鬼ノ列 壱
もうすぐ七夕だね、とヨカが呟いた。
「それがどうされました?」
「んー。確か、その日に『鬼行列』が来るって、去年コンちゃんが」
「ああ、もういらっしゃるのですか」
社の縁側。
そこで、ヨカとギョウが並んで茶を啜っていた。
ヨカは、すこし汗を拭って息を吐く。
「お酒と漬け物を用意しなくちゃ。あと、障子を張り替えて、それから……」
対してギョウは、一切汗をかいておらず、涼しげな顔で言った。
「今年は、七夕に立ち会われないので?」
「うん、彦星ちゃんと織姫ちゃんは、天照ちゃんに任せるつもり。でも、あの子は夜更かし苦手だから、ちょっと心配かなー」
ケタケタと、ヨカは笑った。
周囲は、ジンジンと蝉の音が心地よく響いている。
「夏だねえ」
「夏ですねえ」
ヨカはうちわを取って、緩く胸元を扇いでいる。
「コンちゃん達、元気かなあ。早く会いたいな」
「ですなあ」
すぐそばの杉の木を見ると、マツリと天狗が木についた蝉を捕まえていた。
「天狗ちゃんもマツリちゃんも、元気でいいなあ。暑くてまいっちゃう」
「小川に涼みに行きますか?」
「そうだね、今度みんなで行こっか」
ヨカは少し笑って、
「ひとまず、七夕まてしばらく『名ノ神』のお仕事はお休み。ギョウちゃんも好きに遊んでていいよ」
「かしこまりました」
りん、と。
吊ってあった風鈴が、透明な音を奏でる。
「夏だねあ」
「夏ですねえ」
老人と神の、穏やかな溜め息が聞こえた。