悪魔族と水玉模様
今回相当長くなってしまいました……。
お気をつけてお読みください。
目を覚ます。
どうやらベッドに寝かされていたみたいだ。さっきのような草原ではない。
なんだ夢だったのか。
『夢じゃないよぉ、お兄ちゃん』
「うぉああああああああ!!」
「きゃああああああああ!!」
いきなり頭の中で響いた声にびっくりして飛び起きてしまった。同時に、誰かいたらしい。可愛らしい悲鳴が聞こえた。……って、まるで変態みたいな語り口だな、俺。
とりあえず一個片付けよう。悪いが目の前の少女は後回しだ。
「お、お前マリーかっ?てゆかいるのかよ、話せるのかよ!」
『やだなぁ。ずっとお兄ちゃんのお側、というか中にいますよぉ。そんなことより、目の前の女の子をどうにかした方がいいんじゃない?』
「ああっ、そうだ!えーと……君」
「は、はぃぃい!」
怯えている。怯えているよこの子。というかドン引きされてるようにも見える。
そりゃそうか。さっきまでベッドで寝てた奴がいきなり起き上がって大声で独り言呟いてんだから。
誰だって引くし、怖い。俺だって引く。
「ああ、その、驚かせてごめん……俺の名前は寺崎って言うんだけど、き、君は?」
どう足掻いてもキモオタだった俺からすれば大健闘だ。まあ、春樹のハーレム女子達とよく話してたし……人見知りしなくてよかった。
「私は、イナリ・タカミヤです。えと、その……テラサキさん、ですか?さ、さっきは……」
???
さっき?
「あ、パン……」
「さっきは、いきなり殴ったりしてすみませんでしたっ!」
言わせねーよ、と言わんばかりに重ねてきた。いや普通か、これは俺の失言。
ん、んん?しかし……
「いや……それは……」
「パ……下着を見られて、つい頭に血が上っちゃって……」
「いやいや!それ多分、じゃない絶対、見ちゃった俺が悪いから!」
「いえ、それでも魔法を行使するなんて……ホントにごめんなさい!」
「いや、そもそも俺が見なければよかった話で……すんません!」
「……ふっふふふ」
!?
なんかタカミヤさんがいきなり笑い出した。やだ、怖い!
「このままじゃずっと、終わりませんよ?」
そう言ったタカミヤさんは目尻に涙を浮かべて笑っている。どうやらなんらかのツボに入ってしまったらしい。
「はは……はははは」
なんだかおかしくなって、俺も笑ってしまった。いや、タカミヤさん優しくてよかった。この状況で俺が笑い出したら普通の女の子なら殴られてもおかしくないよ?
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5分後。
俺たちは、再び座って仕切り直していた。
「それでは、その……えっと、テラサキさん?あれ、テラサキ、というのがお名前ですか?」
「ああいや、本名はテラサキ・ユウカね。タカミヤさんの名前にあやかると、ユウカ・テラサキになるかな」
「なるほど……それでは改めて。ぶしつけな質問になるとは思うのですが、ユウカさん。あなたは、その……何の種族なんですか?」
正直質問の内容よりいきなり下の名前で呼ばれた事の方が衝撃があった。なんだ?異世界ならこんなもんなのか?てゆか異世界だよね?ここ。
「それは普通に、人げ……」
『それは違うよぉ、お兄ちゃん』
そこでマリーに止められる。
どうやら、彼女との意思疎通はわざわざ口に出さなくてもいいようだ。テレパシー、ってやつかね?
『どういうことだよ、マリー?てゆか結局お前はなんなんだ』
『もう!ちゃんと言ったでしょ?お兄ちゃんと一心同体……二心同体の悪魔だよっ!それと、彼女ーーーイナリちゃんには、悪魔族、って言えば分かってくれるよぉ』
悪魔族……不吉すぎるだろ……。
いきなり戦闘になったりしそうだしな。
だがしかし。
俺は彼女ーーーマリーを信じてみようと思った。確かに声は聞こえるし、俺の中に誰かがいるような感覚もある。それにまだ記憶に新しい自転車衝突事故……あの件で病院に行ったのは俺に宿ったマリーじゃないか?というかマリーだろう。確信がある。
「その……悪魔族だ。ただ、今までえーと……山奥にいたから、世俗には疎いんだ。出来ればいろいろ教えてくれないか?」
果たして、彼女の反応は……警戒でも、恐怖でもなく。
申し訳なさそうな、顔だった。
ん?申し訳なさそうな顔?
