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二十三・五話 『さいきょう』と呼ばれたもの

「うーん、やっぱりクーちゃんの補助魔法は独特でいいねぇ」

「ホントホント、固定パーティ入ってほしいわ。こんだけ底上げしてくれたら何が来ても逃がさんよ」


 補助魔法のかかった体を確かめるように動かして、トーレとライはそれぞれ言った。物騒な得物を軽く振り回しての言葉は丸っきりの本心だ。

 実を言えばトーレは魔法剣士でリーベは魔法使いなので、補助魔法も使えない事は無い。が、自前でかけるぐらいなら攻撃魔法の一発でも放った方が効率がいいので放ったらかしだ。故に、クーがいるといないとではその殲滅速度に大きな差が出る。


「普段何故か忘れちゃいますけどぉ~、頭いいですよねぇ~クーさんって。普通、あんなにたくさんの種類覚えきれませんよぉ~」


 誰もがその応用範囲の広さに気付きつつも挫折した『アイテム使用系統魔法』真髄スキル『重ね撃ち』。見事に使いこなされたその魔法は、アイテムを消費する、というデメリットの分他の系統の補助魔法より効果が高い。

 が、今リーベが言ったように、その膨大に過ぎるアイテムの効果と名前を覚えるのは至難の業だ。その上『重ね撃ち』を使おうと思えば、それ専用のアイテムが更に追加される。2~10個で構成される組み合わせまでともなると、よく使う組み合わせを覚えるだけで相当な物だ。


「それに単騎での戦闘力はこちらが上だが、その分あいつは統率力と編成力に優れているからな。あいつ自身から町の防衛力を読んでかかると手痛い目に遭う」


 実際酷い返り討ちに遭った事のあるディーグがしみじみとため息をついた。


 昔、PKとして名をはせていたディーグ(当時はルガード)はダンジョンの浅い階層でちょろちょろしていたクー(当時はフォー)を見かけ、当然のように不意打ち。

 重装備な割にあっさり狩れたため、これはもしかしてカモか? と思って町までつけていって位置を記録。本人と同様攻撃に特化した部隊を引きつれて攻め込んでみた。


 結果、惨敗。


 攻め込むどころか町を守る壁にすら到達できず、せめて敵を道連れにと思っても後方から飛んでくる回復魔法でかすり傷すら残せず、苦汁を飲んで撤退をしようとすればいつの間にか背後は致死性の罠だらけ。

 本人を含めて1人残らず殲滅され、その上多額の賠償金を請求され、そして町に帰ってみれば住民の大半が移民として出ていってしまっていた。調べた結果、その移民先は先程攻め込んだ町だと言う。


「……柄にもなく、こいつだけは絶対敵に回すまい、と誓ったものだ」


 ふ、と遠い目をして過去を回想するディーグ。遠征した部隊の完全壊滅だけではなく、町の維持と発展に欠かせない住民をすら何かのキャンペーンで持っていかれた傷はもはや1人ではどうにもならなかった。

 かと言って町の発展に詳しい知人などいるわけがなく……反省と謝罪とを重ね、PKを止めることを誓わされて、攻撃した相手に助けてもらったのはディーグの中で黒歴史である。


「まぁ、味方につければここまで頼りがいのある相手もいないけどねぇ」

「ルールとモラルとネチケットを守って遊びましょう、やな」

「実はごくごく普通の事を守ればよかったっていうことですぅ~」

「それを理解しない馬鹿がまたたくさん湧いていそうだが」


 それぞれ言って目の前に広がる黒い津波……モンスターの群れと、その奥に鎮座する山のように大きな影へと目を向ける。

 過去『Free to There』で組んでいた固定パーティ“マーチ”として、最狂にして最凶、故に最強だの、掃討殲滅専門最終兵器だのと呼ばれ、『絶対に敵に回してはならないランキング』で最後の半年間連続で1位を取り続けた事もある4人。掃討・殲滅に関しては大規模攻城兵器を含めた誰や何よりも凶悪な力を持っている彼らであっても、越えられない壁というものが存在する。




 そのうち1つは最難関ダンジョン。過去も今も登頂の記録が存在しない、一説には最高神が住まうと言われる、大陸最高峰、エリブルース塔山。

 1つはシステム的絶対災厄。極稀に大規模襲撃クエストに現れ、居るだけで破壊を撒き散らし命を奪い尽くす、混沌を司る堕ちた神。




 そしてもう1つは、何故か何処にも知られておらずほとんど誰も知る事のない、ダンジョンで囲まれた僻地の森の、後ろで暇そうにしている誰かが作り上げた絶対堅固の町である。

 

 彼らに数なんて揃えるだけ無駄です。

 でも突破できない防衛線。他人の力を使うのだけはうまいクーでした。

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