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四・五話 その世界に舞い降りたもの

 気が付けば……

 PV4,500・ユニーク1,000突破……っ!

 ありがとうございます!!

 その依頼はなじみの相手からのなじみのものだった。駆け出しの頃から世話になっている仕事だから、ついでにこの間拾った初心者も同行させることにした。

 その際自称・弟子たちが大挙して現れたせいで逃げ回る羽目になり、それを知った依頼主に苦笑されてしまった。まあ、もともとこの依頼主には駆け出し時代の色々な事を知られているから、もはや今更という気にもなったが。

 依頼自体が低難易度で手馴れている、ある意味骨休めの小旅行にも似たものだったのもあって、それ以上は考えるのをやめて準備にかかった。

 町から町へ、安全なルートを選んで通る馬車の護衛。

 ……そんな風に、なめてかかったのが悪かったのだろうか。


「に、ニーレニアさん、僕、もう、魔力が……」

「分かった。あまり薬を使うのも体に悪い、休んでいろ」


 暴走しているような速度で走る2頭立ての幌馬車、そのひどく揺れる荷台で連れてきた初心冒険者のシェレスが泣きそうな声で言った。16歳で成人したばかりの彼は魔術師を志しているため、剣士に比べて体力は劣る。

 現在この馬車はモンスターに追われている。牽制の意味で魔法を撃ってもらっていたが、あとはこちらの弓だけで何とかするしかないだろう。……とはいえ、その矢もそろそろ尽きかけてきているが。

 それでもこれ以上近づかれるわけにはいかない、と次の矢を取ったそのとき、御者台の方から依頼主の声が飛んできた。


「町が見えたぞ! 駆け込めば勝ちだ! もう少し頑張れ!」


 その声にシェレスの顔色が明るくなる。

 町の周りには堅固な壁が張り巡らされ、門の前には屈強な衛兵が控えているのが普通だ。駆け込んでしまえばモンスターは追撃をあきらめざるを得ないし、もし諦めなかった場合は衛兵が相手をしてくれる。

 普通のモンスターが相手の場合は一直線に町を目指して駆け込む。それが一番の対処法なのだが……


「……ニーレニアさん? どうしたんですか、怖い顔して」

「あぁ。……このままではまずい」

「え? どういう事ですか?」


 そう。その対処法が是とされるのは実はランクF~Dまでのモンスターに限られる。何故なら、人の生活圏内に出てくるモンスターはほとんどがそのランクに属しているからだ。

 が、何事にも例外があるように、現在この馬車を追いかけてきているのはグレーウルフが7匹。ランクCに属する灰色の狼が群れで追いかけてきている以上、このまま引き連れていくと頼りの衛兵に締め出しを食らってしまう可能性もある。そうなれば守りきるのは不可能。


 どうするべきか。

 この馬車と、依頼主と、シェレスを守るために、やらなければならないことは何か。


 しばらく考えて、弓から矢をはずすと両方を荷物の中に戻した。代わりに押し込んでいた、荷台から身を乗り出す際にバランスを崩さないよう外しておいた愛剣を引っ張り出す。ベルトに剣を戻して要所を金属で覆う軽鎧に不備がないことを確認して、シェレスに一言頼んでおく。


「シェレス。町について依頼人の安全が確保できたら、できるだけ早く衛兵を呼んできてくれ。頼んだぞ」

「へ? ニーレニアさんそれどういう意味……って、ニーレニアさん!?」


 返事は待たず、馬車から飛び降りる。走っている速度が速度だけに足から着地というわけにはいかなかったが、受身を取ってすぐ立ち上がることはできた。突然のことに驚いたのか速度を緩めたグレーウルフの群れをにらみつけ、剣を抜き放つ。

 突然現れたこちらに警戒して、グレーウルフの群れは走るのを止めた。半円状に取り囲み、威嚇のうなり声を上げている。追いかけるか仕留めるか、迷っているようだ。

 隙を消し、7匹全てを視界に入れつつ、それぞれを睨みつけていく。ジリ、と足を動かして距離を図るしぐさをすれば、グレーウルフのほうも身構える。間の空気が緊張で凍りつく。

