学校
拓哉目線で
「姿勢正してェ面取れッ」
「アリガトウゴザイマシタッ」
ふう…。今日の稽古が終った。俺は面を取って少し溜息を吐く。剣道は大好きだし練習は嫌じゃないけど、このあとを考えると気が重い。
「整列ッ」
「ハイッ」
「姿勢正して。もくそーーーう。」
…。この黙想の時間が一番ほっとする。今日も無事稽古を終えることができたという安心感と、やりきったという達成感。
「やめっ」
「ありがとうございましたッ」
顧問のカトちゃんこと加藤先生は若手実力派。年はおとーさんと大して変わらなさそうだが、頼りがいのあるナイスガイだ。おとーさんとは大違い。
「よし。今日も怪我しなかったな。大会も近いからな。怪我にだけは気を付けろ。いいな。」
「ハイッ」
「じゃ、さっさと着換えろ。特に男子。いつも遅い。あと、逵。このあとちょっとこい。」
「ハイ。。。」
「姿勢正して礼ッ」
「ありがとうございましたッ」
なんだなんだなんなんだーー!!俺は内心怒られるんじゃないかとヒヤヒヤしながら先生の所へ行った。気がつかないうちに大ポカやらかしてしまったんだろうか。稽古が手抜きだった?そんなはずはない。俺は俺なりに一生懸命やってる。じゃあ一体何だ??
「お、逵」
お、じゃないよ。
「なんですか?」
「お前のお父さんって剣道やってらっしゃったよな。」
いきなりなんだよ。
「ええ…まあ。」
すると先生は急に眉尻を下げた。この顔をするとカトちゃんは何故かとっても可愛く見える。人の顔って不思議だ。
「実は…これなんだよな。」
そう言って垂ネームから取り出したのは、
「あ…。来週の剣道教室。」
来週開かれる小学生向けの剣道教室のチラシだった。
「実は参加してくれる予定だった地域の方が急に来れなくなってな。代わりの人が必要なんだけど、なかなか居なくって。平日の夕方だから、無理にとは言わないけど、できれば来ていただけると大変嬉しい。って伝えといてくれるか?」
なるほど。
「分かりました。」
「頼む。あ、それと。お前、なんか悩み事でもあるのか。」
と、突然何を。
「え…?なくもないですけど先生にお聞かせするような程のものでは…。」
「ふうん?ま、なんかあったら言えよ。」
ああ、ビックリした。見破られたかと思った。
「それより、早く着換えろ~。」
なんだよ。自分が呼び出しといたくせに。全く勝手な教師だ。