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二十話 幸運と世界の違和感

 周囲にあるダンジョンの1つ、ゴーストだのゾンビだのを筆頭に果ては死神や暗殺者まで出て来るホラー&即死注意な洞窟ダンジョン【宵闇の洞窟】を双剣在隙隊(カプラウム)に援護してもらいつつ、グラキアとの連携で攻略。

 最下層で待ち構えていた冥府の神(といってもここにいるのは邪神の類で、モドキ、の形容詞が付く奴なんだけど)を、湧きでる他の雑魚の掃討の方に手こずりながら撃破。残念ながらレアドロップは出なかったものの、ほとんど無限増殖的に呼び出された大量の雑魚が素材アイテムを落として行ってくれたのでそれなりに黒字になった。

 ブラウザの『Free to There』には無かった腐臭とか冷気とかにうんざりしつつ、むしろ行きより積極的に敵を殲滅しながら帰りは終了。あーやれやれ、と見上げた空はおやつ時の暖かい物で、しまったー、と思いながら執務室に戻ると思った通りフォーに抱きつかれた。

 それを匂いと汚れを理由に引きはがし、代わりに無理やり放り込まれたお風呂場で、


「……どこまで凝ってんのさ運営……」


 とか独り言を言いながら洗い流す。普通に普通のお風呂場でした。なんかスイッチの代わりに魔石っぽいのが埋まってたけど、そこはファンタジーであるこちらの世界に合わせてあるらしい。

 さっぱりした気分でいつの間にか用意してあった着替え(ただし、風呂に入る前と全く同じ灰色シンプルワンピース型インナー)を着て部屋に戻る。と、いつの間に着替えていたのか色から形から全く同じ服を着たフォーが待っていた。

 そして再び飛び付かれるのを苦笑で迎える。……あ、今気付いたけどほんとーにちょっとだけ私の方が背高い。

 じゃれあいながら部屋を移動。私の部屋にフォーもついてきて、顔を出したグラキアも引っ張りこんで晩御飯。パンとグラタンとサラダでおいしくいただいて、さて寝るまでどうしようかな、と席を立った。


「ん?」


 その時、ふと耳に届く鈴の音。何かと思って思わず眉を寄せると、意識の集中を感知して、自動的にシステムウィンドウが立ちあがった。半透明に黒く文字と縁どりが白い私にしか見えないソレは、その一角を黄色に点滅させている。


 それはフレンドメールの着信お知らせ。

 送り主は、確か念のために30時間したら一度ログアウトしてみると言っていた、あの初心者木精霊(ドリュアス)

 名前をフェーネと言って、私が経験者であると知って友達と一緒にフレンド申請してきたのだ。まぁ上限も無いしいいか、と気軽に受けた相手からのメール。

 『Fragment of "The World"』において何気に記念すべき一通目のメールとなったその内容は、


『30時間が経過しましたが、ログアウトできません。GMコールしてもどうやら届いていないようで……。すみませんが、会ってお話しできないでしょうか』


 ――――それは相当に、重い内容だった。




「お待たせしたよー。ごめんね、辺境に行ってたもんでー」

「あ、いえ。こちらこそ突然すみません」


 バサリ、と翼で空気を叩いてクッションにして降り立ったのは『始まりの町』の中央広場。一度地面を歩いて来ればそれ以降は犯罪者(レッドネーム)にならない限り出入り方法自由な為、最速の方法で合流場所へ到着した私を、フェーネは東の端で手を振りながら迎えてくれた。

 そこにいたのは体感時間で昨日の昼に一緒にいた、フェーネを含む人間以外の種族を選んだ新人3人。どこか途方に暮れたような顔をしている彼らに、とりあえず私は状況の詳しい説明を求めた。


「ログアウト出来ない、だっけー。具体的にはどーいう感じで?」

「画面下のログアウトボタンなんですけど、押しても変化が無いんです……。他の機能は動きますけど、宿屋で眠ってもそのまま目覚めてしまいますし」


 その言葉にふむふむと頷く。試しに自分のを開いてみるが、ちゃんとログアウトボタンはいろんな窓の一番下にちゃんと存在していた。

 なお“宿屋で眠ってもそのまま目覚めてしまう”というのは、VRMMOならではのログアウト方法で、脳が睡眠状態に移行したのを感知した“Lucid Dream”が自動的に接続を切る機能を使った所謂『寝落ち』というものだ。

