夢遊病と自転車事故
俺の名前は、寺崎悠花、という。
てらさきゆうか。
いや、勘違いしてもらうと困るけど、別に俺は女じゃない。どころか、結構だらしない上にものぐさで、人並みに性欲もある男子高校生だ。
特段顔がいいわけでもない。
特段頭がいいわけでもない。
特段運がいいわけでもない。
運動能力だって並以下。
友達も少ないとは言わないけど多いとも言わない。
そんな俺がただの男子高校生じゃいられなくなったのは、四月の初め、まだ肌寒い日の夜であった。
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「おぉっ、寒っ」
時刻は深夜2時である。夜中に目覚めた俺、寺崎悠花は、渇いた喉を潤すためコンビニへ向かっていた。
冷蔵庫を眺め回したとき飲料類が一切ないことには絶望したが、夜桜を見ながら散歩するのも悪くない。
そう思って、このくそ寒い中眠い目をこすり上着を出して外に出てきた。
いや別にいいんだけどさ……桜綺麗だし。てゆかそもそもなんでウチの近くには自販機がないんですのん?
そういや自販機って買えるんだよね……それか設置するために業者が頼みに来るんだっけ?あれ電気代どのくらいかかってるんだよ……。
そんな馬鹿でとりとめのないことを考えていたせいで気付かなかった。
______目の前から走ってくる自転車。
どうやらライトを付けてないらしかった。らしかったっていうのは、もう俺が自転車に激突された後だから。
油断していたというか、気が抜けていたというか。自転車に呆気なく吹っ飛ばされた俺は、その時塀だか壁だかで頭を打ったみたいだ。
手から滑り落ちたケータイの画面が光った。
午前2時47分。
出来ればまた目覚めることが出来ますようにと祈ってから、そこで目の前が真っ暗になった。
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目が覚めたら、そこは知らない天井だった。真っ白な天井を見て、そしてわずかな薬?のような匂いをかいで、そこでなにがあったか思い出した。
「自転車に当たって病院に…って、貧弱すぎないか…?俺」
目を覚ました後ってどうすりゃいいんだ?そう思って色々眺めていると、ナースコールのボタンが目に入った。
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ナースコールのボタンを押してから、1分程で医者が来た。
別に美人でもなかったしナースも普通におばちゃんだったから特に言うことはないんだけど。
ただ一つだけ。
俺は、誰かに救急車を呼んでもらったとか、運ばれたとか、そんなんじゃなかったらしい。
どうやら、自分の意思で歩いてきて、救急入り口から入ってきたそうだ。
記憶がない……え、なにこれ怖。
頭にコブが出来た以外は特に異常もないらしく、結局自転車にぶつかって次の日には退院することになった。
ちなみに、自転車に乗った人は普通に逃げたらしい。顔も覚えてないから別にいいんだけどさ。