「ご、ごめんなさい……私、悪魔族の方を喚び出してしまうなんて……。その、本当にごめんなさい!」
「ん、んん?」
『マリー、どゆこと』
『ふっふーん。お兄ちゃんのいた日本の創作物には、基本悪魔族は悪い種族みたいに言われてたけど。こっちじゃ違うんだよ?悪魔族、っていうのは、私みたいなわるーい悪魔をその身に封じてる人たちのことを指すんだぁ』
『つまり……あれか?悪者ってよりも、人柱、みたいな感じか?てか自分で自分のことを悪者って言ってるぞお前』
『お、お兄ちゃん鋭ーい!それに、私が悪者だったのは事実だよっ』
なるほど……。変わってるな。いや、俺ももうこちら側?に来てしまってる訳だし、変わってるのは俺の方になるのか。
「その……俺は気にしてないから。今俺がどんなところにいる?とかどんな立場なの?とかそういうのを教えてくれないか?」
『お兄ちゃんってサラッと鋭い質問するよねぇ』
頭を下げていた彼女が、涙目で顔を上げる。泣くほど申し訳ないって……悪魔族はどんだけ人柱度高いんだよ。人柱度ってなんだ。
「今、ユウカさん……ユウカ様は、私の使い魔召喚に応じていただいて、契約をする前という状態になります。ここはレイベルト帝国の帝都にあるアイン魔法学院で、ユウカ様が元々どこにおられたのか存じませんが……契約を拒否なされば、元の場所にお戻り頂けます。」
「ユ、ユウカ様……いや、頼むからせめてユウカさんにしてくれ。そういう呼ばれ方、すごく落ち着かなくなる」
「す、すすすすすみません!」
慌てたように謝られる。まあこの世界の悪魔族がどんな立ち位置なのかよく分からない以上、これ以上は望むまい。
しかし、気になることも聞けた。
元の場所に戻れる。
ふむ。
『マリー』
『無理だと思うよ』
確認をとろうとしたらそう食い気味に返された。
『確かに通常の使い魔ならそれも可能だけど、お兄ちゃんは違う世界から来た。契約を拒否して、この世界のどこかに飛ばされたなんてことになったら、正直生きていられるか分からない。もし飛ばされなかったとしても、元の場所に戻らずここに留まったらそれはそれで、怪しまれる』
『ま、そうなるよな……だがしかし、だとしたら、この子ーーータカミヤさんは契約してくれるのか?どう考えても怯えさせてるんだけど。それに、その使い魔契約って破棄出来なさそうなんだけど』
『それは彼女に聞いてよぉ。私はなんでも知ってるわけじゃないんだからね?ただ……』
『ただ?』
『お兄ちゃんに渡した戦い方の知識。それがあれば、並の使い魔としては充分戦えるようになれると思うよ?もちろん、使いこなせたらだけどねぇ。元々、この状況を見越して渡したものであるわけだし』
『なんとかして、契約してもらうしかないか……』
つまり今の俺は、武器の使い方だけを教えてもらった状態か。知ってるだけじゃ、そりゃ使えないからな。
しゃーなし。交渉スタートか。
「あのさぁ…」
「は、はいいい!」
相も変わらず彼女は怯えている……。最初の和やかムードはどこへいってしまったんだマジで。
まず、タカミヤさんの緊張をほぐさないことにはなにも始まらない。このままだと、向こうが遠慮して契約できないなんてパターンもあり得る。
しかし……。
ふむ。
これは、すごい不本意な方法を思いついてしまったぞ?しかも成功するかどうかはもはや賭けだしなこれ。
てゆか普通に嫌われる可能性すら……。
ええい!キーワードは水玉!やるしかあるまい。和解エンドを狙っていくのは難しいだろうが、もうこれ以上考えるのもめんどくさいし、これでいく!
「い、いやータカミヤさん、それにしても今何歳?15とか16に見えるけど、多分そうなのかな?いやーしかしその歳で水玉はないっつーかぁ……」
ドスリ。
一瞬前まで俺がいた場所に拳が叩き込まれていた。
なにせ、女性の禁忌、年齢の話+下着の話である。やっべ、やりすぎた。緊張は解けるかもしれんが、このまま俺が溶かされる可能性すらある。
まぁ、やってしまったものはしょうがない。さぁ、ここからどうやって交渉するかね……。
というわけで、前回に引き続き説明回です。予定だと、あともう一回くらい説明回がありそうです。
退屈だとは思いますが……だってまだ悠花ちゃん魔法一回も使ってないし!
まあ、次回はそうゆう、魔法とかそんなんのの説明回だと思います。
ではでは。