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五話 幸運と町の人

「おっちゃん、100ギルで食べ歩きのオススメおねがーい」

「おっ、嬢ちゃん分かってんな! ――ちょうど100ギルだ、ほいよ」

「わぁおいしそー。おっちゃんありがとー」

「いいってことよ。また頼むぜ!」


 町の入り口でニーレニアさんという、金髪赤眼でスタイル抜群な細剣レイピア使いのおねーさんを助けてグレーウルフを追い散らしたあと、お礼を言われてごつい衛兵の控える門を素通りさせてもらった。

 その後ギルドの場所とか簡単な町の紹介とか色々お役立ち情報を教えてもらったので、このイベントはやはり初心者向きの『当たり』だったのだろう。

 ……とかいうことを、ソースで焼いた謎肉の串焼きを頬張りながら考えつつ、門から直接続く大通りを歩く。さっきの盾は背負っても転がしても邪魔でしかないから、戦闘が終わった時点でアイテムボックスに放り込んでいた。


「感じは鳥っぽいけど味は豚っぽいという……しかし濃い目の甘辛ソースが焦げて絶妙。あの店は当たりに認定だねー」


 むぐむぐと口を動かしながら歩く先は、5つの大通りが交差するこの町一番の大広場。ギルドに行くにしろ買い物に行くにしろ、とにかくあそこに行かないと話にならない。

 通りを歩いている内、7割近くがエルフやドワーフに代表される亜人というある種壮観な中では、Luckとして明らかに人外な姿をしている私もすっかり溶け込んでいる。それでもちらほら視線は感じる訳だけども、どうせ150cm程度の小さな身長で鎧を着ている、というのが珍しいだけだろうから気にしていない。


(……しかし、フォーの時と姿が微妙に変わってるとはねー……。やっぱり名前を変えた影響かなー)


 噴水に落ちて髪を絞った時に気付いた、体のあちこちに入った白いライン。黒に白が混じるのは種族としてどうなんだ、と思いつつも、ステータスに影響があった訳でもなかったから現在は諦めて受け入れている。

 その辺の事はこれから考えよう、と串焼きの最後の肉を頬張り、肉の無くなった串を適当な角に設置してあるゴミ箱に放り込んで、その近くの売店でまたオススメを注文して食べながら進む。

 ……出てきた惣菜クレープ風の料理を見て、隣の売店で指を空中で動かしていた犬獣人(コボルト)がきょとんとしていた。たぶんプレイヤーで、ウィンドウ操作で買い物してたんだろう。

 彼のようにウィンドウでも買い物はできるらしいが、こうやって話をして買い物(『Free to There』の時は自由入力での注文だったけど)するとメニュー外の食べ物も買えるから、こっちの方が便利だと思うけども。


(そういや、空中で指を動かすって仕草、案外目立つねー。プレイヤーの多い事多い事ー)


 祭りでもあるかのような賑やかさの中、大通りに軒を連ねる屋台の数々。その隙間に開いている普通の店。そういう場所を少し見回せば、同じような仕草をするキャラクターを何人も見つける事が出来た。


(あれ?)


 ふと私は、そんな仕草をしているキャラは人間が圧倒的に多い事に気がついた。さっき売店で見かけた彼はコボルトだったけど……もしかして、新規登録者はほとんど人間だったりするんだろうか。

 だとすれば、相変わらず運営の情報操作は鬼だと言わざるを得ない。あくまで『Free to There』での経験で言えば、人間という種族ははっきりいって損だ。


 人間の利点は成長が早く道具の使用にボーナスが付き、魔法も剣も使えて生産スキルで質の良い物ができやすいこと。まぁつまり詠って斬ってハイレベルな道具を使いまくれるいわば公式チート。

 ……ただ、種族別隠れステータスの『気候条件耐性』というのが全種族中最低に設定されていて、ダンジョンの奥やレアな素材のある辺境、雲の上50メートル地点以上で行動不能になる。

 他にも最上級範囲魔法(=周囲の気候を一時的に変える)を撃たれれば終わりだったり、『天災』と呼ばれる大型モンスターによる都市襲撃イベントに一部参加できなかったり……要するに、行動半径が致命的に狭い、のだ。

 この特性ゆえに、人間のレベルキャップは100と言われている。正規のレベルキャップが200だったから、その半分。何故ならそれを越えるとどうしても上記“行けない場所”の敵を倒さないと経験値が入らなくなるからだ。

 よって、人間でスタートした人はその事が分かるまでは有頂天で無双し、越えられない壁にぶち当たって絶望する事になる。……ま、知り合いに「俺は生産専門だっ!」と言いきって、材料を他種族の仲間に取って来てもらってハイレベルな道具を売る人間プレイヤーも居たけども、それはそれで別種の覚悟が必要なので一般的ではない。


(なつかしいねー、『無双キャラ (体験版)』……しかしこんなにひっかかる人がいると、100まで育てて打ち止めになってもリセットの人数が多くて第二期スタートになるかもー)


 惣菜クレープ、と見せてフルーツクレープだった物の最後の一口を食べ終わり、包み紙をやっぱり適当なゴミ箱に放り込みながら軽くため息をつく。相変わらず、本当に相変わらず、このゲームの運営は性根がどうかしていると思いながら。




 ――運営の性根が、本当の本当にどうにかしていると痛感するのは、そのおよそ数十分後。

 VRなので、プレイヤーにはデフォルトで美形が多いです。

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