第四話
遅くなりました。
別サイトで二次創作を書いていたら…。
春休みが終わったので忙しくなりそうです。
学校が終わったレオン達は皆、帰宅しようとしていた。
「ねえ、レオンはだれと同室なの?」
「同室?」
「うん、同室。普通の量は4人で一部屋だけど、私たちの“高等部特別科寮”は二人で一部屋じゃない」
レオンは戸惑った。そんなことは一言も聞いていなかったからだ。
「え…?で、でも全寮制ではないんでしょ」
ヘスティは呆れかえったように天を仰いだ。
「っは…。あの理事長、どんだけ説明していないのよ」
彼女はこの場にいない理事長を心から罵倒した。
二人の会話を聞いていたネプトルは、最初から気になっていたことを尋ねた。
「なあ、レオンは何でそんなメガネをしているんだ?」
レオンはその質問に答えようとしたが、ビッターンと派手な音を立てて転んでしまった。
「あ!だ、大丈夫!?」
「お、おい大丈夫か?」
あまりにも派手な転び方に呆然としていた二人だが、倒れたままピクリとも動かないレオンに慌てて声をかけた。
「大丈夫…」
そう言いつつ起き上がったレオンに、二人は眼を奪われた。なぜならレオンの目は赤ともピンクとも言えない不思議な色合いをしていたからである。
しかし、レオンはすぐにメガネをかけてしまい、その目は一瞬しか見ることができなかった。
「あ、痛たた…。ごめん、それで僕が眼鏡をかけている理由は」
二人は一瞬呆としていたが、すぐに我に返り尋ねた。
「「理由は?」」
「目に、少しというか、かなり問題があって…」
今の光景を見た人には、思わず納得してしまうような理由だった。
「そうなんだ」
「うん。ボク、よく転ぶけど、気にしないで」
ネプトルは思わず手を振った。
「いやいやいや。気にするぜ。だってここ廊下だろ。段差も障害物もないところで転ぶかよ、普通」
乾いた笑いをレオンはこぼす。
「え~、でも昔からだから、もう慣れっこだし」
「そうなら良いけどよ…」
いや、良いのか?と自問自答しているネプトルの横で、ヘスティはいきなり手を叩いて言った。
「それよりも!!どうするの?レオン。あなた、きょうから寮生活よ!」
レオンはあわてた。割と本気で。
そんなレオンに対し、ヘスティは頭をかいた。
「どうするもこうするもないわ。ネプトル、あなた今日は暇なんでしょ。レオンの引っ越しを手伝ってあげて」
「え?!…いいけど、お前はどうするんだよ。一番、力仕事に向いてんのはお前だぞ」
彼らは十字路で立ち止まった。
「私は今から一度、寮に戻るわ。今日はダイアナと買い物に行く予定があるから。じゃあ!あとよろしく!」
そう言ってヘスティは左の廊下へと、走り去ってしまった。
後に残されたのは、ぽかんとした表情のネプトルと、申し訳なさそうな顔のレオンだった。
「はぁ~。俺、一人かよ…」
そう言い廊下にへたり込むネプトルに、レオンは彼女に結局聞けなかったことを聞いた。
「ねえ、へスティのフルネームって何て言うの?」
「あれ?おまえってヘスティの本名知らなかったけ?」
レオンは首を縦に振った。
「へスティの本名はヘスティ・ディスティタって言うんだぜ」
関心したように何度も頷く。
けれど、ネプトルは少し渋い顔をした。
?マークを浮かべるレオンにネプトルは苦笑した。
「あ~、だけどヘスティの下の名前は呼ばないほうがいいぞ。あいつそれで呼ばれるの嫌っているからな」
理由はよくわからなかったが、深く突っ込んで聞くのもどうかと思い、
「ふーん、そうなんだ」
レオンはヘスティが去っていった方向を見て言った。
ネプトルは勢い良く立ち上がった。
「さあって!とりあえずおまえの荷物をとりに行きますか!!」
レオンは思わず眉を下げる。
迷惑ではないかという気持ちと、無理して付き合ってもらわないでも…という気持ちが入り混じっていた。
それがそのまま顔に出ていたらしく、
「うわっ!」
ぐしゃぐしゃと頭をなでられた。
「遠慮すんなよ、こんなこと」
「けど…」
反論したレオンの悩みをぶった切るようにして言った。
「いいってことよ。俺達はクラスも寮も同じ仲間だろ」
「う、うん、ありがと」
はにかむ様にしてレオンが笑うと、ネプトルはにかっという形容詞が似合うような笑顔を見せた。
「じゃあ行くぞ!お前の住んでたとこって?」
「えっとね……」
* * *
静かになった放課後の教室で、クリウスとマルスが二人で睨み合っていた。
いや、睨み合っているという表現は少しおかしい。正確には机に腰掛けながら素知らぬ顔で鼻歌をうたっているクリウスを、マルスが一方的に睨みつけていた。
「…おい、クリウス。いい加減に話を始めたらどうだ」
しびれを切らしたマルスが話を切り出した。