 ……接続の為の“Lucid Dream”が病院にある以上眠ってしまうのはどうかと思ったものだが、深いながらも短い眠りを入れる事ですっきり目覚められるらしい。お陰でゲームした上リフレッシュ効果も得られて一石二鳥なんだとか。

 閑話休題。


「うーん……しっかしなぁ、GMコールが届かないって事は、裏側から調べた運営からしてみれば仕様どおりって事なんだよねー。つまりエラーとか不具合とかそういうのじゃないって意味でー、どこぞの小説みたいな性質の悪い仕様で無い限り、どっかログアウトの方法はある筈なんだけどー」


 思い出すのは少し前に流行った、VRMMOを題材とした人気小説だ。まさかログアウト不能でデスゲームが本来の仕様、とか言う訳ではないだろう。

 そもそもデスゲームであればディーグはとっくにこの世界からも現実からも退場している訳で。あの妙に硬い喋り方をする戦闘狂と会えたと言う事は、少なくともデスゲームではない訳だ。


「ともかく情報が足んないかー……。他の知り合いとか、誰かに聞いてみたりとかしたー?」

「あー……ミィーラさん達にも聞いてみたんスけど、あっちも同じ状況らしいス」


 はて、ミィーラ? …………あ、キツめ美人な女人魚(マーメイド)さんか。しばらく考えないと思いだせなかった。そっかあの人か。そういえば彼女とはフレンド登録してないや。うっかりあの騒ぎで忘れっぱなしだった。


「あの、ラックさん、はどうですか?」

「クーでいいよークーでー。……でもおかしいなー。私はこれが初めてのVRだからあの変更点聞いて不安になってさー、来る前に一応ログアウト出来るか確認したんだけど、普通に警告文が出たから大丈夫だと思うんだけどー」

「……へ?」


 首をひねって自分のシステムウィンドウを見ている私に、聞いてきたフェーネがちょっと間の抜けた声を出した。


「け、警告文が出たんですか?」

「? うん。来るって言っても空飛んで来る途中だったから、流石に危ないかなと思ってやめたんだけどねー」


 あれ、心なしか物凄い呆れた目で見られてる気がする。というかフェーネさん、そろそろ口を閉じたらどうかな。そんなにぽかーんとしちゃって、って、もしかして私のせい? え、何か変な事言ったっけ?


「……明らかにこのゲームの経験者なのに、そんな初心者ですらしないようなミス……」

「いや、それより警告文が出た事の方が重要スよ。それすら出ないってどうしたらいいのか」


 固まっているフェーネを放置して話し合う2人。いやいや、君ら一応友達じゃないのか。ん? 友達だから敢えて放置してるのか?


「私との差って言ったら……何だろう。ごめん、あり過ぎて原因は分かんないやー」

「そりゃー…………まぁ、そうスよね」

「てことは、何かログアウトにすら条件が必要だって事だから……どうしたらいいんだろ。ねぇフェーネ、そろそろ再起動して何か考えて?」

「…………はっ!」


 お、やっと再起動が掛かったか。


「え、えーと……とりあえずらっ、えっと、クーさん。今ここでもログアウトできますか?」


 さん付も別にいらないんだけどなぁ。まあいいか、口癖みたいなもんだと思えば。

 とりあえずその声にシステムウィンドウを不可視(自分にしか見えない)モードから可視(他人にも見える)モードに切り替え、3人だけに見えるように身体の向きを変えてからログアウトボタンに触れる。

 そして1秒もせずにずらりとメニューが並んだウィンドウの上に浮かび上がった、『ログアウトしますか?  Yes/No』の小さなウィンドウを黙って指さした。沈黙する3人。

 私の右側からウィンドウを覗きこんでいたフェーネは、黙ったまま自分のウィンドウを操作しだした。ぱっ、と小さく光が弾けたウィンドウを見ると、どうやら彼女も可視モードに変えたらしい。はっきりと見えるログアウトボタンに細くてきれいな指が触れて、


「…………」

「…………そして何も起こらない、とー」


 私の物とは違い、沈黙を保ったまま、何の変化もなかった。

 くっきりと差のある2つのウィンドウを何度か見比べて、私は首をひねりながら、全員の意思を代弁した。


「……どーなってんのやらー?」


 どうなっているんでしょう。

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