拓哉のこと
先ほども説明したとおり、我が家は父子家庭である。俺は19の時に2つ年上の美由紀と結婚した。その1年後授かった子供が拓哉である。拓哉を生んですぐこの世を去った美由紀の分も、俺は拓哉を俺なりに精一杯の愛情をこめて育ててきた。といえば聞こえはいいが、俺が拓哉にありったけの愛情を注いできた理由は簡単に言うと可愛くて仕方無かったからである。
眼はパッチリしていて睫毛は長め、鼻は俺に似てちょっと団子鼻。髪は美由紀譲りの天然パーマでフワフワ。身長が146cmと中学生にしてはやや小さめなのが玉に瑕だが、それがまた可愛い。さらに色白・運動神経抜群・成績優秀などなど、褒めるところは山ほどある。
しかし、そんな俺の愛情も思春期になると煩わしくなるものだ。最近は反抗期で口を開けば憎まれ口ばかり叩く。そこが可愛いのだが。
拓哉が通っているのは盛登西市立松竹梅中学校。めでたそうな名前だ。ここは部活動に力を入れていて、部活時間がやたらと長い。俺達親からすれば子が長時間家を離れるので不安だが、当の子供達は煩わしい親から離れられるとあって嬉々として部活に出かけていくようだ。もちろん拓哉もその例に漏れない。
あぁ、親の心子知らずとはこんなときに使うのだろうか。俺は残念ながらあまり賢くないので、よく分からない。美由紀がいれば、「もう、そんなこともしらないの?」と言いながら教えてくれたであろうに。
拓哉は母親似だ。美由紀もすごく賢かったし、小さかったし、何より可愛かった。運動神経の方はイマイチだったが。
最近、俺は気になっていることがある。それは、拓哉に彼女がいるのかどうかだ。
拓哉はカッコイイというよりもどちらかというとカワイイに属するので、モテるのかどうかは微妙だ。しかし、この間こっそり通学カバンを探ったら、筆箱の中からラブレターが5通も出てきた。どれも中学生の女の子の必死な気持ちが伝わってきて、俺はあまりの甘酸っぱさにあやうく失神しそうになった。俺が中学生のときも恋文を貰った記憶があるが、当時はそんなことにはまるで興味がなく、親にばれないように破いて棄てた気がする。
謝罪しよう。
申し訳ない。
その点、拓哉は破いてもいないし捨ててもいないので、興味がないわけではないのだろうか。今どきの子が考えることはよく分からない。
一度それとな~く聞いたことはあるのだが、上手くはぐらかされてしまった。ますます分からない。
まあ、本当に自分が好きになれる人と付き合ってほしい。親として言えるのはそれぐらいだ。