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九話 幸運と、もう1人の幸運

「ぐすん……それでは、今から“特典”の説明会を始めたいと思います……」


 わざとらしく泣きべそをかきながら、黄色のゲームマスターは書類らしき紙の束が山と積まれた机の後ろに立ってそう切り出した。プレイヤー側は顔に『早くしろ』と書いて応じる。


「……ノリ悪、いやなんでもないです。えー、とりあえずコレを配布してしまおうと思いますので、アルファベット順に呼んでいきますから、並んでおいてください……」


 アルファベット順……となると、私はLだから真ん中あたりだろうか? ディーグは早そうだ。

 わらわらと移動していくプレイヤーに混じって動き、周囲に頭文字を聞きながら移動していく。んん、予想通り真ん中あたり。

 あの外見の割には作業が早いのか、のんびり散歩するくらいの速さで進む列。色とりどりのファイルを手に列から離れて思い思いの場所に散っていくプレイヤー達を眺めながら進み、私も似たようなファイルを受け取った。

 邪魔にならないように歩き出しながら見てみると、表紙の色は黒でおおよそA4サイズ、厚さは1㎝弱、(システムロック)でもかかっているのか開かない。……何だこれ?

 並ぶ前に居た位置に戻ると、やっぱりディーグは先に帰ってきていた。あちらはやはり同じ大きさ同じ厚みでオレンジ色の表紙のファイルをいじっている。やはり開かないようだ。


「……なんだろねーこれ」

「分からん」

「うぅん、これはさすがの僕も中身を見ないと分からないかな」


 そんなことを言っていると、トーレも戻ってきた。その手にはやはり以下同文、表紙の色だけが違うファイルがあった。その色は空色に白の縦縞。

 これで3人分のファイルが揃った訳で、どうやら単色だけではないらしいと分かったくらい。しかしどこかで見た事があるような色と模様をしている……気がする。


「……ライさんとリーベはどんなんだったー?」

「ライさんは三毛柄、リーベは真っ白だったけど……あれぇ?」


 トーレは何かに気付いたようだ。


「…………ディーグがオレンジ、僕が空色白縞、クーちゃんが真っ黒」

「……待て。どこかで聞いたような色の組み合わせだが」

「つーことは……何? まーたあのゲームマスター勝手に過去をねつ造してくれちゃった訳ー?」


 続く言葉でディーグと私も気づいた。


「うぅ……えーでは、そのファイルの中身を説明したいと思います……。えーと、システムロック、解除、と……」


 そんな風に不吉な予感を感じている間にゲームマスターの次の行動。私たちは一度目を見合わせて、恐る恐るファイルを開いた。

 そして1ページ目に、嫌な予感通りの姿があって空気が凍る。その間に続くゲームマスターの声。


「えーと、もうご覧かと思いますが、そのファイルは皆様の前キャラのプロフィールとなっています。基本の職種は前作で皆様が作った“町”の長で共通となっており、性格その他は皆様のプレイ履歴と運営陣の独断偏見で形になっていま」


 ゴッ、と鈍い音がして、黄色いゲームマスターは沈黙した。大方耐え切れなくなったプレイヤーの誰かが打撃気絶系のアーツでも発動したんだろう。

 ……しかし、これ、は…………っ!


「……ねー、2人とも。『プレイヤーから見た関係』って、何だった?」

「…………従弟(いとこ)だそうだ」

「僕の方は幼馴染だってさ。こんな瓜二つなのにねぇ?」

「……あの~、同い年の甥って~……」

「コッチも幼馴染やって。でもなんやろ、不吉な気配がすんねんけど」

「……いーじゃんまだ無難な方でさー……」


 内心は、やりやがったあの運営、と、確かにハマってる! という気持ちでごちゃごちゃになっているまま、行動として深いため息をついて私はそれに感想を投げる。

 その行動に不審を覚えたらしいディーグは、その不信感のまま聞いてきた。


「そういうクーのフォーはどうなんだ」


 残念ながら、それに答えるのには数秒を要したが……


「………………と」

「へ?」

「だから…………いの……と」

「何何? 聞こえない、もうちょっとはっきり言ってよクーちゃん」


 トーレが何故か楽しそうに聞いてくる。この野郎、人の反応で遊んでるんじゃねーよ自分のキャラが無難極まりないところだったからって……!

 その怒りのままに言ってしまう事にして、私は腹に力を込めた。勢いに任せて声を張る。



「だから……っ、父親違いの、妹!」



 つまり他の4人と違い、直接血がつながっているのだ。幼少期の思い出とか聞かれたら答えようがないと言うのに、運営は何を考えてこんな『関係』を……! いや、フォーが妹とか、すごく可愛すぎて困るぐらい嬉しいけどってだから余計に複雑だっっ!!


「妹…………」

「あっはははは! 妹! なるほど、運営はよく分かってるね!」


 トーレは予想通り爆笑。ディーグですら獣そのものの口元がひくひくと震えている。リーベはあっけに取られ、ライは背中を震わせながらお腹を抱えて丸くなっている。


 あぁもう分かってるとも! 自分の判断とは別にキャラの言動を選べるからってわざわざその姿に似合いの純真で可愛らしい妹そのものの言動を取らせたのは確かに私だよ! 可愛らしく喋る彼女をブラウザ越しで見てニヨニヨしてたさ! だからって普通こんな形で返すか運営の奴らぁー―――っ!!


 思わず感情のまま手に力を入れると、ベキ、と乾いた音がした。ふと手元を見ると、ファイルの表紙に使われていた、相当頑丈な筈の不思議金属素材にヒビが入っている。ぴたりと止む笑い声に、私も頭が冷えた。


「……この場合、何かモノ申したい場合は、運営に言うべきだよねー?」

「ああ……。あそこで伸びているが」

「ん、ちょっと叩き起こしてくるー」


 アイテムボックスを開いて、そこにファイルを放り込む。代わりに取り出したのはさっき使っていた『八方守護陣盾』より、長さだけでいえば更に巨大なシロモノだった。単一の黒っぽい金属で出来たそれは、長い長い柄の先に、斧、槍、槌、鉤を組み合わせた凶暴な斧頭を持ち、その反対の先には鎖が続いて、私の拳二つ分ほどの直系の金属球が下がっている。

 これこそ、イベント前に話した初心者の4人が言っていた、不死者(アンデッド)類のモンスターを薙ぎ払っていた、凶悪きわまる斧槍(ハルバード)『マルチキラー』だ。扱いなれない内は金属球で自分もダメージを受けていたが、使いこなせるようになってからは凶悪さを一段と増した。

 先程の盾と打って変わって攻撃的な装備に、4人だけでなく周囲のプレイヤー全員が距離を取る。そんな中私は距離を測りながら歩いて足を止めると、斧頭に使われている内、槌をゲームマスターに向けて、大きく振りかぶった。


「重量級汎用型アーツ其の一、」


 まだ気絶から回復していないゲームマスターに狙いを定め、他のゲームで言う所のスキルである、アーツ起動のセリフを言い放った。


「『チャージクラッシュ』」





 さっきゲームマスターが気絶させられた時の音と比べ相当に重い音が響いて、空になった机とゲームマスター (だったもの)を中心にクレーターが出来た。

 ノリの良い運営+ちょっと懲りすぎたロールプレイ=混沌カオス

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