部長襲来2
「キャアアア!!」
翌朝、おれたち親子はもの凄い悲鳴で目が覚めた。となりにいるお互いを確認し、昨夜の出来事を反芻して…
「部長だ!」
慌てて俺はとなりの部屋に向かった。といっても襖一枚挟んだだけだが。
「た、助けて~」
半泣きの部長が指さす先には、ゴ●ブリが…。
おれが新聞紙でバシイッと叩くと、哀れなゴ●ブリは昇天した。
「もう大丈夫ですよ、部長」
「あれ?拓人くん、なんでここにいるの?ていうかここどこ?」
首を傾げる部長。あのときすでに酔っ払ってたから、記憶がないのだろう。記憶がなくなるまで飲むなんて、おれには理解できない。
「部長。部長は昨日の晩、ぐでんぐでんに酔っぱらって我が家に乗り込んできたんですよ。ここは、僕の家です。」
「えええっ!?どうりで気持ち悪いわけだ…」
「ここで吐かないで下さいね。トイレが向こうにありますから、そこ使ってください。」
「ごめんねぇ…」
戸塚部長が走ってトイレに入るのを確認し、おれはほうっと息をついた。朝から疲れる。
「おとーさん…。」
拓哉が眉を八の字にしてこちらにやってくる。おれはその頭を撫でようとして…逃げられた。
「部長さん、トイレに駆け込んで行ったけど。」
「あれが深酒の報いってやつ。拓哉はあんなことになるんじゃないよ」
「なりたくない。」
時計を確認すると、朝5時半だった。少し早いが、まあいいだろう。今日は土曜日だから、会社に行くのはいつもより遅くていい。
「ご迷惑おかけしました…」
まだ少し青白い顔をした部長が頭を下げる。
「いいですよ、次からは気を付けてくださいね。」
おれが言うと、部長は眉尻を下げた。結構顔の整ってる人だから、魅力的だ。ま、興味ないけどね。
「部長、どうしますか?朝ごはん食っていきます?」
「んー。私家遠いのよね…会社に間に合わないかも。」
だから、と部長はまた頭を下げた。
「図々しいですが、お願いできますでしょうか…?」
「了解です。任せて下さい」
この間、拓哉はずっと俺の後ろにいた。緊張してるんだろう。だってこの人は昨夜、パッパラパーだったのだから。
「あ、コイツ息子の拓哉です」
そんな拓哉を前に押し出す。拓哉も仕方なさそうに、ぺこりとお辞儀した。
「あら!拓人くんにそっくりねえ!」
にっこりと部長は微笑む。その顔を見て、少し拓哉も安心したようだ。