プロローグ
13年前の5月5日。子供の日に、キミは生まれた。
「拓人くん~!!!」
「頑張れ、美由紀!!」
午前6時24分。元気な産声が、明け方の病院内に響き渡った。
「おぎゃあああああ!!!」
「お疲れ様でした、元気な男の子ですよ~!」
真白な布に包まれて、お母さんとなった美由紀の上にそっと置かれたキミはまるで天使みたいで…。
なんと15時間にも及んだお産に疲労困憊し、ぐったりとした美由紀の手をそっと握る。その手は、少しだけ握り返してきてくれた。
それなのに。
「美由紀…。」
元々あまり丈夫な体じゃなかった美由紀はあまりにも過酷なお産で命を落としてしまった。愛しいキミを残して。彼女には親しい身寄りがいなかったし、それは俺も同じことだった。そして俺は二十歳にしてシングルファザーとなったのだ。
「拓哉。これからは二人で頑張ろうな。」
すやすやと眠るキミの髪をそっと撫でた。小さくて、今にも壊れてしまいそうな息子。なんてなんて愛しいのだろう。
そのとき、決めた。俺は美由紀の分もキミを愛するって。一生をキミに捧げようって。
だから、合格していた警察官の仕事も辞退した。だってもし俺に何かあってキミが一人になったら困るから。誰もキミに愛情を注ぐことは出来ないから。キミはたった一人の愛しい我が子なんだから…。