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二十四話 幸運と次の災厄

 ディーグがモンスターの群れに先陣を切って突っ込み、本物の波に石を思い切り投げこんだ時のように、ババッ、と黒い影が多数空を舞った。

 次いで、別方向からトーレが急襲。息つく間もないくらいめまぐるしく色が変わる光が振り回され、ディーグほどではないにしろ影が多数空へ舞う。

 その2人が群れの中ほどまで突き進み、運よく此方側へ来る事が出来た集団があった。さすがにあれだけいればあの2人のバカげた攻撃力でも殲滅しきれないものらしい。ただ、それでもまだ武器を構える必要は無い。

 再びまとまった塊に、待ってましたとばかりに襲いかかるのは光属性の呪文系最上級範囲魔法。月を背景に虹色がかった白い羽を広げて浮ぶリーベが放ったものだ。

 そして全体を見回すと、この3人が倒した数と目に見えて減った数の帳尻が合わない。どう考えても余計に減っている分は、ライさんの仕業である。


「うーん、まさに容赦無し。心の底から戦闘(じゅうりん)楽しんでるなー4人ともー」


 そんな光景を、仕事の終わった私は『マルチキラー』を肩に担いだままただただ眺めていた。討ちもらしでもあればと思って構えるだけは構えているのだが、ぶっちゃけめちゃくちゃ暇である。

 わたわたと『始まりの町』から出てきた初心者達に、近寄ったら巻き込まれるよ? という簡単な警告を伝えるのも大体終わり、今私の周りには風が吹いているだけだ。

 このペースで行けば月が沈む前に殲滅しきるだろう。スクロールでの強化は威力ボーナスによりおおよそ1時間続く。逆算して、必要なスクロールはあと3組分といったところか。


「それは先に組んでおくとしてー……またしつこくしつこく勧誘されるんだろうなー。めんどくさー」


 本当、巻き込むのはほどほどにしてくれないかなー……。とか何とかさっき使ったのと同じスクロールを取り出し、重ねて細長い筒に押し込みながら考えていたら、雑魚の大群の奥に鎮座する、巨大な影に変化があった。


「……雑魚召喚の咆哮……かなー? いや、それにしては何かちょっと違うよーなー……」


 ぐぉぉ、と巨大な口? らしきものを開き始めたボスモンスター。ディーグ達がたどりつくにはもう少しかかりそう……つまり、行動阻止はおよそ無理だと判断した時点で、ふと嫌な予感がした。

 が、まぁ予感がしても打つ手は無い訳で、ウリアムーチのように巨大なスライム型だったボスモンスターは、上の方を半円にくぼませた状態で動きを止めた。変化を見逃さないようにしっかりボスモンスターを見据えながら、両手で耳をふさぐ。


キィイイイイイイイィィィィィァァァァァァァァ…………!!


 響いたのは、最初の銅鑼のような低いものとは違い、ガラスでも引っ掻いたような不快に高い咆哮だった。嫌いな類の音なので盛大に顔をしかめながら、それでも目は離さずに耐える。あらかじめ耳をふさいでいたのが良かったのか、気分が悪くなる所までいかなかったのは幸い。

 さっきの何倍も強く嫌な予感がするままに周囲を見回す――が、見える範囲で特に変化は起きていないようだった。雑魚召喚の咆哮とも違ったようで、ディーグ達が暴れている辺りに変化は無い。

 で、ディーグ達が暴れている辺りに変化が無いという事は、つまり雑魚強化というボスモンスター特有のアーツでもない訳だ。自分の体力バーの下にずらっと並んでいるアイコンを眺める限り、こちらに何らかのマイナス効果をもたらすプレイヤー弱化のアーツでもない。

 こうやって消去法で可能性を削って行った先に、さっきの咆哮らしき物は何だったのかという問いの答えが出る訳なのだけども……


「…………ちょっと、マテ?」


 思い至ったのが、現状を考えて最悪の答えだった。コレで当たりだったとしたら、まずこのクエストはクリアできない。

 そんな私の否定してほしい心を察したか、『始まりの町』からカーン、カーンという警鐘の音が響いてきた。これで結果は確定、予想は大当たりとなる。思わず頭を抱えてしゃがみこみ、呻くように声がもれた。


「よりによって、別系統モンスター群の召喚とか……!!」


 『始まりの町』周辺に水場は無く、今ディーグ達が相手取っているのは地上系。となると、新たに別方向から来るモンスター群は飛行系だ。もし当初の予定通り初心者だけでやっていたとしたら無理ゲーもいいところである。人間補正にも限界というものはあるんだぞ運営。

 とりあえず頭の中で、思い浮かぶ限りのGMのアバターに考えついた限りの罵詈雑言を浴びせ、自分の使える中で一番凶悪な魔法を叩きつけた所で深呼吸。戦争モードに頭を切り替えて、何か打開策が無いか必死で考える。


「フェーネ達に約束しちゃったからなー……塔山に登れなくなったら、一番近いとこでもレベル上げるのにそこそこ時間かかるしー。となると、最悪5日の間にフェーネ達は加護を受けられなくなるから、それは流石に不具合が怖いっていうかねー……」


 地上の殲滅はディーグ達に任せればいい。が、『始まりの町』に残っている戦力は非常に微々たるものだ。おまけに飛行系のモンスター相手だと、アドバンテージである人間キャラが殆ど活躍できない。

 つまりこちらの利を生かす為には、人間を魔法や飛行可能キャラで上空に放りあげるか、飛んでいるモンスターを片っ端から地上に叩き落とすしかない訳で――


「…………んー、成功率それなりだけど、背に腹は代えられない上時間も準備も足りないしなー。とりあえずダメ元で行ってみますかー……」


 しばらくひたすらに考えて、とりあえずひねり出した作戦ともいえない作戦。

 それを補完するべく第2第3の策を練りながら、私はディーグ達に追加のモンスター群が来た事、その群れが飛行系である事、そちらの対処はこちらでするので地上の殲滅に集中する事、対処のために一度パーティを抜ける事をメールで知らせた。

 返事は数秒後、『分かった、いいぞ』という簡潔すぎる内容で返ってきた。一行が半分も使われていないぺらぺらの内容を一秒弱で読み終わって即座に閉じる。流れるようにパーティ画面を開いて『脱退』を選択。

 視界の左側からディーグ達の名前が消えたのを確認せず、私は警鐘の鳴り響く『始まりの町』へ全力で駆けだした。




 ただのイジメでは終わりません。

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