一話 幸運と世界の目覚め
2XXX年。ゲーム業界はVRMMOの登場によって、その勢力図を大幅に変えていた。
かつての大御所なぞどこ吹く風。次々とベンチャー企業が林立し、あっという間に大乱戦状態に。
お前らはどこの厨二病者だと突っ込みたくなる名前のゲーム会社がVRMMO覇権を競う中、実にひっそりと『Free to There』は公開された。
初期のVRMMOによって発生した諸々の問題を改善する為、現在VRMMOをするためには病院が隣接、または病院内に存在する施設に行かなければなくなった。その上4時間以上の連続接続(VRMMOに関しては“ダイブ”というらしい)は禁止、1日の最大接続時間は12時間以下、と、行政によって法律で定められている。
それでも日参する人間が多い辺り、VRMMOはとんでもない中毒性を持つということなんだろうが……その移動する手間と、何より接続料・課金額が高い事もあって、まだ敬遠する人間が多いことも事実だった。かくいう私もその1人。
『Free to There』はそんなVRブームの中、あえて平面であるブラウザで勝負しようとするスタンスを取っていた。2Dの俯瞰視点で見るアイテム課金制のその世界は、そういうVRを敬遠する人間を虜にするだけの魅力を持っていた。
レベル・スキル併用制で、どちらも今までの物に比べて上がりやすく設定されていた。それでいてダンジョンの数は異様なほど多く、時間経過で出現と消滅を繰り返す物まである。クエストは言わずもがな、グランド・クエストに相当する物こそ無いもののランダム生成され、時折どう考えてもクリア出来ないんじゃないかと思うものまで発生したりする。
両手の指以上の豊富な種族が用意され、キャラ作成時のダイスの目によっては世界にたった一つのユニークスキルが最初から付いていることもあった。スキルの種類はもはや“膨大”以外に形容詞が見つからない。アイテムの数は数える方がバカだ。プレイヤーによって作成されたアイテムは名前どころか外見までいじれるのだし。
何より特徴的だったのは、王道アクションRPGでありながら、一定の条件を満たせば都市育成シュミレーションも可能である所か。
レベルといくつかのアイテム、一定量のギル(ゲーム内通貨)をもってあるクエストを受けると、ゲーム世界の好きな場所に自分の『町』を作ることができる。もちろん道の真ん中とか街の中とかは範囲対象外だけども。
同様の手順で、ギルドの本拠地も作ることができる。ただしこちらはクエストを受ける際の条件次第で空中と地下も選択できるから、自由度は遥かに高い。確実に『Free to There』でギルドが乱立した原因の一つだ。
そんなこんな、一体どれほどの開発費を投じたのやら不明な力の入れ方で、ろくに宣伝もしていないにも関わらずVRに流れなかった人間をほとんど全て吸収することに成功した『Free to There』。
その“自由な場所”は、ほんの1ヶ月ほど前に、永久に失われた。
飽きっぽい私としては異様なほどのめり込んでいた『Free to There』が終了して1カ月とちょっとの頃。やはりブラウザはVRに勝てないのか、と落胆しつつ、面白いニュースでも無いかなとネットの海を泳いでいた。
もちろん今まで無かったものが急に表れる訳もなく。ため息をついてブラウザを閉じた時、パソコンのメールアイコンが点滅している事に気がついた。それを見て眉をひそめる。
「……おかしいな。迷惑メールが来たら困るから、こっちのアドレスはどこにも出してない筈……」
独り言を呟きつつ、それなら両親とかその辺だろうか、と見当をつけてメーラーを立ちあげる。1つだけ【未読】となっているメールの宛名を確認して……私は小さく「え?」と声を上げた。
そのメールは、今は存在しない『Free to There』からのお知らせメールとして送られてきていた。……その下には【既読】アイコンで「『Free to There』サービス終了のお知らせ」というタイトルのメールが、上の物と全く同じアドレスから届いている。
「…………再開する、とか?」
自分でもありえないと思いつつ、メールを開く。特にウィルスが発生する、という事も無く展開される、どこかそっけない文章。
飾り立てる事をせず、ただただ連ねられた文字を追って行く。画面をスクロールさせて読み進め、頭の中で内容を要約。
「なるほどー……『Free to There』は来週の土曜からVRMMO『Fragment of "The World"』として再開する事になって、一定期間以上『Free to There』をプレイしていた人には特典があります。システム的にはアイテム課金制のままだから是非いかがですか。……と」
メールの最後には私がフォーとして使っていたIDとパスワード、それに何かのシリアルコードらしき文字列、謎のURLがくっついていた。
ここまで引っ張ってウィルスという事はないだろう、と判断してクリックすると、開いたのはVR施設を検索するツールサイトだった。なるほど、これを使って通いやすい所を探せと言う事か。
「でも確か、専用の新規施設を立てるか、大病院に居候させる形でしか無かった気がするー。……一番近い大病院だと片道が電車で4駅だから……交通費が0で片道15分切る場所だったらやってもいいんだけどもー」
試しに近くの公園の場所を使って検索してみる。……5秒後、我が家行きつけ、片道3分の病院が候補に挙がった。その後もいろいろと条件を変えてやってみるが、出てきた結果は最大が片道歩いて8分という予想外の好条件。
いつの間にやらVRはあちこちに浸透していたらしい。ここ数年病気も怪我もしてないから気付かなかった。
多数の中毒者を出し続けるVRMMOの世界。
そこに、あの“自由な場所”が名前を変えて現れる。
「……まぁ、特典とゲーム内環境次第、ということでー」
しばらく考えた後でそう独り言を呟いて、私はパソコンの電源を落とした。
そして、来週の土曜日。
私は片道3分の行きつけの病院に、全くの健康体で訪れていた。
……まだVRには入らないのかと。
申し訳ない……
3/23 誤字修正しました。
フォト様、ありがとうございました