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十九話 幸運と役割分担

「――相変わらずのセオリー無視……。わざわざ襲撃直後を選ぶ理由が理解不能」

「はー……。いやいやー全く分かってないねグッキーはー。あいつらは一定周期で襲撃してくるんだからー、少なくとも襲撃直後から1日の間、町は絶対安全になるんだからー」

「……警戒して守りを固めていたのは、」

「うん、完っ全に逆効果だからそれー」

「…………」


 あれから説得に丸々1時間を費やし、何とかグラキアの誤解をほどくのに成功した。やれやれ、頭が固いって本当に厄介だから困る。時計を見てぎょっとなるくらいの残り時間で慌ただしくアイテム製作を終え、現在私とグラキアは早朝に放送したとおり、防壁のすぐ内側にいくつかのスペースに区切られて存在する訓練場、その内、ただ広い砂地が広がっている乱戦訓練場に来ていた。

 やがて、ともいえないくらいの時間で、接近してくる何かが視界の端に広げていた簡易マップの片隅を通る。私は『マルチキラー』を取り出すと、槌の部分が当たるように狙いを微調整して、タイミングを合わせて左から右に思い切り振り抜いた。


「どぉああああぁぁぁぁ……!」


 ゴパーン! とクリティカルな音と共に吹っ飛んで行ったのは、体長が2メートル以上はある灰銀色の狼と、それに全く違和感なく乗っていた鬼人(オーガー)。共に武装していないところに私のフルスイングをモロ食らいしたようだが、まぁ問題ない。どうせピンピンしてる。

 『マルチキラー』を右肩に乗せて(というより、肩を支点に担いで)もうしばらく待つと、今度は5人分の気配が足並みそろえてやって来ていた。まともに訓練場の入り口から来てくれたところにこっそり胸をなでおろしたのは秘密だったりする。


「ん、隊長は全員揃ったねー。あ、騎狼突撃隊(アウラウス)のバルグはさっき見たから気にしないようにー」


 ずらりと横一列に並んで見せてくれた5人は、私が放送で呼び付けた6つの隊の隊長を務めている実力者だ。なお、さっきフルスイングで吹っ飛ばしたのがバルグである。何故何も言わずにふっ飛ばしたかというと、


「いやァさっすが、良い喝の入れ方すんなァ姉御は!!」


 ち、もう復活しやがったか。

 ……という独り言は置いておいて、つまり体力バカで脳筋なのだ。出会いがしらに一撃かますのが挨拶代り、あそこで私が何もしなければ吹っ飛ばされていたのはこちらなので仕方が無い。

 なおバルグが乗っているのは、スラッシュアックスという狼系モンスターの上位種。戦闘モードに移行すると全身の毛が刃状になる非常に危険な大型狼である。その騎手であるバルグは能動(アクティブ)受動(パッシブ)両方で使えるスキル『気』を習得している為に、種族的な頑丈さも手伝って間違っても傷を受ける事は無い。

 ちなみにここまでの特徴は騎狼突撃隊(アウラウス)の隊員全てに言える。ここまで説明すれば、何故隊名に“突撃”と入れたのか理解していただけたと思う。誰に説明しているのかは分からないけど。


「ややこしい説明は苦手だから、結論から言って要点だけ話すよー。疑問があったら質問タイムまで待ってねー」


 暑苦しいのは放っておいて、後の5人の方を向いて説明を始める。


「えー、これから今呼びだした隊をチーム分けして、ダンジョンの攻略に行ってもらうよー。昨日の防衛戦で疲れてると思うけどまぁ出来うる限り死力を尽くして頑張る事ー。はい、んじゃ一回目の質問タイムー」


 ……うん、皆(1人だけは除くけども)頭いいから質問は無いね。


「じゃあ組み合わせ発表ー。まず、魔剣武演隊(ローディアス)短槍奇兵隊(マガニウム)で【困惑の樹海】を攻略、目標は樹姫の守護者ドリアード・ガーディアンの討伐もしくは行動不能程度の損傷ー」


 レイピアを腰に下げた波打つ黒い長髪と血色の目の美しい女吸血鬼(ヴァンパイア)と、1メートルほどの短槍を背負う小麦色の刈り込み頭に茶色の目の男小人(ホビット)がそれぞれ笑顔で頷きを返してきた。

 それを確認して次へ。


「私とグラキアと双剣在隙隊(カプラウム)で【宵闇の洞窟】を攻略、目標は……そうだねー、グラキアが入ったから最下層目指してみよーかー」


 両腰に一本ずつロングソードを下げた黒ショートヘアに黒目あと身長150センチの男攻妖精(スプリガン)がちょっと困った顔で頭をかいた。が、私がにっ、と笑いかけると、苦笑してこくりと頷く。

 うん、問題ない。あるとすれば、最後だ。


「で。騎狼突撃隊(アウラウス)盾剣汎動隊(フェルルウム)魔医支援隊(アジェテウス)で【万象の頂】を攻略、ここ一番大事だからー、目標は登頂に加えて出来うる限りの敵の殲滅ねー。まー排除は騎狼突撃隊(アウラウス)に任せて、あと2隊は援護と適度な補助に回ってればいいからー」

「ぅおおおおおおっしゃぁああああああああ!!」


 雄たけびを上げるスキンヘッドで金目で緑がかった肌の大柄な奴はさらっと無視して、目を向けるのはバックルとエストックを背負った長いストレートの金髪に青い目の男ハーフエルフに、すっぽりローブに収まって白いロッドを握りしめた綿毛ショートの白い髪と灰色の目で地上から若干浮いている女善霊(マネス)。それぞれ、呆れ苦笑と健気真面目な顔で頷きが返った。

 一番不安と言えば不安なのはここだ。まぁ、万が一にも完全後方支援特化の魔医支援隊(アジェテウス)が全滅する事は…………無い、と思いたい。その為に攻守のバランスに優れた盾剣汎動隊(フェルルウム)をつけたのだし。


「はい、ここまでで何か質問とか不満とかある人ー」


 ……。よしよし、早速暴走してどっかへすっ飛んで行ったバルグ(バカ)以外は目標をちゃんと分かってくれたみたいだね。特に盾剣汎動隊(フェルルウム)魔医支援隊(アジェテウス)の連携に関して早速打ち合わせを始めようとするその気配りは素晴らしい。

 そう思っていると、隣のグラキアが何か言いたげな目線を寄こしてきた。……あぁ、はいはい、やる事終わったからさっさと仕事に戻りたいのね。


「お昼を済ませたら出発するつもりだからー、時間無いけどモンスターの強化具合とか含めて出来る範囲の準備は整えておく事ー。それじゃ、解散ー」


 パン、と手を打ち合わせて宣言すると、一礼したりしなかったり敬礼してみたりしてみなかったり、三々五々に5人の隊長は散って行った。

 グラキアもグラキアで、とっとと屋根を飛び越える直線ルートで城へと戻っている。


「さて、それじゃ腹ごしらえしておきますかー」


 のんびりと独り言を呟いて、私もその場を後にした。

 今回たくさんでてきた固有名詞。

 ……いずれ説明書風のものを書こうと思ってます。

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