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十三話 幸運と妖精の事情

「っせぁああっ!!」


 半ば力任せに『マルチキラー』を大振りして、周囲から飛びかかろうとしてきたブラックウルフ(グレーウルフの上位で黒い)を纏めて薙ぎ払った。一回転した後、切っ先の方に居たグリーンスライム(有名な緑色で核のある粘性体)を叩きつぶす。その反動で跳ね上がった鉄球は、背後から近づいていたベアービー(やたらでっかくて黒い蜂)の胴体にめり込み、吹っ飛ばしていた。


「ふ……っ!」


 左手を柄の中程に動かして体をひねり、空中で気絶していたベアービーを斧の部分で両断。ジャララララ、と鎖が立てる音を追うように右足で一歩前に踏み込んで、ニョキニョキと生えてきたダークマシュー(子供サイズの紫色のキノコ)を3本一気に薙ぎ払う。

 ギィイッ! と背後で鉄球に潰された新手のベアービーが悲鳴を上げるのを余所に、一度『マルチキラー』を抱え込むように引き寄せる。狙いをつけ、左足で一歩踏み込むと同時、槍の部分で正面に突きを放った。


「っだあ!」


 アケファロス(乳首が目でへそが口の首なし巨人)の眉間と心臓が重なる場所、唯一の弱点へと槍の部分が丸々埋まる。そのまま力任せに上へと切り裂き、追撃として右から斧の刃で一閃、そのまま一回転してダメ押しのとどめで鉄球を傷に叩きこむ。

 大物が倒されたことで周囲のモンスターに動揺のようなものが広がった。間髪をいれずその場で『マルチキラー』を二回転させる。上空地上問わずモンスターが一掃された所で、私はスクロールを取りだした。


「スクロールLv4『光の弾幕(シャイニングレイン)』!」


 左手で上向きに発動させたスクロールは、一瞬光ると上空へ舞い上がった。すぐさまそれは白い光の弾丸となって文字通り雨のように周囲を蹂躙する。ざっと巡らせた視線で雑魚がだいぶ減ったのを確認して、『マルチキラー』を右手一本に持ち替えると私は前へ飛び出した。

 そのかなり後ろから付いてくる気配を視界の端に開いたマップで確認する。同時に進む先にモンスターの反応が山ほど湧いて来たのを確認して、思わず独り言がこぼれた。


「ったく、相っ変わらずキリが無いったらありゃしないなもー。つーかむしろ、湧く数と種類が豊富になっていません、かっ!?」


 最後の一言で、正面に出てきた通常の倍ほどあるグリーンスライムを、振りかぶった槌の部分で叩きつぶした。この短時間ですっかり慣れた連続攻撃で周囲のモンスターを薙ぎ払う。切ろうが潰そうが殴ろうが、次から次へと湧いてくるモンスター。

 それを『マルチキラー』と高レベルスクロールで全滅させては少し進み、また全滅させては少し進み、というのを繰り返して、今で30分ぐらい経っただろうか。

 こんな無茶苦茶を通すことになった原因は、あの村でのリグルの話だった。




 盛大にはた迷惑な内容の叫びをあげたリグルの声は当然ながら周囲の兵士というか……リグルの部隊の隊員にも1人残らず届き、全員が全員私の方をぎょっとして振り向いた。それが見る間に隊長であるリグルと同じ驚き喜びな顔に変わるまでさして時間はかからず、仲の良い事に全員が全員、全く同じタイミングで口を開いて、


「ちょっと周囲確認して黙ってみようかー魔法遊撃隊(ルテニウス)?」


 私はその言葉が出る前に、腕組みをして言葉で制した。

 ……まぁ、当然と言うか何と言うか、彼らは私が『Free to There』にて、町を防衛する為に編成した部隊の1つ。部隊の名前は元素記号表から。

 機動力のある呪文を唱える(スペル)系統で攻撃型の魔法使いばかりを集めて、あっちこっちから魔法を乱発させる為に作った部隊で、混戦にさえ持ち込んでしまえば凶悪な威力を発揮した。魔法のヒットアンドアウェイが成功するとあそこまで殲滅速度は上がるもんなのねーあっはっはー、みたいな。

 さて問題は、そんな彼らが何でフォーの町を離れているか、という事だ。正直、厄介事の気配しかしないけども。あと、(Luck)の扱いってどうなってるの?


