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十八話 幸運とその町の守手

 ウリアムーチ襲来の翌日、大量に手に入った素材により湧きたつ早朝の町に、こんな放送がかかった。


『あー、と……騎狼突撃隊(アウラウス)盾剣汎動隊(フェルルウム)双剣在隙隊(カプラウム)短槍奇兵隊(マガニウム)魔剣武演隊(ローディアス)魔医支援隊(アジェテウス)の各隊長に通達ー。ダンジョン探索の事で用事があるから、昼前に訓練場に集合するようにー』


 かけた声はこの町設立の立役者、この町の主の姉のもの。呼ばれた当人でなくても、おや? と手を少しだけ止める者が何人もいた。が、それ以上何も放送が無い事を確認して、またそれぞれの日常に戻る。


『あー、それとグラキアー? 後でちょっち話があるから、昼過ぎ頃コロコロの森方面の城門に来る事ー』


 ただ、数秒後に付け加えられたその言葉に、再び町民は顔を見合わせる事となった。





 お城の一室でぐっすり眠った翌日。フォーに教えてもらった放送室で招集をかけた私は、今度は自分の方の準備を整えていた。具体的には、ポーションやスクロールの合成・作成。どーやら私の為の部屋らしい結構な広さのあるその場所で黙々と作業をしていると、トントン、と控えめにノックの音が聞こえた。


「はいよー」

「失礼」


 端的に言って入って来たのは、昼過ぎに呼びだした筈のグラキアだった。


「何か用事ー?」

「……? 用事があるのはそっちの筈。昼まで待つ必要は無いと判断」

「いや、一応それでも時間は守ろうとか思おうよー」


 一応だが、あの時間を選んだ理由もあるのだ。全くフォー至上主義なのはいいがそのせいで他をないがしろにされては困る。

 が、まあどうせ一応と付く程度の理由だったんだし、と書きかけだったスクロールを仕上げ、グラキアの方に向き直った。


「まーいいや、どうしてもその時間じゃなきゃだめだってわけじゃ無かったしー。あれだ、この後も予定詰まってるからさくさく進めようかー」

「……たまに、せめて語尾の伸ばすのを止めろと思わなくもないが、本当」

「言っとくけど、私がフォーの真似してるんじゃなくてフォーが私の真似してんだからねー?」

「そんな事は分かっているがその上での発言」


 ……私だって、何でそんな珍妙なしゃべり方になったのかとちょっと問い詰めたいのだけども。

 しかしとりあえずさくさく進めようと意識を切り替え、いきなり本題から斬り込む事にした。


「グラキア。まず、あんたの失策について私は怒ってるんだよー」

「……失策?」

「ダンジョンの探索頻度下げたでしょー。あれさー、グラキアにはちゃんと裏の理由まで含めて説明した筈なんだけどなー。何、あれぐらい下げるなら大丈夫だとか思ったー?」

「…………」


 直立不動のまま黙り込むグラキア。それは自分でも思い至っているんだろう。現に、フォーから借りて読みきるまで昨日の夜中までかかった膨大な書類には、探索頻度を下げてから、じわじわと襲撃頻度が上がっている事実が書かれていた。書類整理はグラキアの業務だった筈だから、気が付いていない訳が無い。


「他にも部隊の管理は事によったら力づくでも解決しろとかー、移民受け入れに制限を設けるなとかー、色々言っておいた筈の事がそうなってないっていうのも一杯あるけどー、一番怒ってるのはそこー」


 黙ったままのグラキアに、私も大概過保護だよなぁと思いながら言葉を突き付ける。


「――『守れ』。そう言った筈の、一番大切な要がないがしろにされてるって、どういう事?」


 それは『Free to There』で、全てにおいて住人の意思を尊重してきた私が、グラキアに下した最初で最後の命令。それ以外はその命令がこなせるように諸々の教育と、周辺の仕組み整備に終始した。

 『守れ』というのは、フォーを、という意味ではない。フォーを含む、この町の本質である住人を守れ。そういう意味だ。だから私は過去、町という建物を放棄して住人を逃がすのに全力を傾けた戦いも何度か経験してきた。

 けど今回グラキアは、防衛における肝心要である初期防衛を怠った。いざという時致命傷になりかねない隊同士の不和を放置した。この町の生命線にして根本である移民に制限をかけた。だから私は怒っているのだ。


「……じゃあ何で100年も町を放ったまま行方不明?」

「100年は初めてだけど、数か月単位なら今まで何百回と放置してきたでしょーが。ていうか、ほぼ毎日居たのなんて建設初期だけだしー?」

「…………主が不安がって下した判断。修正を入れつつも基本的に従属」

「それを宥めて支えるのがグラキアの仕事だと言った筈なんだけどー。それに、最終的には私無しで全てが回るように、住人だけでこの町がやっていけるように、そう仕組みを整えたって教えなかったっけー?」


 言い連ねるグラキアの言葉を『言い訳』として一刀両断していく。かなり手厳しいが、やる時はこのぐらい叩き潰さねば反省しないのだからしょうがない。全く、どこの誰のせいでこんな石頭になったのやら。いや、元々か?


「………………」

「努力は認めるし鍛錬も怠ってないみたいだし、全く評価しない訳じゃないんだよー? けどね、あんまりにもあんまりな失点だから無視できないっていう話なだけでー」


 黙り込んだグラキアに、おけー? と付け加えて最終確認を取る。頭の方は、固いだけで悪くは無い筈なので、理解するのをしばらく待った。




「……………………つまり、やはり本当のマスターはクーであるから基本を尊守?」

「だから何でそうズレた答えに行きつくんだよグッキーくーん」


 主人公、怒る。ちょっとだけ(ぇ


 年末特別編をしようかと考えてます。

 活動報告でアンケート中。

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