幕間 新たに来る、年と人
1月1日。
『Free to There』最大にして入り口、初心者のみ新規参加可能というGM運営ギルド。完全に町を1つ丸ごとギルドホームにした、そのギルド所有としては最も広い広場に、現在ログインしているほぼすべてのプレイヤーキャラが集まっていた。
円形の広場の中心にはこれまた円形の舞台が設置され、現在はその中心にギルドマスター(全身原色の羽で飾り付けしてあるピエロアバターGM)がマイクを右手にグラスを左手に、新年初めの挨拶をするため立っていた。
「新年明けましておめでとうございますこの廃人共!! 今日はここで新しくチーム結成するのも解散するのも出会いを求めるのも飲んだくれるのもやけ食いするのも自慢するのも何でもありだ!! やるべきことは1つだけ!!」
一拍、大きく息を吸ったらしいピエロGMは画面の半分ほどを覆う大きなフキダシでまず言って、また一拍溜めを作り、さっきと同じ大きさのフキダシで宣言する。
「楽しむ事だ!! カンパーイ!!」
それに応じて、画面の中が「乾杯!」や「あけおめ!」といったフキダシで一杯になった。おまけに記念品の一番下、“不思議な花”一個で手に入る花火アイテムが次々と打ち上げられていく。この程度でラグは起こさないものの、自キャラがどこにいるかを見失いそうだ。
一定間隔で設置されている丸テーブルを調べると手に入る飲み物アイテムや食べ物アイテムを使用し、動き的に本当に飲んだり食べたりしているように見えるキャラ群の中、中の人は数秒かかって一度見失ったルガードの姿を見つける事ができた。
『すまん、見失っていた』
とりあえずパーティ仲間相手に中の人用のチャットで今から合流する旨を伝え、再び見失わないように注意しながらごったがえすキャラ群の中を移動する。しばらくして、中心から離れたとある丸テーブルの周りにパーティ仲間が集まっているのを確認できた。
「遅くなった。すまん。運悪く中心近くに飛ばされてな」
「中心ですかー。むしろそのぐらいの時間で出て来れる方がすごいと思うんですがー」
「同感だねぇ。僕は建物の屋根に放り出されたから知ってるけど、中心の方はまさに黒山の人だかりって感じだったよぉ」
『まぁ髪の毛が黒くないから黒山じゃなくて彩山の人だかりって言った方が正しいんだろうけどぉ』
『それ言ったら9割9分人外種族なんだから人だかりも間違いでしょー』
『とりあえず慣用句としての意味だけ受け取っておくぞ』
ダンジョンで出会ってからと変わらずキャラと中の人で別々の会話をする。
『……あのぉ~、皆さん、何でそんなに早く2人分しゃべれるんですかぁ~?』
そこに、数テンポ遅れた言葉が届いた。発言主はキャンドラという少年天使の中の人で、さっきから自己紹介していたログを辿ると、この『Free to There』を始めてほぼ三ヶ月……つまりサーシィスとずっと一緒にやって来た事になる。
始めた理由の方を辿ってみれば、リアルの知り合いであるサーシィスの中の人からストーカー一歩手前くらいの手段を使って誘われ続け、エスカレートしてきたやり口に恐怖を覚えて始めたら意外と面白かった、というのがそうらしい。
その誘った方であるサーシィスの中の人は、なんとルガードやフォーの中の人と同じくらい……つまり、『Free to There』の最初期から参加している古参プレイヤーだった。どおりで卑怯上等勝てば官軍反則鬼畜は褒め言葉、と達人達をもって言わしめた暗殺者キャラを使っている筈である。
そしてほぼ完璧な初心者であるキャンドラの素朴な疑問に、玄人4人は考える事数秒。
『慣れだな』
『慣れだねぇ』
『慣れでしょー』
『慣れやで』
ほぼ同時に全く同じ内容を回答した。また数秒置いて、『え、えぇ~……?』と遅い返答が来るが、他の4人のキャラが何度も丸テーブルを調べては“ハッピーピザ (焼き石釜の料理人)”というハイレベル料理人が創った料理をアイテムとして持てる限り手に入れているのに対し、キャンドラは棒立ちのままだ。
『タイピングに自信ないなら、こっちの会話もキャラの会話もパスしてアイテム取るのに集中した方が良いよー』
最終的に、この中では地味に一番面倒見の良いフォーの中の人がそう発言して、やっとキャンドラが再起動。が、やはりそのスピードが雲泥の差である。
そんなキャンドラを援護……する訳では絶対なく、フォーの中の人が話を振って来た。
