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名ノ神  作者: 白紙
4/15

社ノ主

「うわっ!?なになに、雷!?」


社の奥から、そんな声が響いた。


「お前も雷が怖いんじゃないか」


そう言いながら、天狗は社の方に走っていく。

社の引き戸があった場所には、先程その戸を蹴り飛ばした張本人が仁王立ちしていた。

長い黒髪を乱雑に束ね、鋭い目つきをした女性である。

その女性は、


「ここに、『妖怪』はいるか!!!お前に、用があってここに来た!!隠れていないで、出てこい!!!」


と、威勢のいい声で叫んだ。

その声がこだまして、社の天井がギシギシと揺れる。


「もう一度問う!!!ここに『妖怪』はいるか!!!」

「五月蝿い」


天狗は女性の背後に立ち、脛のあたりを蹴り飛ばした。


「痛っ!?………なんだ君、こんなところに一人か?早くお家に帰りなさい」

「子供扱いするな。それに俺の家はここだ」


フン、と鼻を鳴らして


「あいつなら今湯浴みの最中だ。要件なら俺が聞く」


天狗は胸を張ってそう言った。


「……君が、妖怪なのか?」

「湯浴みの最中だと言ったろ。早く要件を言ってくれ」

「そんなに急かしちゃダメ」


いつの間にか天狗についてきたマツリが、天狗を咎める。

マツリは、前髪を弄りながら言った。


「貴女、名前は何というの?要件の前に、教えて?」


女性は少し戸惑ったように目を泳がせると、


「……無い」


俯きながらそう言った。


「………?」


天狗が、その意味を問おうとすると、


「さ、さっきの音は何!?雷じゃ………わっ、戸が無い!!ああ、粉々になってる!?」


ばたばたと、浴衣を適当に羽織った女性が出てきた。


「……やっぱお前も雷怖いんだ」

「えっ!?や、なんのことかな……」

「主人、雷は鳴ってませんよ」

「ほ、ほんと?マツリちゃんほんと?」


そのやりとりに呆気に取られていた訪問者は、慌てて口を開く。


「お、お前が妖怪か!!!」

「え?……ああ、お客様?本当に来たんだ……」


社の主は、はだけている浴衣をそそくさと正して、訪問者に向き直る。


「いかにも………まあ、妖怪、って名前じゃないんだけど」


そして、長い髪を揺らして、こう言った。


「ほんとの名前は、ヨカ。ここの社に仕えてる神様です」


訪問者は少しポカンとすると、


「ヨカ?よ、妖怪じゃないのか?神様?じゃ、噂は、化物は……?」


面白いように取り乱した。

ケラケラと、ヨカは笑う。


「そそ、ヨカ。妖怪って、村の人達の聞き間違いじゃない?まあ、いいんだけど」

「誰が化物だ、誰が」


天狗が不満そうに唸る。


「相違あるまい、天狗殿。我々は人ではないのだから」


感情のない顔で、バクが言った。


「こら、バクちゃん。拗ねないの。それに、天狗ちゃんも。みんな化物じゃないよ」


ヨカは頬をふくらませて、社の床板に腰を下ろした。

ベキッ、と腐りかけている床板が軋む。


「さ、お客さん、本題に入ろっか」


ヨカは、はだけた浴衣を適当に直しながら、訪問者を手招いた。




「どんなことでも、この神様が解決しちゃうよー?」



そう言って、ヨカは妖しく微笑んだ。

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