ちなみに、レオン達が全員いなくなってからおよそ30分ほどが経っている。
鼻歌をやめたクリウスはようやくマルスのほうに体を向けた。
「ん?ねェマルス。いやさぁ、僕は何も最初にあんなことをいうのは、どうかなっと思うんだよ」
マルスはとても苦々しい顔をした。
正直に言う早く帰りたかったのだが、そんなことをすると後でどんなことになるのか分からない。
なので彼ははおとなしく(?)話を聞いていた。
「しかし、あの予言は…」
渋い顔をしているマルスとどこか涼しい顔をしているクリウス。
2人の表情はどこまでも対照的だった。
「マルス。ぼくは昔の君のほうが好きだったんだけどな」
唐突にクリウスが関係のない話をした。
訳がわからなかったマルスは正直な思いを口に出した。
すなわち疑問を。
「はあ!?」
だからさ、とクリウスはまるで幼い子供に言い聞かせるように、
「昔の君はさ、『予言を覆してやる』って『人間をなめるな』って、そう言ってあきらめらかったじゃない」
クリウスの脳裏に浮かぶのはふてぶてしく笑うあの時の親友の笑顔と、火に囲まれながら叫ぶ彼の絶望だった。
そんな過去を惜しむ様にクリウスがいうと、マルスは椅子を蹴って立ち上がった。
「くだらん!あの時の俺はあまりにも世の中を知らなかった。ただそれだけのことだ!!」
肩を怒らせながら、マルスはそのまま足早に教室を出て行ってしまった。
「だから君は馬鹿だっていうのさ、親友」
その呟きがマルスに届くことはなかった。
* * *
仕事帰りの人が多く行きかう“リーブロ駅”
レオンとネプトルは雑踏の中、レオンのアパートへと足を進めていた。
「なぁレオン?」
「どうしたの?」
ネプトルは学園を出るときから気になっていた疑問をぶつけてみた。
「お前なんで“クオーラ駅”の近くにしなかったんだ?」
“クオーラ駅”とはリンケスター学園に一番近い駅で、別名“学園前駅”とも呼ばれている。
「う~ん」
レオンは少し言い淀んでいたが、
「もともと、ボクはここに住んでたしね。ここは国立図書館が近いから」
“リーブロ駅”は人間界で最大級の蔵書量を誇る国立図書館の近くにあり、駅の付近には大小さまざまな本屋が立ち並んでいる。
「へ?おまえ引っ越してきたんじゃねぇの?」
自己紹介の時、北の辺境出身といっていたのでそう思っていた。
「いや、僕は故郷を出てここにやって来てから理事長と出会ったんだよ」
レオンの先導で道を右に曲がると、細々とした路地があった。道の先は曲がりくねってよく見えない。
その道は建物と建物の間にあり、薄暗く、怪しげな雰囲気が漂っていた。
その光景にネプトルが何も言えないでいるうちに、レオンは臆することなく中のほうへと進んでいってしまった。
我に返り、隣りにいたはずのレオンがいないことに気付いたネプトルは恐る恐る、けれども慌てた様子でレオンを追いかけた。
「おい!待てってレオン!」
突然の大声に驚き、レオンは振り返った。
「ど、どうしたのネプトル?いきなり大きな声を出して」
追いついたネプトルは肩を揺らしながら言った。
「どうしたもこうしたもねぇ!お前こんな所に住んでいるのか?」
「うん、そうだよ。ほら、あれがボクの家」
それが何に?と言わんばかりの顔で、レオンが指差した先には、赤茶色のレンガで建てられた、今にも倒れそうな建物があった。
お世辞にもいい環境とはいえなかった。
またしても絶句しているネプトルを置いて、レオンはビルの入り口から入って行った。
ビルに入ってすぐのところにある階段にレオンが足をかけた時、ようやくネプトルが追いついてきた。
「もうさっきから何をやっているのさ、ネプトル。おいていちゃうところだったよ」
頬を膨らませるレオンに対し、ネプトルは自身の顔の前で手を振った。
「いやいや…。だってさ、ここって今にも崩れそうじゃね?」
階段を上りつつ二人の会話は続いていく。
「え……?そうかな。ボクがここに住んでもう3年になるけど」
「3年!?」
「そう、3年。まあその間にいろいろあったけど………ね。まだ崩れてはいないよ」
苦笑しつつ頬をかくレオンに、ネプトルは恐る恐る尋ねた。
「いろいろって何があったんだ?」
「う~んと…。例えばだけど、2年前の大雪の日覚えてる?」
「ああ。電車が止まって、その日は学園も休みになったな」
ネプトルはその日、久しぶりに見る大量の雪に大はしゃぎして、風邪をひき3日間休むこととなった。
「うん。あの日の雪の重みで屋根が落ちて…」
「はあ!?屋根が!」
「うん。屋根が落ちた部屋は、だれも住んでなかったからよかったけど…」
この事件が起きてから最上階の人間は全員引っ越してしまい、現在はレオンだけになっている。
「――――――その日から雪の日は住民総出で、雪かきをすることにしたんだ。他には……」
