昼休み
拓人に戻ります。
午後12時30分。昼休みの時間だ。ちなみに俺はいつもは弁当男子なのだが、今日は寝坊したためコンビニ弁当である。隣のテッツンは愛妻(?)弁当。
「今日は弁当じゃないのな。」
テッツンが言う。
「寝坊しちゃったんだよな~、今日。拓哉に起こされたんだ。」
「ハハハ、拓哉君も大変だなぁ。ねぼすけのお父さんも起こさなきゃいけないなんて。」
「今日だけだよ。」
「確か先週もそうだったよなぁ??」
「・・・。」
返す言葉が見つからず、俺は黙々とコンビニ弁当を食べた。やっぱり手作り弁当の方が100倍美味しい。
「あのっ…」
そのとき、女性の声がした。声のした方を見ると、違う部署の女子社員だった。残念ながら面識はない。名前も知らない。
「つ、逵さんにお話したいことがあるんです…。」
「何か?」
俺が首を傾げると、なぜかその女子社員はうつむいて黙り込んだ。するとテッツンがこそこそと耳打ちしてきた。
(ばか、お前に告白しようとしてるんだろ。)
(え~っ、俺今弁当食ってんのに。)
(関係ねぇよ、どっか2人きりになれる場所にでも行けよ。)
(ここじゃダメ?つーかテッツン、なんでそんなこと分かるの?男だろ。)
(ジョーシキって言うんだよ、こういうのは。ほんとお前って天然だよな)
「あのっ…。」
女子社員が声をあげたので、二人してビクッとしてしまった。
「い、今じゃなくていいので…。昼休み中に屋上に来てくれませんか。お願いしますっ!!」
そういってお辞儀すると、彼女は走って行った。耳を真っ赤にして。
「行ってやれよ、逵クン。」
テッツンがポンと肩を叩く。俺としては昼休みに雑用が増えただけなので嬉しくもなんともない。第一、あの子は誰なのだ。
「めんどくさいなあ…。屋上で告白?高校生かっつーの。」
「さすが、経験者は語るだねえ。」
「それだと俺が告白したみたいじゃん。俺はされた方。」
「何それ、自慢?」
「ちげ~よ、俺としては迷惑以外の何物でもなかった。部活に行こうとしてんのに声掛けるんだぜ?頭おかしいよ。」
「嫌味にしか聞こえねえぜ。」
「嫌味じゃない嫌味じゃない。」
実際告白なんてほとんど希望に応えることができずに相手を泣かすばっかりで、いいことなんてありゃしない。俺が好きになった人はただ一人。美由紀だけだ。
「で。お前彼女に告白されたらなんて答えんの。」
「『すいません、期待に応えることはできません』」
「そっけないなあ。」
「こうやって頭下げとけば大体収まるんだよ。」
「酷いやつ。」
そうこうしているうちに、昼食は食べ終わった。もう少しゆっくりしていたいところだが、何せよく分からない子に呼び出されたので屋上に行かねばならない。
「じゃ、行ってくる。」
「行ってら~。」
かくして俺は屋上への階段を上った。
屋上のドアを開けると、そこには先ほどの女性が一人佇んでいた。
「何か御用ですか?」
俺が声を掛けると、なにやらボンヤリしていた彼女ははっとこちらを振り向き、またしても俯いた。
「あのっ…。わ、わたし、その、つ、逵さんを初めて見たときから…」
「ちょっと待った。まず君は誰?僕、君の名前知らないんだけど。」
「す、すいません!!」
なんで謝るんだろうか。訳が分からない。
「広報部の山田まこ、といいます…。」
「山田さん。初めまして。」
「あのっ…そのっ…」
山田さんは俯いたままだ。ただただ時間だけが過ぎてゆく。早く用件を言ってくれないだろうか。
「わ、わたし、逵さんをはじめてみたときから、す、す、好きでした!!お付き合いして下さい…」
やっぱり告白か。俺のなにがいいんだろう。
「すいません。御期待に応えることはできません。」
一応頭を下げておく。
「…っ。何でですか、私の何がいけないんですか!?ずっと好きだったんです!!何で…」
山田さんは泣き叫び始めた。あー、こういう人いたな高校のとき。体育館の裏で号泣されて困った。
「すいません。でも有難うございまし…」
「何でか、理由を教えてください!!謝らなくていいですから!!」
山田さんは涙のたまった目でこちらを睨んできた。なんで睨むんだ。
「その…え~っとですね…」
「彼女いるんですか、なんなんですか。」
なんでそこまで教えなきゃいけないんだ、見ず知らずの人に。
「教えてください!!さもないと、さもないと、」
なにをするんだ。
「ここから飛び降りてやるっ!!」
うわー、逆ギレだよ。でもこの人が飛び降りたら悲しむ人が一杯いるだろう。俺は観念した。
「分かった分かったから飛び降りないで。話すよ。」
「うっ、うっ…」
泣いている山田さん。
「その、俺息子いるんだ。」
そのとき、一瞬にして空気が凍りついた。山田さんが驚きを隠せない様子でこちらを見る。
「俺、結婚してたんだよ。でも妻が子供産んですぐ亡くなっちゃって、今父子家庭なんだ。そういうわけだから希望に応えることはできません。」
俺はすいません、ともう一度謝ってから屋上を後にした。
ああ、美由紀。お前が生きててくれればなぁ。