回想と召喚式
「起きてーイナリ!……イナリー?」
「んぅ……んっ?」
体を起こす。もう朝ですか……。
目の前には、私を起こしてくれたであろうルームメイトのニーナ・アイン。綺麗な茶色の髪を短く揃えてる可愛らしい女の子だ。
また、ある一部分が私を大きく上回って立派に成長……まあ、そんなことはどうでもいいですけど……。
「おはよ、ニーナ。もう朝ですかー…?」
「うん、おはようイナリ。朝ごはん作っておいたから食べちゃお?」
「あー、ごめんなさい。明日こそは私が作りますよ」
「ふふふっ、別にいーよぉ」
あー癒されますねやっぱニーナは。朝から和みます。
私は枕元から羽の形をした髪飾りの付いたゴムを取る。それを使って自分の長い黒髪をポニーテールにして結わえた。
「おっ、今日はポニーテール?」
「あははっ、まあいつも適当ですから」
私はいつも髪型をこれといって固定しない。気分でちょくちょく変える。学友は大体髪型固定みたいですけどね……。
二人で朝食をささっと食べて、部屋を出る。ここはアイン魔法学院の女子寮だ。とても大きくて、中等部と高等部の二つがあるこの学院の生徒は大体住んでいる。
ちなみにアインの名前の由来は、今も隣を鼻歌交じりに楽しそうに歩いてる親友、アインの一族が代々学長を勤めているから。別に普通に学長じゃない時代もあったみたいですけど、創設者一族ということで度々お鉢が回ってくるみたいだ。
それにしても……。
「今日は一段と楽しそうですね、ニーナ?」
「うんっ!だって今日は使い魔の召喚式だよっ!どんな使い魔と契約出来るか、今から楽しみ!」
「やっぱり、それですか? でも確かに私も楽しみかも。私はなんか小動物みたいな子がいいなぁ……」
「どんな子でも、私は大歓迎だよっ!」
「ふふっ、それは召喚された子に言ってあげてください」
使い魔召喚式。それはこの学院の高等部に進学して1年目の学院生が経験する、大切な儀式だ。
もうどれくらい大切かと言うと、この使い魔召喚式は一生にかかわると言っても過言ではない。なにせ、これから生活はもちろん戦闘やなんかも共有していく"仲間"を召喚するわけだ。
今日ばかりはみんなも気合を入れてきてるみたい。
「あ〜楽しみだねぇ……」
「もうっ!気が早いですよニーナ!」
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学院に着くと、そのまま校庭に集合となった。どうやら朝からそのまま使い魔召喚式を始めてしまうらしい。
今日は使い魔を召喚したらそのまま流れ解散していいという旨を先生方から聞かされる。順番も自由みたいだ。
「説明は以上!これより並んで召喚を始めてもらうが、順番の取り合いなんて初等部みたいなことするなよ?そこらへんは先生期待してるからなー」
先生が終わるや否や、順番の取り合いが始まった。
うわぁ……しばらく行きたくないですねあれは……。
その時、さっきまで私の隣で話を聞いていたはずのニーナがいないことに気付く。
「あれ……?ニーナぁ!……もうどこ行ったんです全く……」
そう言って今も順番の取り合いが激しい召喚用の魔法陣がある場所を見直した。どうやらそろそろ最初に召喚する人が決まったみたいだ。
「それじゃあ、始めます!」
ニーナでした。
「えっ!?ちょ!」
驚く私を尻目にさっさと召喚を始めてしまうニーナ。魔法陣が淡く光出した。
「うおっ!まぶしっ!」
「えええええええええ!眩しすぎィ!」
どんどん光量が大きく(大きく?)なっていく。そのせいで、魔法陣の目の前で順番の取り合いをしていた人達が目を抑えて転げ回ってる。遠くにいた私はそこまで眩しく感じなかったけど、至近距離だとちょっと辛そうですね……。
ともあれこれで道も出来た。ニーナの召喚式はまだ続いてるみたいだけど、この隙に順番貰っちゃいましょう。
そう思って歩き出す。ちょうど私が並び終えた時、光がおさまって、そこには可愛らしい猫を抱いた可愛らしいニーナの姿があった。
「ニーナ」
「あっ!イナリ!ほら見て、可愛い猫だよぉ!」
そう言うニーナはホントに嬉しそうだ。
「おめでとうございます、ニーナ。ヘルキャットですか?」
「うんっ!名前はまだ考えてないけど、後で一緒に考えてくれる?」
「もちろん。いいですよ。じゃあ私も召喚式を済ませちゃいますね」
「頑張ってね、イナリ!」
ニーナに後押しされた私は、魔法陣の上に立つ。
ニーナのヘルキャット……可愛かったですね……。私も可愛い使い魔がいいなぁ……。
そう思いながら、魔法陣に魔力を流す。
と、魔法陣が輝き出す。あまりの眩しさから顔を腕で覆った。
徐々に光がおさまっていく。
さて、出来れば可愛い使い魔がいいですけど、そうでなくてもこれから一生を過ごしていくパートナー。
薄らと目を開けていく。
そして、視界に映ったのは魔法陣の上で眠る私より年上のような男の人。
「………………」
どうしたらいいんでしょうか……。
とりあえず揺さぶってみる。けど、全く起きない。もう保健室に運ぼうと決意したとき。
その男の人が目を覚ました。
あ、どうしましょう。とりあえず、一生のパートナー。種族を聞くべく、少し声をかけましょうかーーーーーー