六話 幸運と世界の過去
3つ目の買い食い(今度は野菜サンドイッチ)を半分くらい食べた所で、私は大広場へ到着した。広場の真ん中に『オープニングイベントはこちら』という文字と矢印が書かれた大きな看板が立っていたので、その矢印に従って路地に入る。
曲がり角ごとに立っている看板を頼りに奥へ奥へと進むと、行きついた先は町をぐるりと囲む壁。その壁の前には『この壁に沿って進む』という看板が立っていたので、指示通り矢印の方向へ壁に沿って進む。その先には、壁についた扉に向けて矢印が書いてあった。それに従って壁の中に入る。
今度もまた壁の中を、松明の明かりを頼りに歩きに歩く。どこまで湾曲する道を歩かされるのか、とうんざりした辺りで再び看板を発見。さっき入ってきたのとは反対側の壁についた扉をくぐると、目の前には『お疲れ様でした』の看板が。
「やっと着いたのかー……。だいぶ歩かされたけど、って、ここ塔山の登山口かー」
看板の向こうに、ほとんど断崖絶壁のように至近距離でそびえる世界最大の山を見つけて、私は現在位置を思い出した。なるほど、ここなら確かに何千人来ようと集まりきれる。
それにしてもわざわざあんな迷路を歩かせるような真似をしなくても、と思いながら開けた草地へ進む。予想通りと言うか何と言うか、そこに居たのは背が高く美形な人間がほとんどだった。それ以外の種族は、ざっと見た感じ3割弱、といったところか。
人間の集団を、あーあーやらかしちゃった人があんなに……、とか思いつつ迂回して、居心地悪そうにしている小さな集団に近づく。
「はろー」
「え、あ、こ、こんにちは」
「こんにちは」
「ちわッス」
返事をくれたのは順番に女猫獣人、女木精霊、男ドワーフの3人。全員私より背が高い。
「ここ、オープニングイベントの会場で合ってるー?」
「合ってる……筈、ですよ。看板に書いてましたから」
「迷路だよねーあの道筋」
「複雑でしたねぇ」
「なんかやたらめったら人間多いねー」
「そりゃー種族補正半端無いッスもん。なんスかあの無双」
適当に会話して時間を潰していると、少し離れた所にいた女人魚が眉を寄せるのが見えた。下半身が魚なので微妙に浮いた状態でこちらへ来る。
「あの……すみません。その装備、デモプレイで見た気がするんですけど……」
「え、ホント?」
「そういえば……」
「そういやきれいスね、それ」
デモプレイに映ってた? ……おかしいな、この鎧は私の町で作られたオリジナル品でドロップじゃないんだけど。つかデモプレイって何、そんなのどのサイトにも載ってなかったんだけど?
「……っていうかあなた、デモプレイのキャラそっくり真似してません?」
「あぁ、そういえば居たわね。こういう装備でこういう姿で、大きな斧槍振りまわしてたのが」
「ちょーい待ち。それ、本当にデモプレイ?」
どー考えてもそれ私、正確にはフォーなんですが。
「著作権侵害で訴えられ――」
「いや待って、ちょっと待ってお願い。で、何個か質問していー?」
「……はぁ」
キツめ美人のマーメイドさんが黙る。私はしばらく腕を組んで頭を整理すると、1つずつ確認を始めた。
「そのキャラが出てきた時って、もしかして岩だらけの場所でスケルトンとかゴーストの群れ薙ぎ払ってたー?」
「そうですよ」
「他の場面で家くらいぶっ壊せそうなハンマー振りまわす巨人とか居たー?」
「居ましたよ」
「白くてでっかい鳥に乗って矢の雨降らす狐の獣人はー?」
「居ましたね」
「泣きながら範囲魔法乱発する天使はー?」
「居ましたけど」
「最後、そのデモプレイってどこで見たのー?」
「チュートリアルの後、この世界の背景として見ました」
そっか、ありがと。と小さく呟いて、私は深く深く息を吐く。なんとか立ち直って髪を後ろに払い、1つだけ決意した。
「とりあえず……管理者の奴一回全力でぶっ飛ばそう」
「「「は?」」」
「それはさすがに違反行為になると思いますよ」
……4人に呆れた顔をされてしまった。
でもそう決意したってしょうがない。運営は過去、つまり『Free to There』で実際に起こった派手な戦闘を“デモプレイ”として流したからだ。でなければ私が覚えている黒歴史的戦闘や、個性的すぎる知り合いが軒並み出ている訳がない。
なので未だ私を疑っている4人の誤解を解くために『Free to There』と『Fragment of ”The World”』が繋がっている事を説明しようと、口を開きかけた。
その時、
「えー、皆さまお集まりいただき、誠にありがとうございます」
マイクか何かで、拡声された声が響き渡った。
区切りを短くして、ちょっと連載ペースを上げようと思います