二十九話 幸運と討伐禁忌存在
『降り注ぐ裁きの光』
光属性の魔法陣描画系統に属する最上位広範囲殲滅魔法。聖属性ではないため使徒・幻獣系のモンスターにも有効な上、熟練度を上げれば自動で魔法陣の作画が可能となる良魔法。
ただしそのコストパフォーマンスは威力に応じて最悪。その上発動者以外の全てが無差別に攻撃対象となりダメージが通る為、達人達により禁じ手の1つに数えられている。
その最悪の一手が、今、目の前で発動している魔法の正体だ。私の種族は暗竜(今は(?)がついてるけど)で、つまり光属性に対して弱い。光属性魔法に関して反則的な威力を叩きだす天使ことリーベが使ったコレは、かすりでもすればただでは済まない。
育てたのが“マーチ”だったのが悪かったのか、リーベは一度キレると殲滅系魔法を乱発する悪い癖がある。しかもどこで堪忍袋の緒が切れるのか今一分からないため、扱いが分からない分ディーグ達より危険度が高いのだ。普通にしてる分にはただの気の弱くて大人しい少年なのだが。
「しかし、これはっ……ちょっと、きついってのー……っ!!」
全力を込めて『ブロック』のかかった『八方守護陣盾』を支えているが、感じる圧力が凄まじいの一言に尽きる。はっきり言って、個人が振り回していい規模の力じゃない。
まぁ、だからこそ、と言えるのかもしれないが……それにしたって、何も――
「何も……っ、『魔王様のお気に入り』が居る時にこれを使わなくてもいいだろーにー……っ! 今の現実により近い状態で、消し飛ばしたりなんかしたらどうなるか、運営の性根を考えたらっ、分かりそーなものでしょーがー……っ!?」
『……おい、クー。お前今、何て言った?』
『聞き間違い、だよねぇ? あの中に『魔王様のお気に入り』が居る、なんてさぁ……?』
どうやらチャットを繋ぎっぱなしにしていたせいで、独り言をディーグとトーレに聞かれたようだ。どっちの声も微妙に震えている気がしない事もないが、はっきり言って今の私にそんな事を気遣ってやる余裕は無い。
なので半ば吼えるようにして、チャットの向こうに声を叩きつける。
「聞き間違いじゃなくはっきり言ったけどー!? 『魔王様のお気に入り』があの中に居るって、今独り言できっぱり断定したけどそれがどうかしたー!?」
途端。
『どうかした、じゃないだろう!? 何でそれを早く言わない!!』
『あぁぁぁ、知ってたら力ずくでもリーベ止めてたのにぃ!! 最悪このまま世界終了じゃないかぁ!?』
『ちょ待ってそんなんアカンやろ!! 何でこんな序盤の序盤にそんなんが出て来るん!?』
暴走している約一名を除き、次から次へと上がる悲鳴。それを聞きつつ、そんなの私が聞きたい、というか誰か早く運営の性根をどうにかしろ、と思いつつ、盾が押されてきたため、左足を一歩下げる事で体勢を維持。
『待ちたまえ、『魔王様のお気に入り』と断定するからにはそれなりの根拠があるのだろうな? でなければ無用な混乱を招いたとして百薬万毒の餌食になってもらうが、その結論を出すにいたった証拠というのを先に語って見せてもらおうじゃないか』
阿鼻叫喚、という風になったチャットに割り込むフォスカー。一連の流れを聞いていたのはまぁ当然だろうが、やはりというか何と言うか、こいつは無駄に冷静だ。
……だが残念。私は小一時間以上の時間をかけてボスモンスターの正体を割り出したのだ。これで間違っていたらゲームを止めてもいいと断言できる程度の根拠はある。
「じゃー言ってやろーじゃないのー! 今やって来たのは『魔王様のお気に入り』の中でも特に別格、固有名[Blink Bat]! 核となる一匹だけがやたら固くて体力がある上逃げ足だけは超一級品のメンドくさい奴ー! 分裂した小さい奴を何匹か捕まえて町の中に戻った初心者の内何人かに持たせてるから確認ぐらい勝手にしてよねー!」
『クーが分裂したの捕まえてるってそれ完璧確定済みじゃないかぁぁぁぁ!!』
『む、それだけの根拠がちゃんとあったか。それは疑ってすまなかったな、貴様の頭脳もまだまだ捨てた物ではないという事か。今回の作戦もキレが残っていたし、』
盾を押し込む圧力に対する為、怒鳴るようにして返答。全力で取り乱しているトーレと無駄に冷静なままのフォスカー。
二者それぞれの叫びと喋りがしばらく続いた所で、ディーグがぽつりと。
『……本気で世界が終わる瞬間を見る事になるとは……な』
『悟っとる場合かディーグ!! 少しでも何かできる事が無いかどうか考えんかい!!』
ライさん、ナイス突っ込み。
とか何とか言っている余裕も私の方には無い訳で。
「つか……早くあの暴走天使何とかしてくんないかなー……っ!? そろそろ、こっちも、弾かれそうなんだ、けどー……っ!!」
また一歩、足が下がる。が、あと少しでも下がれば町に被害が出る。そんなギリギリまで押し込むリーベの魔法は本当に凶悪だ。モンスターの群れ相手だってこんな所まで押し込まれなかったのに。
『あぁもうどうするのあの運営だから本当に世界が終わっちゃうよぉ? しょうがないからまずはリーベの暴走を止める所から始めるけどさぁ』
『これからどうなるかは怖すぎて想像する事もゴメンだが、リーベが『降り注ぐ裁きの光』に加え増幅系の魔法を使いだしたようだから、そろそろ本格的に妨害しないとここら一帯が吹き飛ぶだけでは済まないな』
『おっかしいなあ、どこで育て方間違えたんやろ。現実ではあないにキレる子やないねんけど、こっちではああなったら気絶するまで止まらへんとは……』
各々言いつつ、それぞれに構える気配。頼むから早くして、と心の中だけで呟く。やると言って出来ない事は無い、というのを知っているから、失敗したらどうしよう、という心配はしない。
『ふむ、それではここでとっておきとしていた花火玉をいくつか特別に使用して』
「余計なことすんなマッドサイエンティスト、話がややこしくなるー」
『頼むから大人しく傍観しておいてくれ』
『これ以上騒ぎを大きくしないでよぉ』
『あんたの仕事は大人しくしてる事、ええね?』
唯一の不安要素は全員がかりの言葉攻めで動きを封じる。返事は無いが、ぶつくさ言いながらも大人しく私が捕獲した分裂後の小[Blink Bat]の確認にでも行っていることだろう。
どうにか収束へと向かいだした今回のイベント。その最終幕を目の前にして、祈るように私は呟いた。
「世界終了、成るかどうか……頼む運営、楽しみだけを追求するのはいい加減やめてほしいー……」
『魔王様のお気に入り』=討伐禁忌存在
具体的には次回で。まぁ、ディーグ達の反応で大体分かるかと。
……ようやく、あらすじに沿えそうです。