第一話
少し遅れましたすいません。
4月12日、一部変更しました。
人歴2390年。花の月。8日。
リンケスター学園。西地区。高等部校舎の中。
白い校舎の中で、少年は地図とあたりの風景を一致させようと努力していた。
周りにあるのは、教室の入り口らしき扉と、二階に続くであろう階段のみだ。
努力空しく、少年は現在地がわかっていない。
にっちもさっちもいかなくなった少年は丁度近くをとりかかった女性に声をかけた。
女性は手に紙の束を抱えている。どうやら移動の途中だったらしい、
「あら、どうかしましたか?」
女性はいやな顔一つせずに答えた。
少年は自身がここの転校生であることと、目的地への道筋がわからないことを伝えた。
女性は苦笑しつつも、少年の持っていった地図で道を教えてくれた。
「―――――というわけ、ここは普通科の校舎だから、職員室はあっちの端にあるわ」
少年は女性のいった説明の一部に疑問を抱いた。
それを質問しようと口を開きかけた、その時。
キーンコーンカーンコーン
「今の、もうすぐ授業が始まる合図よ」
まだ疑問があったが遅刻するわけにもいかない。
そう考えた少年はお礼をいって駆け出そうとした。
「職員室に行けば此処の先生はみんな親切だから心配しないで」
「はい、本当にありがとうございました」
少年は再度女性に礼をいって、先ほど女性が教えた校舎のほうへ走っていった。
「ああ、もしかしたらさっきの子が理事長が言っていた…」
女性のつぶやきは、風にさらわれ消えていった。
少年は女性から教えられた通りに学園内を進んでいった。
すると、一つの扉の前で立ち止まった。
「此処かな、職員室は」
扉をあけると、中では二十名ほどの先生が忙しそうに授業の準備をしていた。
「あ、あのすみません」
少年が一人の女性に声をかけた。
「あら、何か御用ですか」
「今日からこの学園に通えと言われて…。あのこれ必要な書類です」
「あっ、また理事長の仕業ね。大丈夫。心配しなくても大丈夫ですから。タリズマン先生」
女性は、職員室の奥のほうへと進んでいき、一人の男性と話し始めた。
「どうかしましたか、ジュディ先生」
「この子、例の。特別科の子なんですけど」
「けど?」
「何も説明を受けていないようなので。教室に行く前に説明とクラスメートへの紹介をお願いします」
「了解しました。おい、ついてこい」
タリズマン先生はそれだけ言うと職員室を出て行った。
「あ、ありがとうございました。失礼します」
少年は礼をすると先生の後を追っていった。
* * *
学園内の廊下は静かでまさしく授業前といった雰囲気がある。
タリズマン先生は少し歩調をゆるめながら話しだした。
「このベルリンスター学園は、今年で創立120周年を迎える、人間界で最大の規模を誇る学園だ。初等部・中等部・高等部があり、お前が入るのは高等部一年の特別科だ」
少し遅れながら少年は歩いていた。
「あのすいません。さっきから言っている“特別科”って何ですか?」
驚いたように先生は振り返り言った。
「ハァ!?このパターンはダイアナと同じか…。いいよく聴け、この学園は中等部から普通科・魔法科・戦闘科・特別科の四つに分けて授業を行っている。そして、特別科は人数が少ないから中等部・高等部に一つずつしかない」
「なんで特別科は人数が少ないんですか?あと、なんでボクがそんな科に?」
「それはだな…」
先生が立ち止まって口を閉じてしまったので、同じく足を止めて辺りを見渡すと、すぐそばにドアがあった。
どうやら話が終わらないうちに目的地である教室に着いてしまったようだ。
「ついてしまったか、説明の途中だが仕方がない。少し待っていろ」
そう言って先生は扉をあけて、教室の中に入って行ってしまった。
* * *
ざわざわと少し騒がしい教室の中でニット帽をかぶった少年が机に肘をついて座っていた。
「なあ、ファイスト」
ニット帽の少年は隣にいる褐色の肌を持った少年に話しかけた。
「何だ、ネプトル」
ファイストは少し迷惑そうにニット帽の少年―――――ネプトルに答えた。
「今日転入してくる奴さ、どんな奴だと思う?おれは女子がいいんだけどな~」
ネプトルは浮かれていた。暖かくなってきたせいかも知れない。
「おまえはいつもそうだろうが、全く」
「せっかく高校生になれたんだぜ。目指せ青春!恋多き学園生活!だろ」
ファイストは呆れたように首を振る。
「おまえは、そうなるまでに退学処分になる可能性が高いと思うぞ、私は。この前の進級試験ですら学年で下から三番目だっただろ」
「そ、それは…」
ファイストが言ったことに対してネプトルが口ごもっていると
「そこ、うるさい!ネプトルにファイスト。特にネプトル!」
真面目そうな目つきをした、グラマーな生徒がどなってきた。
「ゲッ…、ミネルヴァ。さっすが委員長。お固いね」
ネプトルがあきれたような顔で首を振った。
ミネルヴァと呼ばれた女生徒が言い返そうとした、その時。
扉を開けてタリズマン先生が入ってきた。
「おーい、お前ら席に着け。とっくにチャイムは鳴ったぞ。早く座れ。」
教室に入ってきた先生に気付いた生徒達が、あわてた様子で席についた。
「いつもならば朝礼を始めるところだ。が、その前に、もう知っている奴もいるかもしれないが、今日からお前たちと一緒にこのクラスで学ぶ奴がいる。おい、入ってこい」
先生が扉のほうに向かって呼びかけると、一人の少年が教室の中に入ってきた。
制服が間に合わなかったらしく、茶色のズボン、黒いシャツに、赤いジャケットを着ていた。ここまではいいのだが―――
(((何故、ださいびんぞこメガネ)))
この時、クラス全員の心が一つになったのは言うまでもない。
「おい、それじゃ自己紹介しろ」
「はい」
少年が教壇に上がって言った。
「はじめまして、ボクの名前はレオン・フォイボスです。これからよろしくお願いします」
言い終えると彼は一礼した。
こうして少年――レオン・フォイボスと特別科の生徒をめぐる物語が幕を開けたのである。
この後テスト週間に入るのでしばらく投稿遅れます。
すいません。
その代りテストが明けたら二話と三話は連続投稿します。