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二軍の大主が引っ越す



二軍に来たのは久しぶりである。そして、井野沢とも久々に出会った。

二軍では一軍での経験が活きたのか、9回1失点という好投をアピールしている。


一方俺は二軍でもベンチスタートであった。普段なら盛り上げようと思うのだが、隣に奴がいた。



「……………」

「なーにしらけてんだ、旗野上」

「うるせーよ、尾波。二軍に何ヶ月いるんだよ」

「しょーがねぇだろ、俺のポジション。二軍の大主なんだからよ」



俺と同期であり、一塁手や外野手を務めている尾波。

ドラフトでは俺より上位で強打者と期待されての入団。だが、打率や打点、本塁打は俺を上回るが、一軍としては微妙な扱い。

二軍での打撃成績はかなり優秀であるが、一軍では輝かしい打撃力を持つ我チームの前では霞んでしまう。

可哀想な選手と俺は思っている。



「最近、ホームランを打ったみたいだな?」

「1本だけ。いちお、二軍の本塁打王では2位だぞ」

「それ、自慢することじゃねぇーだろ。一軍で2位ならすげーんだけど」

「しょーがねぇだろ。外人選手や河合さんといった連中がいるんだぜ…………俺だって一軍で打ちてぇよ。でも、パワーはあっても率がねぇ。チャンスもそこまで強くねぇ」

「なら克服しろ」

「守備もお前みたく上手くないしな。走塁は俺の方ができるけどな、足はお前に負けるが」

「くっ……………今聞きたくことを言いやがって……」



尾波もベンチスタートであるが、5回くらいにはいつも代打で出される。

出塁率は確かに良くはないが、長打力がある奴だ。素振りと筋トレは毎日欠かさない。



バギイイィィッ



「すげー!二塁打!!」

「ナイスバッティング、尾波!!」




守備は上手くない。セカンドやショートはとても守れないし、外野としても起用されているが広い守備範囲や強肩でもない。

それでも、調子の波も外人選手達と比べれば全然なく、コンスタントな成績を出すだろう。

俺とは逆な選手。



「すげーな、尾波」



中学時代はあーいった。打撃でチームやファンを沸かしてやりたいという気持ちがあった。

だって、見て分かる通り華がある。塁上で小さなガッツポーズをする尾波が羨ましい。

それでも、あんな華を持っている選手がこの二軍でしかいられないプロになった時にみせる壁。

外人のパワーにはとても叶わない。打てなきゃ使えないという一打席一打席感じるプレッシャーはスーパーサブの俺とは違って、かなり重いことだろう。

やれるポジションは4つあるが、たった4つしかない。9つなんて少なすぎる。

競争率の激しさはどこでも一緒。



「……………………」



野球選手ってなんなのだろうな?

俺はレギュラーじゃない。二軍ですらレギュラーになれない。守備固めとして重宝されている。

ペナントレースというゲーム方式だからこそ、俺みたいな選手が一軍に入れる。

一方、尾波は打てたとしても。打てる選手が数多くいるから一軍に上がれない。尾波のような選手はレギュラーであるからこそ、発揮するタイプ。守備は上手くないが、打撃が売りの外人選手とは張り合える。

代打の切り札という道もあるが、まだ若すぎる上に一軍での経験が少ない。すでにそーゆうベテラン選手がいるわけだし……。



「……一緒に上がろうな、尾波」



尾波は二打席目もツーベースを放った。そこで俺と交代。

代わった俺もセンター前ヒットでホームを踏んだ。その後、ライトの守備で最終回までその場にいた。

ちなみにチームは勝利し、尾波がお立ち台へと上がった。

二軍の大主と自ら言うだけあって、お立ち台にはかなり慣れている様子だ。俺はまだ上がったことがない。

一軍でその姿が見れると良いよな。



その日から3日後。

尾波から連絡が来た。



「なんだよ、尾波。休日くらいゆっくりさせろよ」

『大変だぜ。大変なんだよ、旗野上』

「なんだ」

『俺、トレードに出されちまった!悪いけど、明後日には敵になるけどよろしくな!』

「はぁっ!!?」



我一軍チームの状況。打線が良くて投手がイマイチという関係。

特に先発の駒が足りず、他球団で先発としてできる選手をリストアップ。そして、他球団の一つが尾波の好調に眼をつけていたのだ。

尾波は実力があるが、チームのせいで埋もれていた。

二軍の大主は他球団に行く事によってそのポジションから脱却に成功したのである。


トレードが正式に発表された後、尾波は俺より早く一軍に上がって結果を出した。

しかも、お立ち台まで……………。



「くぅぅぅ~~~」



せめてその姿を俺達のチームでみせてくれよ、っと思った奴は多くいただろう。

尾波はそれから他球団で恐怖の六番バッターとして、マークされるようになった。

だが、とりあえず。”おめでとう”というメールは送った。


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