第三話
投稿できました。
今、何を言われた?レオンの呆然とする頭に浮かんできたのはこの一言だった。
「ちょっと、マルス。ダイアナと仲良くなったからって、いきなりその言葉はないんじゃない。」
机をつかみながら、へスティは笑顔で言い放った。
しかし、彼女のその笑顔を見ていたものはおそらく全員が気づいたであろう。
―――――――目が笑っていないことに。
机がみしみしと、嫌な音を立てているのに気づいたレオンたちだったが、へスティの笑顔に何も言うことができずにいた。
そんなへスティの怒りに、さらに油を注ぐような一言を放った勇者がいた。
先ほどの爆弾発言をしたマルスだった。
「ふん。そんな能力が何なのかを知らないような奴に、握手するような価値があるとでも?」
その一言によって、へスティの机は原形をと留めておくことができずに壊れた。
「あんたね!最初はダイアナだって、こんな風だったでしょ!」
そこから二人の激しい罵り合戦が幕を開けた。
へスティとマルスの激しい言い争いに呆然としていたレオンは、ネプトルのほうに椅子ごとこっそりと移動し、小声で質問した。
「ねえ。へスティと言い合っている人、誰?」
「あぁ、あいつはマルス・フレイバード」
「え、フレイバードって…」
「そう、あのダイアナの兄貴だよ。」
レオンは慌ててダイアナとマルスの顔を見比べた。
――――確かに目と髪の色が同じだし、何より二人の顔はよく似ている。
レオンがそんな子尾を考えている間にも、二人の罵り合いはさらに加速していった。
「もうやめておけ。マルス、お前がそこまで言うのには、きちんとした理由があってのことなのだろう」
もういい加減に見ていられなくなったらしいファイストが二人の口喧嘩の仲裁に入った。
「へスティも考えてみろ。マルスがいくらシスコンだとはいえ、握手をしただけの人間に、そこまで言うわけがないだろう」
「なっ。おれは、シスコンなどでは「…確かにそうね。そこまで言わないわよね。あたしも言いすぎたわ」
マルスのセリフをぶった切ってへスティは言った。
「あの、レオン君。私たちはフレイバードだけど、気にせずに仲良くしてね」
そういったダイアナに、レオンは真顔で返した。
「フレイバードがどうかしたの?」
・・ ・・
「ハッ、お前な!あのフレイバードだぞ。あの!」
レオンとネプトルの会話を聞いていただけの傍観者でさえ思った。
――――――――――こいつ、世間知らずすぎるだろう、と。
「だから、フレイバードって家がどうかしたの?」
するとダイアナがいきなり笑い出した。
「あっはははは。レオン君はそうなんだね」
「えっ、ちょっとダイアナ大丈夫?」
「あっ、大丈夫だよ。アスタルテ、私ね今、とっても嬉しいの」
「う、嬉しい?」
「うん。今まで、ほとんどの人が私たちのことを、フレイバード家の人間としてしか見てくれなかったからね。特別科のみんなは違ったけど、フレイバードを知らない人なんて初めて見たからね」
「ねえ、もしもーし」
レオンはフレイバード家がどういったものか知りたかったので口をはさんだ。
「結局、よく分からないんだけれど…」
その質問にはネプトルが答えた。
「あ~、簡単に言うとダイアナたちの実家のフレイバード家は貴族だ。しかもただの貴族じゃなくて、名門の公爵家だから昔いろいろあったんだよ」
「へぇ~、そうなんだ。あ、何か気をつけておくことある?」
「気をつけておくことって例えば?」
へスティはレオンの発言が理解できなかったらしく、質問を返した。
「う~ん。例えば、様付けで読んだり?道を譲らないといけなかったり?荷物を持ってあげないと行けなかったり?他には…」
「プッ…。ブハハハ、もうおれ、我慢しきれね~」
ネプトルのその一言を始まりとして、クラス中に笑いが広がった。
「アハハハ、レオンってすごいね」
「すごいって?」
わらわれたことに少し涙目になりながらも、へスティの声に答えた。
「だってあの雰囲気を、こんな簡単に変えられるんだからさ」
「もう!話を戻してよ!」
「アハハ、ごめんって。で、どこまで話をしたっけ」
「能力とは…って所」
「う~んと能力とは…」
「能力とは…?」
「ごめん。あたしじゃ、うまく説明できないから。ファイスト、パス」
「私に!?…魔ァ簡単にいえば、魔法陣を必要としない魔法といったところか…」
「魔法陣がいらない魔法?そんなのありえるの?」
「ああ、魔法を使う方法は、大きく分けて二つある。一つは、呪文を唱えることにより魔法陣が出現し
