エピローグ 全ての背後での奮闘
そいつらが現れたのは、VRを主軸とした新興のゲーム会社に会社を潰されそうになり、危機感で錯乱した上層部が下した『VRに負けない2Dブラウザゲームを開発しろ』という無茶無理無謀な命令を、俺たちが文字通り命をかけて何とかしようとして、そして完全に手詰まりになったある日の真夜中だった。
「お困りかな、ゲーム開発スタッフの皆様っ?」
身長は約120㎝、ピンクと白とひらひらフリルで飾られてはいるものの典型的な魔女の格好、素顔は目深にかぶられたつばの広い三角帽子で口元以外見えない、声から判断するに少女がいつの間にか部屋の入口の所に立っていた。
当然ながら、その当時まともに反応できる人間などそこには残っていない。机に突っ伏し、あるいはコピー機の手前で倒れ、あるいはコーヒーでダイイングメッセージを残している屍だけだ。ちなみにダイイングメッセージの内容は「とうどのバグ」。他のもシステム関連。
だから、そのリアクションと流れるような会話は、その謎少女ともう1人の闖入者……身長約170㎝、こちらは紫を下地に黒を重ねた正統派典型魔女の格好、ただし輝くような銀色の長いまっすぐな髪と妙にゴテゴテしい目隠しが特徴な女性……の間で繰り広げられたものだ。
スパァン!
「こらこら、突然そんな事を言って、皆さん驚いて固まっちゃってるじゃないですか」
「いたっ!? そのハリセンは何処から!? ていうか話しかける前から既にグロッキーになってたよ!?」
「人と話す時はまず自己紹介から。そして話自体は簡潔に分かりやすくそして粘り強く、ですよ?」
「そっちこそ人の話聞いてないよね! まずはインパクトを与えて現実に復帰させようとした心遣いだったんだけど!」
「あらあら、そうだとしてもさっきの言い方は悪魔の囁きにしか聞こえませんでしたよ? さすがに【封印者/シールズ】に連なる方が口にするべき言い方ではないと思うのですけど」
「ええい、そっちこそあっさりと魔術家名を口にしない! ほら、すっかり置いていっちゃってる! 話を元に戻すよ!」
何がどうなっているのか分からないし、途中聞き取れない外国語らしき単語が混じりもしたが、一応開発主任という責任を背負っている俺は、なけなしの気力をつぎ込んで意識をはっきり覚醒させ、机から立ち上がって妙な二人組に向かい合った。
「……何だか話に割り込んで悪いんだが、あんたらは誰だ、そしてどうやってここに入った? そして俺たちは確かに困っているが、一体何をするつもりだ?」
後から思えば、ここで立ち上がれた事が、俺こと波丹火搭吏の運命を変えたんだろう。当時はなけなしの責任感とハリボテみたいな誇りでたまたま立ち上がったにすぎなかったが、もし立ち上がれなかったら今、俺はここにいなかった筈だ。
「おーい、リンカさんよ。とりあえず『Fragment of "The World"』の第一陣が本来の仕様通りに起動したぜ。時間誤差の方も予想範囲内、その他諸々の問題も今のところクリアーだ。後は向こうの世界にぴったり合うように細部をいじって、災厄の排除の確認に相手の偉いさんとの契約の場にもう一度行くんだったな?」
「はいはい、本当に皆さん働き者ですね、こんなにスムーズにいくとは思っていませんでした」
あの日あの場にいた部下が持ってきた書類にざっと目を通し、パソコンを前に何やら楽しげな声を上げる目隠し銀髪魔女に声をかける。相変わらず典型的な魔女の格好を崩さない謎の美人だが、この4年ですっかり慣れてしまった。
唐突にもたらされた『異世界を救う人材の捜索、及び異世界との扉の開発・維持』という仕事。見返りは上層部からの命令の完遂。及びその後継続的な利益。下手をすれば一生を拘束されるとのことだったが、俺のチームに当時の時点で残っていたのは根っからの遊び好きで重度のゲーム中毒者で永遠の子供心の所持者ばかり。むしろ一生こんなファンタジーに関われるんだから何もしなくても志願していくような奴らだ。問題は無い。
「あらあら……これなら平和的と言い切るにはちょっと不安の残る方法なんて用意せずに、始めから丸投げする方向で話を持ってくればよかったでしょうか? 良い方向に予想を裏切り倒してくれますね」
「……ほんっと、あの時気力をつぎ込んだかいがあったってもんだな……」
当然ながら後から聞いた話だが、リンカとカイネ (こっちはピンク×白&フリルの少魔女の名前)は話を持ってきた当時、さほど俺たち開発部に期待していなかったらしい。俺が立ち上がらず倒れたままだったら『平和的と言い切るにはちょっと不安の残る方法』を使って強引に話を進めるつもりだったんだとか。その中身は知らないが、その本性が十分一般人から逸脱しているのを知った今となっては知るのも恐ろしい。
「だがま、モニターで見る限り排除の方はうまくいったみたいだがな。それにしても“マーチ”のオリジナルの方が勇者をやるとは……逆に魔王が哀れだぞ、俺は」
「まあまあ、いいじゃないですか。インパクトというのは最初が肝心で、事によっては脅迫に使えるくらいのインパクトが必要だったんですし」
にこにこと言うリンカ。礼儀正しいし美人なんだが、時折言動が過激になるのが玉に傷だ。
「次に話し合うのはこっちの成果と時間倍率関係、後はすり合わせが必要な部分とアプデ計画に連動した神鎖結界の範囲の確認だったか。おーい、資料まだかー」
つい口車に乗せられてほいほいと結んだ契約の相手はあろうことか異世界の神。しかもうっかり共鳴者としての適性もあったとかで同様の部下数名と調整係に駆り出され、気が付けばいつの間にか下位とはいえ神になっているという波乱万丈。
俺たちの用意したイベントはこの波乱万丈からの現実逃避として考えた物がほとんど。後は異世界の神が『こう言う災厄は確定で起こるからシミュレーションお願い』と頼んできた横暴な物。
理不尽だとは思うが、思う存分楽しんでくれ、プレイヤー諸君!
別視点・後日談。
……だった筈が、何故か別視点・裏事情に。
ところで今回主役だった人ですが、過去一回だけ登場しております。
……お分かりになった方、おられるでしょうか?
答えは後日、活動報告で……
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!