二十三話 幸運と災厄
大規模襲撃クエスト。
システムによって運営され最初から世界に存在する町、通称神町(これに対して、プレイヤーが作った町は人町と呼ばれる)の内、特殊な施設を有する町を対象にゲーム内時間で数ヶ月~1年の頻度で発生する特殊クエストで、『Free to There』のプレイヤーは、
「運営が考えた中で最大最悪のイベントクエスト」
と口をそろえている。
なんでこんな酷い評価なのかというと、このクエスト、?時0分のランダム発生と同時に自動受注され、その町からの逃亡が不可能になってしまうのだ。しかも失敗した場合は町がモンスターに占拠され、特殊な施設……この『始まりの町』の場合は失敗条件にあった「塔山への門」が使えなくなってしまう。
しかもモンスターが占拠している間その町はダンジョン扱いとなってボスモンスターが棲みつき、再度町として機能させるためにはまずボスモンスターを討伐し、その後残った雑魚の掃討クエストを一定期間内に全てクリアしなければならない。
失敗した場合のリスクが大きすぎるこのクエスト。なら失敗しなければいいんじゃないか、とか思う訳だが、そう簡単にはいかない。
このクエストは、大規模襲撃、と名のつくことから分かるように、襲いかかってくるのは1000体を越える雑魚モンスター+超ド級ボスモンスターが1~5体の文字通り大群。しかもこのボスモンスターは必ず雑魚召喚能力を持っていて、手こずれば手こずるだけ倒すのに時間がかかる。
敵はその周辺のダンジョンを含んだ湧きモンスターで構成されるために苦戦は必至。適正レベルのプレイヤーが300人いた所で守りきれるかどうか怪しいものだ。人間であれば、まぁ、種族補正で何とかなるかもしれないが、このクエストのボスモンスター、低ランクの数体を除いて気候変更能力を持っている為、正直な所人間は役に立たなかったりする。
とはいえ、今回の舞台は初期の初期な町である『始まりの町』。
周辺にこれといったダンジョンも存在せず、ボスモンスターも最低ランクで雑魚召喚以外に特殊能力の無い体力バカ。
その上戦闘狂と書いて大規模戦略兵器と読むLv200到達したプレイヤーが4人もいる訳で。
「……まぁ、勝てるよねー、これは。開始早々こんな特大イベント引き起こす運営の性根はもうどうにもならないとしてもー」
投げやりに言いながら月明かりに照らされる黒い津波を眺める私の現在位置は、『始まりの町』の唯一の出入り口から20m程進んだ草原のど真ん中だ。私の少し前にはディーグ達が横並びで並んでいて、視界の端に彼らの体力バーが並んでいる。
戦力としては彼らだけで十分なので、私の今回の仕事は補助。パーティを組んだのは補助魔法の効果範囲の都合上で他意はない。……平均分配の経験値をこっそりもらおうとか思ってないからね? ちゃんとダメージに応じた分配になってるからね?
とにかく誰に言っているのか分からない言い訳を切りあげて、アイテムボックスから何枚かのスクロールを取り出す。こーしてこーしてこっちをこれにしてー、としばらく並べ替え、「いくよー」と軽く声をかけて発動。
「スクロール重ね撃ちLv2、『拡散』『付加』『強化』『増幅』『祝詞』『高揚』『応援』!」
THE・多重強化。実際には若干違うのも混じっているけども、倍率としては少なくとも8倍はいっているだろう。
1人1人があのボスモンスターを1対1で相手をしても引けを取らない実力者が、魔法で少なくとも8倍の能力になって、それが4人いる、というのが現在の状況だ。
…………まぁ、あとはもう、語るまでもない。
ボスモンスターの再度の咆哮を合図として、戦闘狂4人による草原での大規模戦闘が始まった。
はい。無双です。主人公ではないですが。