帰宅
「ったく、裏切りやがって…」
俺が睨むと、金子と平松は苦笑した。
今は帰り道。先輩方を振り切り、なんとか着替えた俺は助けてくれなかった二人を叱責している。
「だってよ、俺達後輩なんだぜ!?立場ってものがあんだよ。」
言い返してくる金子。それに頷く平松。
「それに、先輩達がお前を溺愛する気持ち、俺ちょっと分かるし。」
「おいおいおい!!お前らまでそんなこと言ってんじゃねえよ。」
まったくどいつもこいつも。俺だって男にモテたいわけじゃないッ!!
「ま、先輩が卒業するまでの辛抱だな。」
ポンっと俺の肩を叩き、平松と金子はそれぞれの家へと帰って行った。ここからは一人。
「ただいま~」
鍵を開け、中に入る。おとーさんはまだ会社だ。帰ってくるのは8時頃。
「腹減ったな~。」
そう言いながらジャージに着替え、冷蔵庫に向かう。だが、物の見事にスッカラカンだった。
「…何もねえじゃんッ」
俺のツッコミも静かな空気の中に溶け、あとに残るのは沈黙…。
なんだかムシャクシャしてテレビでも見ようとリビングに向かった。ふと机の上を見ると、何やらメモが置いてあるじゃないか。そしてその隣には…。
「500円玉ッ!!」
500円玉がキラキラと輝いていた。メモにはこう書いてあった。
「すまん、拓哉。今日は寝坊したのでおにぎりを作る暇もなかった。しかも見事に冷蔵庫はスッカラカン。お腹が空いているだろうから、コンビニで何か買って来なさい。ただし、余計なものは買わないこと。菓子パンかお握りかそのへんにしておきなさい。あと、遅くまでコンビニにいないこと。6時過ぎたら悪い大人がわんさかいるんだから。By父」
「おとーさん有難う!!」
俺はガッツポーズして、コンビニへ駆けて行った。もちろんちゃんと戸締りをして。