二十八話 幸運と天使の本気
とりあえず消えたボスクラスモンスターの正体を突きとめる為に、色々と試してみる事、1時間。ディーグ達はどうやら本気という名のパターン変化を出した地上のマウンテンクラスモンスターに手間取っているらしく、未だ増援に来る気配が無い。
あれやこれやそれや、と具体的に数を数えるのが面倒になって来た辺りで、私は一旦消えた後、姿を現わしたりまた消えたりとせわしないあのボスクラスモンスターの正体を突き詰める事に成功した。
「よりによってコイツかー……。また面倒なー……。そういえば勝利条件にボスモンスターの撃破が入って無かった訳で、つまり殺すとまずいとそう言う事ですかそうですかー……」
はぁぁぁぁ、と重ーいため息をつきながら『八方守護陣盾』を構えなおし、空中で翼を一打ち。
「重量級汎用アーツ其の三、『ラッシュクラッシュ』!」
ぐん、と自分で起こした加速以上の速度で前へ打ち出され、『ブロック』のかかった『八方守護陣盾』を正面に敵群の中へ突っ込んだ。
ドドドドドン、と連続で衝突しては吹き飛ばす手応えを感じながら一定距離を進み、アーツが終了して加速が緩んだ瞬間、上空へ退避。
追いすがってきた叫び声をスクロールで静かにさせて、再び町と群の間に戻る。さっきからこれの繰り返しだ。
「しかし本当どうしたもんかー。確かばらけた状態なら捕獲可能だったはずだけど、コツが要るから初心者には無理だしー、レクチャーしてる暇は無いわけでー……」
前方を警戒しながら悩む。正直なところ足りない物が多すぎて、まともに戦争の形になっているだけである種の奇跡だ。
未だ晴れない闇の中、一定感覚で打ち上がる閃光弾の明かりを頼りに、近づいて来られては突っ込んで蹴散らし、ひたすら時間を稼いで頭を動かす。
月にかかった雲がどこかへ行ってくれれば、人間補正で何とかなるのだけど…… と、思っている前で黒い物が渦巻き、最初の何だかよく分からない塊に戻った。
「……実はあれも、細かいままなんとなく固まってみただけのなんちゃって合体だしなー。いやまぁ、一気に殲滅しきれないから、ディーグ達がいる以上正しい選択ではあるんだけどー……」
次の突撃の気配に『八方守護陣盾』を構え直す。どうせカウンター気味の攻撃で再び細かくバラけるのは分かっているので、ため息を1つ。
「重量級汎用アーツ、其の三」
バラバラとこちらへ来る黒い影。追い散らす為にもう何十度目かの突進系アーツを発動しようとして、
「『ラッシュ――」
「リーベを見ろクー!!」
唐突な怒鳴り声に詠唱を中断、一度大きく羽ばたいて後方へ下がり、攻撃の為に構えていた『八方守護陣盾』を防御の為に前面に出す。
その一瞬で地上に白い光が走り、輝く魔法陣を描き上げる。どこかで見たような、と脳内検索をして、出てきた結果に思わず顔が引きつった。
「いやいやいやいやそれはちょっとさすがにどうなのかなって思ったりするんだけどー……っ!?」
「さっきっからぁ~……ごちゃごちゃとキリの無い上にうっとうしいだけの突撃ばっかりでぇ~――」
そう思わず口走り、さきほどの怒鳴り声の通り空中の一点に視線をやると――ふるふると全身を震わせながら、白の上に七色を光らせる羽の天使がそう呟いていた。
あ、こりゃだめだもう誰も助からん。とその声を聞いた時点で判断して、初心者組に「即刻町の中心まで総員退避、親方たちにも伝達して誘導するのを忘れないでねー」と通達。アイテムボックスから一時的に防御力を引き上げるブーストアイテム (ポーション型)を取り出して一気飲みして、『ブロック』をかけ直して地上に降り、町の門の前で防御姿勢に入った。
その目の前で魔法陣が完成。驚いた事に、空中にあったモンスターの大半をその直径の中に閉じ込める巨大さで展開された魔法の上で、発動者が咆えた。
「――いい加減っ、あったま来ましたぁ~! もう全部まとめて吹っ飛んじゃえですぅ~!!」
公式チート種族の内、最も敵に回すとどうしようもないと評された、光系魔法に限り他の追随を許さない、天使。
今目の前で展開されているコレは、その中でも間違いなく最高ランクの一撃である。
「あまねく全てを調停せよぉ! 『降り注ぐ裁きの光』!!」
更新が飛び飛びになってしまって誠に申し訳ありません……
しばらくこの調子で更新が遅れる可能性が高いです。すみません。