着ていたドレスのまま連れてこられた王女が言う。しかし兵士が答えるは、
「分かりません。」
それだけだった。
もう随分と走った。乗り心地が良くない為か気分が優れない。それに不思議なことに、城下町まで攻めてきている筈の敵国を見ない。自分の知らない道で城を出たのだろうか。分からない。
ついに雨が振りだした。屋根がある為、王女が雨に濡れることはない。しかし、雨だけではおさまらなかった。突如目の前を稲光が走ると辺りが真っ白になった。そして、激しい音と共に体が空を舞う感覚がした。意識はそこで途絶えてしまった。
王女が目を覚ますと、そこは空を木々が覆う暗い森の中であった。
久し振りの連載作品です。感想、意見等ありましたらお気軽に申し付けて下さい。