て、魔法が発動する方法。この方法だと練習によっては、呪文を短縮したり詠唱しなくても魔法を発動させることが可能だ。ただし、その場合でも、魔法陣は出現する。二つ目の方は、魔法陣をあらかじめ何かに刻んでおいて、後で呪文を詠唱する方法がある。まぁ二つ目の法は、ここ最近発明された方法だから、まだ詳しくは知らないがな」
「とりあえず、能力は、魔法陣を出さないんだね」
「そうだ。それなのに魔法に匹敵、いや魔法よりもすごいことができる。それが能力だ。例えば、ヘスティ。彼女の能力は――」
「あーーー!あたしの机が粉々だ!またやちゃったよ」
「“怪力”だ。いすや机、場合によっては柱を破壊している」
「へぇ~、すごいね」
「他には…。おい、ネプトル。ヘスティの机はどうせ捨てるんだ。ついでにお前の能力を見せてあげたらどうだ」
「OK。いいか、レオン。よーく見てろよ」
ネプトルはそう言うと、机の残骸に手を当てた。すると、机の残骸である木片から、ひょこんと一本の木の芽が生えてきた。そして、あっという間に一本の木となった。
「見ていて分かったかもしれないが、ネプトルの能力は“植物”だ」
「すごい!すごいね!」
レオンは子供のように目を輝かせて言った。
「ああ。他にも私なら、物の時を速めることができる。簡単に言うと風化させることができるのだが…、ここでやることはできない」
「なんで?」
「私の能力は少し大雑把でな。何というのか…、今ここでやると、下手したら校舎ごと崩壊させることになる」
「すっすごいね…」
レオンとファイストは苦笑いを交わした。
「ああ。後はマルスなら“未来視”の能力だな。予知と予言ができる」
「予知と予言って、どう違うの?」
「予知はある程度、操作ができて、視ることができるらしい。そして、予言は…。マルスの意思では操作できず、いきなり書いたり話したりしだす。二年前には、いきなりスプレーで壁に描いたことがあった。
あれは後でスプレーを落とすのが大変でな…」
「つまり、操作できるのが予知で、できないのが予言ってこと?」
「その通りだ。そして予言は、予言した内容を回避できない」
「回避できない?」
「そうだ。二年前の予言は、王宮で事故が起こるといったものだったが。結局、事故を回避することはできなかった…。だが、死者はマルスからの要請を受けた、私たちのおかげで一人もいなかったがな」
「へえ~。そんなことがあったんだ」
感心しきった様子でレオンはうなずいた。
「それで、さっきからのマルスの態度には、予知か予言が絡んでいると思っているのだが…。違うのかマルス」
ファイストが顔をマルスのほうへ向け質問すると、マルスは眉間にしわをもう二・三本増やして、苦々しげに答えた。
「ああ、そうだ。三週間ほど前に、自室で勉強をしていたらいきなり意識が飛んだ。気がつくと、机の上のノートにこう書いてあった。『金色の異邦人がやってくる。その者はこの地に赤き災いをもたらし、いずれ裏切るだろう』と――――」
マルスの衝撃的な一言を聞いた生徒たちは口を閉ざし、一様に押し黙った。
「分かっただろう。そいつにはかかわらないほうがいい」
クラス中にレオンに対する疑いと困惑の気持が満ちた時、
「そうかも知れないね。でも、我が親友殿はいつからそんなに物分かりが良くなったのかな」
その静かな声と共に、一人の青年が扉を開けて教室に入ってきた。
「えっと…、あなたは?」
レオンは困惑しつつも、とりあえず尋ねたいと思ったことを聞いた。
「ぼくはクリウス。クリウス・ストラーノ。そこに座っている素直じゃない男の、親友だよ。よろしく、レオン君」
「あっはい。よろしくお願いします、クリウスさん」
そう言い、一礼したレオンに、ネプトルが突っ込みを入れた。
「おい!なごんでいる場合か!」
「いや、なごんでいるわけではないんだけどね」
「いやいや、っていうか先輩。今日は休みだったはずじゃ」
「うん、ぼくもそのつもりだったんだけど。検査の帰りにラタとアリスを、懲罰室に連れて行くタリズマン先生に会ってね。丁度いいからって、このクラスに連絡を頼まれたんだ。今日は午前だけで、先生は二人をぶん殴っ…、じゃなくて、説教をしないといけないらしいから。皆、もう帰っていいって。あ、でも親友殿は残ってね。少し、お話があるから」
そう言い、クリウスは微笑んだ。
レオン優しそうな先輩だな、と思ったが、その笑顔を見た他の生徒達は、
(((あれは怒ってる、絶対。それもかなり。っていうかさっき、ぶん殴るって言いかけた、絶対)))
と恐怖に震えた。
ご指摘ありがとうございました。
キャラクターはかなりいますのでひと段落したら、まとめる予定です。