十七話 幸運と世界の変化
まぁ、フォーとの顔合わせは、大体お約束の通り行った。
……「おねーちゃんっ!!」と声を上げて、白いドレスアーマーを着た私より若干背の低い子が飛びついて来るのは、本当の本当に破壊力があった、とだけ言っておく。それはもう、思わず力任せに抱きしめてあっちこっち撫でまくりたいのを我慢するのに、殆どすべての精神力を必要とするくらいには。
唯一の懸念として偏っている筋力値のせいでこちらがダメージを負うかもしれない、というのがあったが、どうやら種族的に頑丈な体らしかったので全く問題なく。
「おねーちゃん、本当にどこに行ってたんですかー」
「あー、まー……こう、あっちこっちふらふらと世界中をー」
現在、たっぷり1分はくっついた事でひとまず満足したらしいフォーと、お茶を飲みながらのんびり会話をしてたりする。出てきたのはミルク・砂糖たっぷりな紅茶風の桜色のお茶と、クッキー大に切ったパイ生地に砂糖をまぶしたようなお茶菓子だ。非常においしくてこれだけでも満足満足。
会話する内容は、主にフォーが聞いて私が答える形。質問は予想通りこの100年の間どこで何をしていたのか。まさかこの世界にいなかったなんて言える訳がなく、その辺は適当にごまかしている。
そんなレッツ質問タイム:フォーのターンが何とはなしに終了したところで、今度はこっちから気になっていたことを聞いてみる。
「そういやーリグルに聞いたんだけど、ある時からコロコロの森で魔法に制限がかかったってー?」
「もう聞いてたんですかー。そうなんです、護衛からの帰りでひとっとびしようとしたら、魔法自体が発動しなかったらしくて……原因はいまだ不明なんですけどー」
「不明ときたかー……となると、対策としちゃ森の半分の位置に植林してみるしかないかなー。他になんか変わった事はー?」
「んと、他にはモンスターの襲撃頻度が上がったり、ダンジョン深部のモンスターのレベルが突然頭一つ飛び抜けたりですー。あっ、町の中の鉱水晶の質の、上限が上がったんですよー。前までは天然でしか採れなかったランクが採れたらしくて、お祭りになりましたー」
「おぉー、そりゃありがたいー。しっかし、襲撃頻度の上昇に深部モンスターの超強化、ねー……やれやれ、一体何がどうなってんのやらー。とりあえず防衛に力を入れるくらいしか手の打ちようもないかー」
仲良くもぐもぐお茶菓子を食べながら話は続く。うまうま。
さてまぁここまで来ると分かるが、様々な変化というのはどうも私達の言葉で言う所のアップデートによる変化の事らしい。ダンジョン深部のモンスターが強化されたと言う事は、レベルキャップも引き上げられている可能性が高い。
ん? フォーと私の話し方がそっくりで訳が分からなくなるって? 柔らかく喋ってんのがフォーでそうじゃない方が私。要するに丁寧語かそうじゃないか、語尾をよく見てくれればすぐ分かる。って、だから私は誰に解説してるんだろう。
「? おねーちゃん、植林って、なにをどうするんですかー?」
「ん、コロコロの森を上空から見てー、半分の位置に、びしーっと他の所に生えてる木を並べて植えたら、転移系魔法が使える場所がよく分かるでしょー? 迎撃能力持ちの木を植えれば防衛にも役立つだろうしー」
「あぁー、それいいですー! グッキーさんに後で言っておきますねー」
「……まー、その苗木をどっから調達するんだってー話でもあるんだけどー。ま、とりあえず何とかしちゃうような気もするからいっかー」
目を輝かせるフォーを見つつ、お茶を一口。なおコロコロの森というのは、ここに来る時にエンカウントしまくりだったあの森のことだ。どこか愛嬌のある名前の割りに出てくるモンスターがシャレにならないレベルなので、ある種のブラックジョークなんではないかと勘ぐるプレイヤーもいる。
……うーん、ついでだから町の防御も強化してみるかな。どうせ植林するんだったら森のこっち側にも植えて、こっそりその間を前線基地……いや、場所を選べば畑とか果樹とかもいけるかもだから、補給基地みたいにして。
「けどまぁ、ダンジョン深部のモンスターについては要警戒しないとだめだねー。強くなってからこっちの『大侵攻』ってどんな感じー?」
「それが驚きなんですよー。ボスクラスが複数混じっている時の強化レベルがおかしいんですよー。どうしようもなくなって、何回か騎竜親衛隊が攻勢に回った事もあって、落とされた事こそないもののーって感じですー」
「……騎竜親衛隊が攻勢って、マジでかー」
『大侵攻』というのは、定期的に起こる町へモンスターが大挙して襲いかかってくるイベントだ。防衛できないとそれはそれは悲惨な事になる物で、これを防ぐために町の主たるプレイヤーは軍を編成し防御に当てるのだ。編成と作戦の腕の見せ所である。
そして騎竜親衛隊というのは、この町の守衛軍最強の部隊の名前だ。自分で言うのも何だが渾身の出来で、普段の戦争に参加すると相手を瞬殺してしまう為、よほどの劣勢でない限り防御に回っている。
それ故に、騎竜親衛隊が攻勢に回る、というのは、そのままずばり、陥落の危険があったという事だ。
「……フォー、まさかとは思うけど、ダンジョン探索の頻度って下げてたりするー? そんでもって待機の時間を増やしたりー」
「よく分かったですねおねーちゃん。2割下げましたー」
「……進言したのグッキーだなあんにゃろー……。あれでもギリギリ限界の頻度だったのに、そっから下げたら悪循環に突入するじゃーんもー」
「悪循環、ですかー?」
聞いた話を集めて状況を判断する。
正直な所限りなく最悪な状況に思わずため息をつくと、フォーが小首をかしげて聞いてきた。お茶を飲みながらどう説明するかしばらく考えて、とりあえず、あっさりと概要だけ説明してみる。
「1、ダンジョン攻略が進まなくなるー。2、ダンジョンでモンスターが溜まるー。3、モンスターが溢れて『大侵攻』の回数が増えるー。4、守りに入らざるを得なくなるー。でもって守りに入ると、1に戻るー」
「……ってことは、もしかして、守れば守るだけじり貧になる、って事ですかー?」
「そゆ事ー」
どうやら、相当マズイ状態だと言う事はフォーにも伝わったようだ。
……ちょっと伝わり過ぎたようで、顔が青くなってるけども。
帰ってきた場所は、わりあい危機に陥っていました。