「す、すみませんラック様。しかし、100年も何の連絡もなくどこへ行っておられたのですか? フォー様も大変心配されておりましたが」

「……いや、うん。様付けとか敬語とか使わなくていいしー。敬語外せないなら、せめて様を外してほしいかなー」

「はぁ……。全く、相変わらず何と言うか…………もうちょっと威厳を持ってくださいと」


 ……どーやら、素のままで問題ないようだった。呆れられたが、何か呆れ慣れている感じがあるのできっと問題ない。


「私の事とかはまー置いといて……何があったのよ? リグルが町離れるとかさー、どー考えても大変なことになってるよね?」

「フォー様と一緒に後で聞かせてもらいますよ。で、町の様子ですが……よく分からないんです」

「はい?」


 思わず聞き返してしまう。

 おっかしーなー、魔法遊撃隊(ルテニウス)は攻撃型の集団とは言え、仮にも魔法使いの集団だから拠点帰還魔法の『ポータルバック』は全員覚えてる筈だし、隊長のリグルは部隊を丸ごと好きな場所に転移させる『グループテレポート』も修得してる筈なんだけど。

 確かにフォーの町には中から攻められるのを防ぐために転移を妨害する結界も張れるようにはなってるけど、装備を見る限り、全員その結界を素通りできるパスアイテムは装備したままだ。特に魔力切れしてるという訳でもなさそうなんだから、誰か1人帰って部隊内通信で状況を報告すればいいんじゃなかろーか。

 っていう事を素直に言ってみると。


「いえ……実は数十年ほど前から、森を越えるように働く魔力は無効化されるようになってしまったのです。帰ろうにも、この森を半分は突破しなければ魔法が弾かれてしまって……」


 そんな言葉が申し訳なさそうに返ってきた。


「なーる、確かに魔法遊撃隊(ルテニウス)だけじゃこの森はきついかー。木を片っ端から薙ぎ払って行くならまだなんとかなるかもって可能性があるけどー、普通に通ろうと思ったらせめて盾剣汎動隊(フェルルウム)あたりが一緒に居ないと無理かー」

「……というのは分かっていたので、今回町を訪れた商隊の護衛には私達と大盾守護隊(ニコロウム)の2隊で付いていたんです」


 出てくる部隊名は大体役割そのままなので特に深くも考えず。その部隊の隊長の顔なんかを思い出しつつ、何だか不自然に言葉を切ったリグルを首をかしげて見つめてみる。

 でもって、何だか沈黙がやたら長い上に、目線をそらしっぱなしなのに気づいて、気持ち目を細めてちょっと声も落として、自分内最悪の予想を口にしてみた。


「…………リグル。まさかとは思うけども――何かの手違いで、大盾守護隊(ニコロウム)を背後から吹っ飛ばしちゃった、とかいうオチじゃないでしょーねー?」

「………………すみません。その、まさかです」


 最悪の予想、ビンゴ。

 ……正直に言って頭が痛い。いくら防御力だけで言えば町にいる全部隊の中で1・2を争う部隊だって言っても、あくまで盾は盾であって鎧ではない。守るべき背後から火力に特化した魔法をぶつけられれば文字通り蒸発してしまう。

 でもって、いくら機動力があるといったって魔法遊撃隊(ルテニウス)はあくまで魔法使いの部隊。前衛無しであの森を半分とはいえ突破するのは無理があるを通り越して無謀だ。まさか本気で森を薙ぎ払う訳にはいかないし。

 正真正銘最悪の状況で手詰まりになっている訳だったが――そもそも私が何でこの状況が予想できたかって言うと、このリグルリス・ドルスという妖精は、昔からたまにこういう致命的なミスをやらかしてきたっていう悪い意味での実績があるからだったりする。

 ただ、実績があって要注意のままだったにしても……やらかすか、こういうどうしようもない状況で。

 とりあえず、私は気持ちを切り替える為に深々とため息をついた。リグルが若干びくついていたもののそれを無視して、髪を左手で後ろに払って言い切った。


「まーいーや。私もどーせ今からこの森突っ切るつもりだったしー……。一緒だから代わりに薙ぎ払う役を私がやるわー。魔法遊撃隊(ルテニウス)は後ろから付いてくるだけでいいよー。それに町で何かあったら困るから、魔力はギリギリまで温存してほしいしー?」


 そんな訳で、冒頭に戻る。

 ……あれ、何だか一話が長くなってきてる……?

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