掴む光と勇者様
光。光が見えた。
恐らく俺が生きている間は経験したことがなかったような暗闇の中をもがく。
あの光がなんなのかは分からない。ただ、掴まなければならないと思った。きっと、掴まなければ俺は……いや、俺の大事なものがなくなる。そんな気さえした。
もがいて、もがいて。
確かに、その手に、ぎゅっと、掴んだ時。
親友の声と。
『あなたの力は、絆の力……。無理をしろとは言いませんし、言えません。どうか、生き抜いて……』
そんな声が、聞こえた気がした。
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とじていた瞼をあける。
最初に目に入ったのは、白い床と、白い壁と、白い天井。
ゆっくりと立ち上がり、振り向く。
「ゆ、勇者様」
すると、少し緊張したような声が聞こえた。周りを見回す。
勇者様……ああ、もしかしなくても俺のことか。てっきり、悠花も一緒に来ていると思っていたので、周りを見回した時いなくて少し落胆した。……って、まるで本当にホモみたいじゃん、俺。
「勇者様」
今度は、しっかりした小さくない声で呼びかけられる。
あらためて、俺に声をかけてきた少女を見る。とても美しい……いや、まだ可愛いと言うべきか。あまりにも綺麗な金髪だった。
金髪の美少女。地球では少なくとも会ったことがない。二次元でならそこそこ見たけれど。てゆか地毛だよな?ここまでしっくりくるというか、自然な金髪を初めて見た。
「私の名前は、エレン。エレン・ライノス・クレイウォールです。クレイウォール王国第一王女で、勇者様を召喚させていただいた者です」
「ああ、俺の名前は石谷春樹。多分、こっち風だとハルキ・セキタニかな?で、その……ここはどこで、どんな状況なのか教えてもらうと助かる。あ、いや……助かります」
危ない危ない。このまま不敬罪だーブシャーって感じで殺されたりしないよな?
「いえ、くだけた口調で構いませんよ。話しやすいようにしてください。あなたは勇者様、なのですから」
そう言ってふふっ、と笑う。あまりにも魅力的すぎて、危うく秒速で惚れるところだった。
俺は別に、鈍感ってわけじゃない。自分の顔がまあ、その……女子受けするというか、まあイケメンでの部類に入ることは知っているし、勉強もそこそこ出来るし、スポーツも出来る。悠花にも、「お前、ハーレム作るの好きなの?」と言われた。が、違うんだ。俺はただ、決断出来ないだけ。
みんなが俺に好意を向けてきてくれていたのは分かっていた。だから俺は、きっと鈍感じゃない。
「それで、状況でしょうか。えぇと……最初から話しますね?」
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つまり、王女様ーーエレンが言うには。
この世界(世界?惑星?)には、俺が今いるクレイウォール王国、さらにレイベルト帝国、東方の国サイハテという三つの国があり、近々その三国からメンバーが選ばれ南の危険大陸、未踏領域への調査に乗り出すらしい。
それでまあ、ぶっちゃけた話、王国にはその戦力がないのだそうだ。六大貴族というのもあるにはあるのだが、公務が忙しくて基本手を離せない。まあなにしろ、一つの大陸が丸々王国らしいからな。そりゃ仕事も多いだろう。
六大貴族の子息を差し向けようとも、彼ら彼女らもまだまだ未熟。そんな折、王族に伝わる勇者召喚の儀が思い出され……って感じらしい。
「魔王を倒して……とかじゃないんだな」
俺は今、その俺をまるでついでのように召喚した王様への謁見に向かっている。
てゆか俺強くないぞ……無理じゃね?
今は一緒に歩いているエレンから一通り話を聞いたところだ。
「ま、魔王様を!?それは罰当たり……というか、無理だと思いますよ?」
「ん?どういうこと?魔王って、悪い悪魔の王様って感じじゃないの?」
てゆかいるの?それとこの城広すぎる……。さっき俺がいた白い部屋は地下だったらしい。まだ疲れたというわけじゃないけど、結構歩いているし、どれだけ大きいんだ?この城。
「いえ、間違ってはいないのですが……どう言えばいいんでしょう。少なくとも二千年前、人魔大戦の時はそうでした。ですが現在の魔王とは、人魔大戦で敗れた悪魔を封じた者たちの王のことを言います。悪魔を封じた人間族のことを悪魔族、と言うのです。ですから、魔王様という方は我々からすると凶悪な悪魔をその身で封じておられる尊敬すべきお方、ということですね。私はまだお会いしたことはないのですけれど……」
「なるほど…」
「あっ、着きましたよ!」
そんな話をしているうちに、謁見の間?に着いたようだ。綺麗な装飾を施された立派な扉の前である。
「では私のお父様……国王様との謁見です。でもハルキ様は異世界のお方ですし、私たちは呼ばせていただいた側です。あまり緊張なさらないでください。お父様もわかっています。」
「よし、分かった」
「では、行きますよ」
そう言ってエレンは扉をゆっくり開ける。
謁見の間?に入る時、俺は一緒に来たはずの悠花のことを考えていた。……まあ、大丈夫だよな?あいつなら、多分。そんなことを考えながら、俺は謁見に臨んだーーー。