『ところでルガードとワイズー。サーシィスとキャンドラの点数はいかほどだったー?』
『んー……まぁ、悪くは無いかなぁ。でも要修行と連携訓練、って事で、55点くらいだねぇ』
『俺の方も似たようなものだな。ただ、大部屋の前の惨状からさらに10点減点だが』
ワイズの中の人の評価に、ふむ、と画面のこちら側で1つ頷いて、やや辛口の評価をする中の人。
『いやいやいや、あれは違うんデスて! 入ろうとしたら中から別の集団が飛び出してきて、すれ違う時にトラップ起動していったんデスよ! 解除も阻止もする間もなく天井が降って来たからとりあえず大部屋へ滑り込んで、でさっきの集団に向けられたんだろう極太ビーム食らって一撃死だったんデス!』
『あははは、何それ、そんな漫画みたいな事本当にあったんだー。あ、やばい、想像したら笑いが止まらないー』
言い訳とも取れる長文発言にすかさず反応するフォーの中の人。経験上、フォーの中の人がこういう言い方をした時は、日本のどこかのパソコンの前で本当に笑い転げている誰かがいる事をルガードの中の人は知っている。それでもアイテムを取り続ける動きは止めていないのだから、一体どういう神経系をしているのだろうとたまにすごく不思議になる中の人だった。
『……これもしかして、雰囲気的に本当の本当に笑い転げてマス?』
『少なくとも俺の経験上はそうとしか思えないな』
『僕もそう思うよぉ』
『…………なかなかに酷い人なんデスね』
『そうだな』
『そうだねぇ』
『ちょっと待て自分の事棚に上げるなそこの3人ー。全員が全員とも大陸レベルの戦争で通用するレベルの力を持っておきながらそれはないんじゃないのー』
3人の人でなし宣言にやっと笑うのを止めた (らしい)フォーの中の人。反撃の言葉に物言おうと中の人が手を動かした時点で、次の文章が出現する。
『でもまとりあえずー、3人でテンポよく冗談言えるくらいに打ち解けてんだからいいんじゃないのー? マイペース過ぎる三毛猫は暗殺者で最古参だしー、天使なんて鍛えたら魔法火力最強になる公式チートだしー。少なくとも“マーチ”の悪名は確実により広く轟く事になると思うしー、万が一にも地に落ちる事は無いと思うけどー』
『悪名は確実により広く轟くって、もう少し言い方が無いのか……』
『まぁ、悪名で大体あってるけどさぁ……』
散々な言われようにげんなりと反論するルガードとワイズの中の人。正面から否定できないのがまた悔しい。
しかしさっきの仕返しらしい悪口部分を除けば、フォーの中の人はサーシィスとキャンドラを戦力としてカウントするべき、という推しの意見だ。むしろ、ここで逃がすと後々後悔したあげく厄介すぎる敵として立ちふさがるかもね、という最悪すぎる予想が副音声でついている気がする。
中の人自身、さっきは辛口評価をしたものの、大部屋での殲滅速度、やりとりでの人物的な感触、共に好印象ではある。きっとうまくやっていけるという予感もあったりするし、何より彼らの能力は“マーチ”にとって喉から手が出るほど欲しいものだ。
それでも一応辛口評価をしたのは、これがネットゲームだからで、現在の“マーチ”が多数の恨みを買っている事が原因だ。騙すつもりなのかどうか、言い方は悪いが試したのである。
ただ何故かは分からないものの、フォーの中の人は他人の心情・能力・相性といったものを推測する力にやたらめったら長けている。そのフォーの中の人が推した時点で、この問題もクリアとなった。
となれば、この2人が“マーチ”へ参加する事になんら反対意見は無い訳で。
『――まぁ、そうだな。それでは“マーチ”の固定メンバーへの勧誘メールを送る。気持ちが変わっていなければ受けてくれ』
この日、悪名高い固定パーティ“マーチ”に新規加入者が2人増え。
そして低レベルだったキャンドラが十分育った段になって起こったとある出来事で、“マーチ”は最凶と最強、2つの名をほしいままにする事となる。
年末年始スペシャル、これにて完結です。
別視点とか言っておきながら出来たのは例の4人の出会い編でした。
……とある出来事、については、また次の機会に……
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました!
――あ、本編はまだ続きますよ。
キャンドラのゲーム歴を修正しました;