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十一話 幸運と騒がしい旅路

 私の妹は、かなりのおねーちゃんっ娘だったようです。つまり、シスコン。


 ……いきなり何を言っているんだと思わないでいただきたい。あのファイルには、フォー自身にとってどれだけ姉が大事な存在かがびっしり書かれていたのだ。自分でも、よく小一時間で復活できたなと思うくらいに。……あれ、もしかして私だって重度のシスコンですか? そうですか。それにしても私はさっきから誰に話しかけているんだろう。

 あのファイルの残りのページにはフォーの町の状態が並んでいた。見慣れたものから目新しいものまで、やはり時間は経っていたんだなと実感。……よく見たら、『Free to There』の時から100年経ってた。そりゃ変わりもする。


「……もしかして、『種族ランクアップ』クエストって、この時間を見越してのクエストだったりー……?」


 思わず独り言がこぼれる。

 『種族ランクアップ』クエスト。受けられるのは一回きり、そのクエスト専用の特殊なダンジョンに潜って何かするクエストだと聞いている。その報酬はステータスの上限上昇だった訳だが……その受注可能レベルが150で、私は達していなかったから受けていなかった。

 なお、種族ランクアップに成功したディーグ達の話では、キャラの種族説明に変化があったらしい。何とかロードとかハイなんとかという特殊なものになり、設定上の寿命が異様に伸びたとかなんとか。

 なお、私の種族はフォーと同じく黒竜なので(後ろになぜか (?)とついていたけど。白いラインに関係ある?)、最初からアホみたいに長い寿命が設定されている。100年時間がたってもなんら問題ない。

 ま、その時の種族の寿命というのはただの設定であったため、「運営も芸が細かいなぁ」くらいにしか思っていなかったが…………もしそれが意図してのものだった場合、『Free to There』は、最初から『Fragment of "The World"』の前身として、それこそプロローグとして開発されたことになる。


「……うーん、何だか嫌な予感ー……」


 もしかしたら、今回オープニングで起こったこの不手際も、何らかの意図があってのものではないか。ついそんな考えが浮かんで、頭をふって振り払った。

 ついでにアイテムボックスからスクロールを1つ取り出して、正面に向けて発動。


「スクロールLv3『風の槌(ウィンドストライク)』」


 ドゴン! という音で撃ち出された風の砲弾は、私へ連携を組んで襲いかかろうとしていたグラスウルフを、4匹まとめて吹き飛ばした。犬っぽい悲鳴を上げて遠くに飛んでいく草色の小さめな狼×4。

 それを追撃するように矢が5本飛んでいき……刺さったのはたった1本。どー考えても命中率がおかしい。


「まとめ撃ちは格好いいけどさー……命中率考えないと赤字だよー?」

「大丈夫デス! 後で回収しマスから!」


 そーいう話じゃないと突っ込みたい。

 なお、今の微妙にカタコトな返事がさっき矢を放った本人。種族はエルフで、名前は……なんだったか。とりあえず、町でふらふらしていた私を捕まえて、クエストの手伝いを土下座してきた潔い子だ。身長は私より高いけども。

 ちなみにクエストはごく簡単な荷馬車の護衛。お決まりとして草原のモンスターに何度か襲われるのを撃退すれば、荷馬車の目的地まで移動するのが楽になるというクエストで、飛行手段を持たないキャラクターに人気のクエストだ。


「知ってるとは思うけどー……矢の耐久度ってかなりしょぼいからー、敵どころか地面に当たっても砕けることが多いよー。特に初めの内の、初心者用のはさー」

「何デスとっ!?」


 一応、という感じで言った一言に、体ごとぐりんと振り返って驚愕の声を上げる初心者エルフ。その背後からグラスウルフが飛び掛る。


「スクロールLv3『過重力グラビティ』」


 その牙が届く前に私は用意しておいたスクロールを発動。攻撃対象は念のためにパーティを組んでおいた初心者エルフと私以外になるので、特に狙わなくても不意打ちが成功しそうだったグラスウルフだけに発動した。ギャンッ、と地面に叩きつけられたグラスウルフの悲鳴を聞いて、慌てて再び弓を構える初心者エルフ。


「まだまだだねー……」


 思わず先のことを考えてため息をついてしまった。

 レベルが80を越えると、即死攻撃持ちのモンスターがさりげなく現れるようになる。うっかり気を抜けば背後から首チョンパで、ボス部屋の前であろうと町まで逆戻りなんてこともありうるのだ。本当に気が抜けない。おかげでフィールドに出ると周囲を常に気にする癖がついてしまった。

 ま、それは置いておいて、と。

 新しくスクロールを取り出して狙いをつける。9匹いる群れの内、一番奥に下がって大きく息を吸い込んだ一匹。


「スクロールLv2『火矢フレイムアロー』」


 スクロールは一本の炎でできた矢になって、遠吠えをあげようとしたグラスウルフののどに突き刺さった。仲間を呼び寄せるウルフ系固有スキル『遠吠え』は失敗。そのまま小さな狼は燃え上がり、しばらくして黒焦げになって沈黙した。あの死体に触れて「サメルン」と唱えれば素材とお金が回収できるようだ。

 しかし……うん。ぶっちゃけ私が戦闘に入るとお話にならない。やっぱり手を出すのは極力やめてあの初心者エルフに仕留めさせよう。経験値的な意味でも。時間がかかってしょうがないけども。


(行く方向が一緒だからって、ちょっと簡単に引き受けすぎたかなー)


 退屈だ、と思いながら心の中でそう呟く。

 荷馬車の目的地。その先、奥地へ入ったところに、フォーの町はひっそりと存在する。別に空を飛んでもよかったのだが、まぁちょっと手間は増えるけどのんびり行くかー、と安請け合いしたのだった。

 ……うん。これからは気をつけようと思う。




 なお、グラスウルフは護衛すべき馬車も攻撃対象とする。

 が、被害が出ることはありえない。むろん、初心者エルフが能力の大半を回して守ってるとかそんな設定ではない。


 でんっ! と、荷馬車を覆うように地面に突き立っている、棘が周囲に飛び出るギミック発動済みの『八方守護陣盾』。スクロールLv1『警戒(プレケーション)』とスクロールLv2『恐怖(スケアー)』を重ねがけしている現在、この辺のモンスターでは近寄りすらできない防壁となっていた。


 まだ初心者用マップです。

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