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名ノ神  作者: 白紙
6/15

人ハ

彼女は、有名な武家の長女として生まれた。

生まれてすぐ、母親が急死して、父と祖父母に育てられた。


彼女は、まず何よりも先に「強さ」を教わった。

父は、刀を使った強さを。

祖父は、弓を使った強さを。

祖母は、女としての強さを。

相手を倒す、それだけを徹底的に教えこまれた。

武家に生まれたからこそ、沢山の「強さ」を叩き込まれた。


しかし彼女は、成長するにつれ、自分が疎まれていることに気付く。

理由は簡単、彼女は「女」だからである。

武家を継ぐのは、男。

しかし、生むべき母はいない。

唯一の子は弱い「女」。

彼女を見る目は次第にどす黒く染まっていく。


ーどうしてお前が生まれたのだー

ー弱いお前に興味はないー

ー家を継ぐのはいったい誰だー


誰も彼女を望まない。

誰も彼女を理解しない。


ーお前なんて、生まれなければ良かったのにー


彼女を突き刺す視線は、次第に鋭くなり、いつしか彼女の心を砕いていた。

私は、望まれていない。

私は、弱い。

私は、私は、私はーーーー





「気付けば私は、この社の噂を耳にしていた。人ではない力を持つ者がいると」


夕日の赤紫が空を飲み込み、蛙の鳴き声が木々に染み入る。

社の中、ヨカと訪問者の女性は、潰れた座布団に座って話をしていた。

訪問者は、涙を堪えて言葉を吐く。


「ここにいる者なら、私を、変えてくれると、思ってた。私は、家を捨てて、ここに託した。きっと、私をーーー」

「もういいよ」


ふわり、と。

ヨカが微笑みながら、訪問者を抱きしめた。


「あなたの願いは、分かったよ。だから、………泣かなくてもいいんだよ」


そして、彼女達を蛍のような光が包む。

温かく、蕩けそうな、柔らかい光。


「あなたの願い、確かに受け取ったよ。後は私に任せて。ね?」


ヨカの腕の中で、女性はゆっくりと目を閉じる。


「おやすみ。次に目を覚ます時は、きっといい夢をーー」










「ふう、終わった終わった。今日のお仕事しゅーりょー」


星と月明かりが照らす社の縁側で、ヨカは提灯を片手に盃を煽っていた。


「っぷはー!やっぱりこういう時のお酒はいいね!天狗ちゃんも呑む?」

「いらない」


社の屋根から足を下ろし、月を眺めていた天狗が言う。


「それで、あの女はどうなったんだ?」


天狗が目を向けずに尋ねた。


「んー。願い事は叶えたよ。後は彼女次第。でもまあ、人間からの願い事も、案外上手くいくもんだね」


ふっと息を吐いて、ヨカが言う。


「ずーっと天狗ちゃんみたいな子からの願い事だったから、ちょっと緊張しちゃった」

「嘘つけ」

「嘘じゃないよ」


ヨカが即座に言い返した。


「正直さ、あの子は私に似てたんだよ。神様になる前の私に。もしかしたら、私みたいになっちゃうかもって、少し思ってた」


盃に新たな酒を継ぎ足して、溜め息をつく。


「きっと、あの子は私無しでも変われた。でも、私に頼ってくれた。それだけで、今回は満足だよ」

「そうかい」


天狗は屋根から飛び降りて下駄を鳴らした。


「…………お前は、神様になりたくなかったって、思わないのか?」

「全然。なってなきゃみんなに逢えなかったし」


ヨカは酒を口に含んで、少し哀しげに微笑んだ。


「ただ、あの子みたいに生きてられたらって、思っただけ」




夜風が、盃の酒を揺らした。



名ヲ司ル神ガ一ツ。

神ノ心ハ未ダ知レズ。

願ヲ叶ヘル言葉トハ。

神ノ成スベキ行ヒトハ。



名ヲ司ル神ガ一ツ。

神ノ心ハ未ダ深ク。

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