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十五話 幸運と術と苔色と

 スクロール、というのは、単発の魔法を放つ事が出来る使い捨てのアイテムの1つで、A4サイズの紙系素材 (縦向き)に、上から呪文が3行→魔法陣→魔法の名前、という順番で文字その他が記載されている形をしている。

 当然ながら、普通の使い方では大量のスクロールを持ち歩く必要があり、非常にかさばって面倒な事になる。……まぁ、私の修得している『アイテム使用系統魔法』でも、普通に使っている分では大差ない。精々、系統の熟練度に応じてささやかな威力ボーナスが付く程度。


 が。

 『アイテム使用系統魔法』の真価は、その熟練度が半分を越えてからようやく分かる。

 系統特有魔法の『重ね撃ち』。

 これが実は、便利すぎて困るレベルの秀逸魔法だったりするのだ。



 …………使う方が面倒くさがらなければ、という注釈付きで。



 『重ね撃ち』で使えるのは同レベルの同アイテムのみ、つまりスクロールとポーションは組み合わせられず、Lv1のアイテムとLv2のアイテムは混ぜられない。

 さらにその重ねられる数は熟練度MAXで10個。無限大にも思える組み合わせがある訳で、そこが優秀なのに逆に毛嫌いされる原因となっている。確かに、ある程度以上は考えないと元々のアイテムより効果が低くなったり、自分にダメージが跳ね返ってきたりするけども……。

 どうも、決まった呪文(スペル)を唱えたり魔法陣を書いたりする事に慣れた人には向かない魔法だったと言う事に『Free to There』の終盤で気が付いた。


 で、不遇な扱いを受けている『重ね撃ち』なのだが、私はどーにか使いこなす事に成功した。勝因は『重ね撃ち』でないと効果が出ないアイテムの使い方を覚えた事だと思う。


 その結果は――今、私の手元で炎を纏った『マルチキラー』、その威力を見てもらえば分かる事だ。


「重量級汎用アーツ、其の一」


 目の前にそびえる苔色の山、ウリアムーチに狙いを定めて『マルチキラー』を背負うように構える。長い柄の一番端を持って、斧の部分がウリアムーチへ当たるように思いっきり力を溜めた。


「『チャージクラッシュ』!!」


 ズドンッ!! という盛大な音を立ててウリアムーチへと突き立ったのは、その一瞬だけを見るなら斬撃というより炎の壁だった。もちろんそのまま消える訳が無く、直撃した場所とその周囲は燃え続けている。


 『付加エンチャント』というのが『重ね撃ち』専用のスクロールで、その後に続くスクロールを属性として対象に付加するそのままな効果を持つ。でもって『吸収アブソーブ』というのも、その後に続くスクロールを対象に取り込まさせる、やっぱりそのままな効果がある。

 図解すると  対象←『吸収』[『付加』{『火球』『延焼』}]  って感じだろうか。裏技っぽいが一応、多重付加、という状態になって、ただ付加するよりかは効果が上がっていたりするのだ。


 そんな訳で、切れば燃える上に当分火が消えない、燃えやすい特性を持つ敵にとっては文字通り天敵となる刃を持った『マルチキラー』。ウリアムーチは苔の山のような外見通り火にとても弱いので、いうなれば「こうかはばつぐんだ!」状態。


「…………に、しちゃーいけなかったんだっけか確かー……」


 飛び上がった上空で、火属性に変わった『マルチキラー』を右手一本で持ったまま、左手で頭をかく。この高さの上空から見下ろしてようやく見なれた姿のウリアムーチは、半円球の……スライムにしては硬そうな外観のまま、森を派手に破壊しながらドッタンバッタン暴れまくっていた。

 ふと視線を移せば、その向こうに広がる懐かしい景色。ウリアムーチなんて比較にならないほど見なれたその景観に、私は一度だけ笑みを浮かべる。


「こうやって見ると『帰ってきた』って思えるなー……。いや本当、比喩でも何でもなく、何もかもが懐かしいやー」


 森の中、ぽっかり空いた広大な草地の真ん中に、忘れられてしまったようにポツンと存在する町。

 取り囲んでいるのは緑の光を宿した白銀に輝く高い壁。尖塔を備えた対大型モンスター・戦争用の防壁は円を描き、内に広がる高い低いごたまぜの街並みを一重で守っている。

 様々な種族が共存している証にぱっと見ごちゃついている町並みは、その中に巨大な水晶や巨大な穴なんかを含みながら壁の内側いっぱいに広がる。町が描く円の中心には丸く平らな天蓋を見せる塔が建ち、五方星を描くようにそれぞれが回廊で接続されている。

 その中に、なお守られるように存在しているのは、その全てが暗い灰色の絵にかいたような城だった。防壁や周囲の塔と比べると華奢な印象すら受けるその城は、他の塔と同様に回廊によって接続されている。

 ……まさか、何かあれば即刻この町そのものが、対地対空迎撃兵器を備え全てをはじき返す結界に覆われ潤沢に資源を抱え込む、堅固極まりない要塞と化すなど思えない位には、それなりにありふれて平和な町だった。


「つまりだねー、苔山程度にくれてやれるほど、あの町は安くは無いって事ー」


 右手で『マルチキラー』を持ち直す。未だまといついた火によって燃えているその刃を、滞空したまま体と垂直に構える。ギリギリと弓を引き絞るように狙いを定め、私は一度、大きく翼をはばたかせた。


「重量級汎用アーツ、其の五」


 1メートルほど浮き上がると、そのまま体ごと上下を入れ替える。引き絞るように構えた『マルチキラー』で使うのは槍の部分。暴れまわるウリアムーチの一点に狙いを定め、


「――『アースクラッシュ』!!」


 タイミングを合わせて翼で空気を叩き、通常このアーツを使う時の、倍近い速度で苔色の巨体に突っ込んで行った。

 説明と描写。なお『アースクラッシュ』は“上空から急降下しダメージを与える”ものなので重い武器なら何でも使えます。

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