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十話 幸運と描かれた過去

 まぁ、そんなこんなと色々あり過ぎた特典の説明も終了して、引き継ぎ組は三々五々散って行った。何をどうしようが明日の夕方まではこの世界にいなければならない訳だし、運営が変な所でノリが良すぎるのは既に全員知っている。

 それならいっそ楽しんでしまった方がいい、と、私自身も早々に決断し、潰れたゲームマスターを放置して『始まりの町』を散策する事にした。

 ちなみにディーグ達4人とは別行動。いつまでも一緒に居るとライさんともどもフォローに疲れ切ってしまう。まとめ役に見えるディーグはその実戦闘以外では役に立たないのだ。あそこまで風格を漂わせておきながらなんでかって理由は、その正体が戦闘狂だから。

 そんな訳で、現在私が何をしているかと言うと、


「おばーちゃーん、落としたハンカチってこれで合ってるー?」

「おぉ、これだよ。ありがとうねぇ」

「いいよー、もう無くしちゃだめだよー」


 町の中で発生するミニクエストをちまちまこなしていた。初級ポーションをもらったりお小遣いをもらったり穴場を教えてもらったり、まるっきり初心者向けだが気にしない。

 ……けど、そろそろ現実逃避は止めにしておくべきかもしれない。


「さて……腹を括って見ますかー……」


 大通りから少しだけ路地に入り、人気のない所で壁に背を預けてため息をひとつ。ウィンドウを呼びだして、放り込みっぱなしだった1つのアイテムを取りだした。

 表紙が真っ黒な、例のファイル。

 これからこの世界で過ごす時間を考えれば、自分の(正確にはフォーの)町に帰らない、という選択肢は無い。ということはつまり、そこの長であるフォーと顔を合わせずに済む訳が無く。出会いに備えて少しでも事前情報を得ようと思えば、今手にあるこのファイルを見るしかない訳で。

 ……いくら自分の恥ずかしい系黒歴史なフォーへの愛に溢れている報告書だったとしても、避けて通る訳にはいかないのだ。十中八九、運営陣によって脚色されまくっていて恥ずかしさ数倍だったとしても、読まない、という選択肢は、無い。


「…………よし」


 何度か深呼吸を繰り返して気を落ち着け、覚悟を決めて私は黒いファイルを開いた。

 見なれたフォーの顔写真と名前、属性、種族、レベル、といった普通の物から並んでいる文字に目を通していく。途中、プレイヤーからみた関係、の項目で目が止まるのを、何とか引き剥がして次へ。

 ぺらりとページをめくって読み進めると、今度は使ってきた武器の経歴や、ダンジョン突破なんかの戦歴といった、フォーの歴史とでも言うべきものが並んでいた。その中のいくつかに顔をしかめそうになるのを、何とか口の端の引きつりにとどめて進んでいく。

 もう一枚ページをめくる。……今度は、私の知らないフォーの歴史。つまり『Free to There』を開始する前、正真正銘Fortunaの過去だった。


「……確かに、あのユニークスキルはチート気味だと思ったけどもー……」


 読み進めるうちにそんな呟きが零れる。

 Fortunaの種族は黒竜。何のひねりもなく闇属性のドラゴンで、普段は半人半竜の姿をしているがぶち切れた時や死にそうになった時はその本来の姿で『暴走』することが何度かあったので、そっちの姿も知っている。……その時の戦闘力も半端じゃないと言う事もよく知っている。

 このファイルによると、Fortunaことフォーは黒竜の直系、所謂お姫様に当たる血筋だったようだ。現在の黒竜王、その姉が母親となっている。ということはつまり、その父違いの姉であるLuck=私もお姫様に当たると言う事か。……実感がわかない。

 ちなみに、王位争いとかそういうのは既に現黒竜王に立派な息子がいるので全く関係無し。いささか以上に放任主義なため、自由な冒険者ライフに支障はないようだ。フォーも(Luck)も。


「しかしお姫様で妹で愛らしくて最強とか、どこのチートモノ小説の主人公ですか私の妹はー? 運営陣、ここまで凝らんでもよいだろーに」


 そう独り言を呟いてページをめくる。そこにはフォーの趣味嗜好等、性格的なものが並んでいた。とりあえず何度か読み返して丸暗記する。……いやだって、可愛がってる妹の好みを知らないのはどうかと思うよ? 姉として。……あ、今気付いたけどすっかりその気になってる。

 さて、と次のページをめくった。


 そこには、フォーから見た(Luck)の色々な事がびっしり書かれていた。


「っっ!?」


 思わずあげそうになった叫びを思いっきり奥歯を噛みしめてこらえる。ぱたん、と一度ファイルを閉じて、顔を伏せて何度か深呼吸を繰り返した。

 ……何だか、今、人格が崩壊する位の破壊力を秘めた言葉が、目に入ったような、気が……

 もう一度ファイルを開くのが非常に恐ろしかった。……が、相手から見たこちらの印象は、人間関係においてとても重要な要素。これを省くと難易度がいきなり跳ね上がる。

 しばらくの間、両手でファイルを持ったまま真剣に考えた。読むべきか読まざるべきか、場所を変えるかこのままか。

 体感時間でかなり長い時間考えて、私はファイルを手に持ったまま、小さく呟いた。


「…………宿屋入って、遮音魔法多重発動した上で、読もう」


 ヒント。フォーがクーを呼ぶ言葉は、とても可愛らしいです。

 ……そしてそろそろ更新ペースが落ちます;

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