 ……これで目的は達成されたも同然、あとはこの膠着状態をできうる限り長引かせる。そうすれば、シェレスが衛兵を呼んできてくれるだろう。

 汗が流れる程度のことでも破れてしまいそうな緊張。


「――重量級汎用アーツ、其の五――」


 その矢先に、ソレは降ってきた。


「――『アースクラッシュ』!」


 は? と空を見上げて確認する間もなかった。

 そんな声が聞こえたと思った次の瞬間には、こちらとグレーウルフのちょうど中間に何かが落下、地面を円形に掘り起こすほどのすさまじい衝撃波を撒き散らした。それでも威力が余ったのか、鈍くて重い音が風となって叩きつけられる。

 あまりの衝撃に土煙が立ちこめ、一体何が落下してきたのかわからない。よく思い出せばさっきの声は幼い少女のものだったような気がしないでもないが……だとすれば、今のこれは何なのか。

 と、思っている間に、土煙の向こうで何かの影が動いた。グレーウルフか、とも思うがそれにしては小さい。場所が何かの落下地点の辺りだから、先ほどの声の主だろうか。


「うあっちゃ、加減間違えたかなー。全部ふっ飛ばしちゃった……めんどくさー」


 …………間違いなく、先ほど上から聞こえた幼い少女の可愛らしい声だった。

 が。その言葉の内容と、その少女らしき影の横に現れた、陥没した地面にあってなお巨大だといえる大きさの影は何なのか。それにさっきの状況からしてあの少女らしき影は空を飛んでいなかったか?

 柄にもなく疑問符を乱発していると、バサリ、という羽ばたきのような音が聞こえて再び風が巻き起こった。土煙を吹き飛ばす向きの風を顔を覆って耐えて、クリアになった視界で再び正面、空から降ってきた何者かを見る。


 そこにいたのは、間違いなく少女だった。それもせいぜい10代前半だろう。流れるような漆黒の長髪には2本のラインのように白い髪が混じり、頭のてっぺんで1つになってアンテナのように立ち上がっている。

 しかしその少女が身に着けているのは灰銀色の金属をしっかり使った全身鎧で、年相応に華奢な右腕を伸ばして支えているのはやはり呆れるほどに巨大な八角形の無骨な盾。

 だが何より特徴的なのは、少女の背中にある片翼に1本ずつ白いラインが入った大きな漆黒の翼と、こちらもやはりラインのように白い鱗が混じる、漆黒の鱗に包まれたしなやかな尾だろう。

 絶対に人間ではないその少女がふとこちらを振り向いた。髪に隠れていた左耳は鋭く尖り、先端に黒い鱗がついている。半ば予想通り人形のように整った顔にどこか挑戦的な笑みが浮かび、混じりけなしの漆黒の瞳には楽しそうな光しかない。


「おねーさん、大丈夫だったー? “今の”私以外無差別だから、一応距離を離して手加減しててもいくらか食らってると思うんだけどー」


 その言葉にはっとして自分の状態を確かめる。が、鎧にも体にも大した傷はなく、あったのは馬車から飛び降りて受身を取った時のかすり傷だけだった。先ほどの言葉で分かった、手加減していてあの威力なのか、という言葉は飲み込んでおく。


「ああ。大丈夫だ、問題ない」

「そりゃ何より。ってことで攻撃のほうは任せていいー? ちょっとこれじゃ狼を追い回すって訳にもいかないしー」


 そう返答すると、陽だまりの様な笑顔でそう言ってのけた。

 ……おそらく、さっきの衝撃波を起こした一撃は、空からあの巨大な盾を地面に叩きつけることで起こしたんだろう。翼があるから空を飛んでいても不思議ではない。が、もう一度アレをやろうとすれば、空に飛び上がる手間が必要だ。

 それぐらいなら『盾』の本分である防御に徹し、身軽そうなこちらに止めを任せたほうが良いという訳か。なるほど、合理的だ。こちらとしても後ろを気にする必要がないなら、かく乱しながら仕留めることができる。


「分かった。町に行きそうな奴をはじいてくれ」

「おけー」


 改めて剣を構えなおす。その間にゆるい返答とともに少女は巨大すぎる盾の内側、円形の持ち手に両手を沿え、ごろりと横に転がすことで陥没地帯から抜け出していた。

 ……翼と尾があることと、耳に鱗があることから考えて、少女は竜に連なる存在なのだろう。あれは基本としてバカげているほどの怪力を持つから、この光景もおそらく日常茶飯事。彼女にとっては当たり前なのだろう。だから一々驚いてはいけない。たぶん。


 何でそんな存在がこんなところに来ているのか、という疑問はひとまず置いておいて、まずはグレーウルフの群れを殲滅してしまうことにした。



 他者の視点から主人公の容姿を。

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