これよりひどいんじゃないんだろうか、とネプトルは冷や冷やしているが、ここまで着たら怖いもの見たさ―――
もとい聞きたさである。
「先月の頭ぐらいに、嵐があったでしょ」
「ああ、学校でも体育館倉庫の屋根が飛んだな」
「あの日ここの屋根も飛んでね。ボクもしばらく下の空き部屋に避難してて、ようやく元の部屋に戻ってきたばかりなんだ。だからまだ荷ほどきが済んでなくてっさ」
夜中にいきなりさ…とあの夜を思い出し、ハハハと乾いた声で笑うレオンに、ネプトルは開いた口が塞がらなかった。
そんな話をする2人の前に、もう階段はなかった。どうやら最上階に到着したようだ。
「そこがボクの部屋だよ」
そういったレオンが指差したのは、廊下の突き当たりにある部屋だった。
ズボンのポケットから鍵を出して扉を開けた。
部屋の中には、荷物が入っていると思われる2,3の箱があった。
荷ほどきが済んでいないというのはどうやら本当のようだ。
この年頃の少年が持つには明らかに少ない量で、まだ封がしてある箱もあった。
「なぁ、レオン」
部屋の隅にあった箱に、残っている荷物を詰めているレオンに、ネプトルは声をかけた。
「ネプトルは悪いんだけどこの箱を…。どうしたの?変な顔して?」
「いや、お前さ。荷物少なすぎじゃねぇ?」
「そうかな?」
「そうだよ!」
「う~ん。だけどこの部屋にこれ以上置くと、抜けちゃうし…」
「抜けちゃうって…」
どこがと、いやな予感がしつつネプトルが尋ねると、
「もちろん。床に決まってるじゃん」
とてもいい笑顔で、レオンが予想通りの答えを返してきた。
なんだか力が抜けたネプトルは、レオンの指示通り、封のしたままの箱を2つ持った。
レオンは数少ない荷物を、唯一封をしていない箱に詰め、同じく箱を二つ持った。
「じゃあ行こっか」
2人が外に出るとレオンは鍵をかけ、そのあとに再び鍵をポケットに入れた。
そんなレオンを見て、ネプトルは言った。
「おい、お前ここを引き取らないのか?」
「うん。ここの家賃、あまり高くないし」
大雪の日の事件から段々と値段が下がっていき、この階のみ異常に安くなっている。
2人が階段を下りていくと、途中で1人の女性と出会った。
「あら、レオン。あんたもとうとう、ここを出て行くのね」
そう言って煙草をくわえた女性を見て、ネプトルは小声でレオンに尋ねた。
「誰?」
「ここの大家さん」
「大家さん!?」
え、といった感じでネプトルは女性の顔を見た。どう見ても大家といった様子ではない。
「そ」
2人がこそこそ話している間に、女性は煙草に火を付けた。
ふーと長く紫煙を吐き出した女性に、レオンは話しかけた。
「出ていくわけではないんですよ。部屋は引き取りませんし」
「まぁ、アンタは家賃を結構先まで、支払っているからいいけど」
レオンは頭を下げる。
「はい。今までお世話になりました」
「元気でやんなよ」
女性は煙草を持っているほうの手で、ネプトルを指差した。
「そこのボウヤ。レオンを泣かしたら承知しないよ」
「は、はい」
それだけ言うと女性はレオン達の横を通り、階段を上って行った。
「すげ~怖そうな人だったな」
「そう?結構いい人だよ」
レオンの返事にネプトルは一つため息をこぼした。
アパートから出た二人は路地を抜け、大通りに戻ってきていた。
「あ~。ようやく出られた」
「そんなに居心地悪かった?」
話しつつ、二人は駅へと足を向けた。
「ねえ、寮ってどんなところ?」
「う~んとな。ひとまずお前さ、寮がいくつあるか知ってるか?」
レオンは少し考えていった。
「10個ぐらい?いや、もっと少ないかな?」
ネプトルはどこか得意げにわらった。
「それが、何と13個もあるんだぜ」
「え、なんでそんなにあるの?」
「まず初等部用の寮は、人数が多いから5つある。ガキどもは喧嘩するからな、相性が悪い奴とは離すんだ。中等部と高等部は科ごとに分かれていて、4つずつ。で合計13個というわけだ」
「へ~え。寮に名前はあるの?」
「いや、第一寮とか第九寮とかで終わりだけど、分かりにくい時は第六寮を中等部普通科寮とか、第11寮を高等部魔法加療といった感じで呼ぶな」
レオンは今朝のことを思い出して言った。
「迷子になったりしないの?」
「時々、いや、しょっちゅうあるな。学園中に地図は張られているし、生徒の俺らも迷子を見つけたら、案内するように言われているぐらいだけど」
どうやら迷子はなくなっていないようだ。
「それは親切なのかな…?」
二人はそんな会話をし、途中電車への箱の持ち込みに一悶着起こしつつも、無事に学園へと帰ることができた。
いかがでしたか?
何かご指摘等ありましたら、どしどしどうぞ。