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好きな人の初めてを奪ってしまった  作者: 糸真希


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2/2

好きな人の初めてを奪ってしまった.2

1話の別視点です。

 





 もうすぐ、学園生活が始まる。学園で学ぶような事は既に家庭教師から学んでいた俺は、学園に通う意義を見出せないでいた。


 入学から二週間程が経った。特に何か期待をしていた訳ではない学園生活は、可もなく不可もなく。刺激は少なく、学びも少ない。学友達との他愛のない会話は楽しい、そんな毎日だった。

 一日の授業が終わり、寮に帰るか外に遊びに出るか、学友のジャスティンとベオウルフが話をしている。俺は窓から外を眺めていた。ふと眼下に、何か動くものか見えた。その何かはすごい速さで動いていた……何なのだろう?


「なぁ、イアンも行かないか?」


 二人は外に遊びに行く事にしたらしい。


「ん?ああ……今日はやめておく。ジャスティン、ベオウルフ、また明日な」


 俺はジャスティンの誘いを断ると、裏庭に向かった。好奇心だ。確かめたかった。魔物が入り込んでいては危険だし、そうでないなら、あれは一体何なのだろう。


 裏庭は人気が少ない。そうなるのも頷ける。何故ならば、裏庭は暗いのだ。中庭が明るく開放的なのに対し、裏庭は鬱蒼と茂った木々が影を落とし、どんよりとした空気を感じさせる。

 俺は腰を落とし、辺りを警戒した。音を立てないように慎重に周辺を伺っていると、木々の奥から女の子のボヤく声が聞こえてきた。


「目立つ色で塗る必要があるわね……無くしちゃったかと思って焦ったわ~。ってか全然返ってこないなぁ~難しい~……」


 女の子は手に持っている不思議な形の木の板を様々な角度から見て、地面に置いた鞄から何かを取り出した。

 ……あんな物を、この学園に通う令嬢が?俺は目を疑った。鞄から出してきたのは、刃渡り二十センチ程のナイフだった。どうしてあんな物を持ち歩いているのだ?俺は彼女を危険人物だと認定し、観察を続けた。

 彼女はナイフをカバーから外すと、慣れた手付きで板を削り始めた。

 彼女はあの板が戻ってこない、とボヤいていたな。きっと戻ってくるような形にする為に削っているのだろう。


 しばらく削ると、また鞄から何かを取り出した。彼女はその棒を板にゴリゴリと擦り付けている。何をしているのだろう?俺は理解するのに時間がかかった。彼女はあの板をヤスリがけしていたのだ。ヤスリがけ。俺は人生で初めてヤスリがけをする人を見た。その初めてが、学園に通う貴族の令嬢だなんて、誰が予想しただろうか。

 彼女はヤスリがけをして、時々手で板を撫で、またヤスリがけする事を繰り返し、満足したのかヤスリがけを終了させた。


「投げてみたいけど、またどっか行っちゃったら嫌だなぁ。でも今日は絵の具持ってきてないしなぁ……よし!」


 彼女は立ち上がると、木々の奥に向けてあの板を投げた。板は勿論、戻って来なかった。


「……駄目かぁ~!」


 彼女は大袈裟に落ち込んで見せ、奥の方に板を探しに行った。

 彼女は何処の誰なのだ?赤みがかった、少し癖のある髪を持つ、茶色い瞳の変な令嬢。俺は、彼女に興味が湧いた。


 それから俺は、時々放課後に彼女を観察するようになった。隣のクラスに居る事が分かり、放課後だけでなく彼女を見る機会もあった。彼女はあまり友人が多いわけではないらしい。昼食も一人で食べているのを見かけた。確かに、彼女は変わっているから貴族の令嬢達と話が合わずに、孤立してしまっているのかもしれないな、と納得しつつも、彼女が心配になった。


 ある日の昼食時、俺が座る席の近くに彼女が来た。今日も一人で食事をするようだ。

 話し掛けてみたい。でも、何て話し掛けたらいいんだ?俺はそんな事を考えていた為に、ジャスティンとベオウルフの話を全く聞いていなかった。


「ロロカ様。こちらにいらっしゃいましたの。先生が探しておりましたわよ」


 そう声を掛けられた彼女は顔を上げた。彼女はロロカという名前らしい。


「あ、アナスタシア様。ありがとうございます」


「今度は何をなさったんです?」


「え~?心当たりがありません……」


 困ったような表情でロロカは首を傾げた。あるだろ、心当たり。


「心当たりが多すぎる、の間違いではなくて?」


 アナスタシアは俺と同意見のようだ。


「うふふふ。何のことやら~?」


 軽口を言いながらロロカは笑った。誤魔化すようなその笑顔の可愛さに、ドキリと心臓が跳ねる。アナスタシアと呼ばれた女子生徒は、やれやれという表情でロロカを見た。アナスタシアが去ると、ロロカは急いで昼食を食べ終え先生の元へ向かった。


 ロロカの名前を知って数日後の事。この日の授業も終わり、ジャスティン達と帰ろうと鞄を手に立ち上がった。ジャスティンとベオウルフがこちらに来て、小声で話を始めた。


「イアン、今日はロロカ嬢の所には行かないのか?」


「!?」


 驚いた俺はジャスティンの顔を思わず見返した。自分の顔が赤くなってきた気がする。


「ロロカ嬢が気になってるんだろ?」


「いや、好きとかじゃ、ない……」


「はは。ロロカ嬢、変わってるもんな」


 ベオウルフがそう笑うと、俺は少し不愉快な気持ちになった。


「話し掛けたりしないのか?俺たちが協力しようか?」


 ムッとしていた俺に、ジャスティンがこんな事を言うものだから、俺は慌てて首を振った。


「い、や、やめてくれ!」


「ははは。そっか。いつでも頼ってくれて良いんだぜ?じゃあ、俺たち帰るな」


 好きじゃないと言っているのに、ジャスティンは揶揄うような笑顔を見せると教室を出て行った。ジャスティンには許嫁が居るからか、恋愛方面での余裕を感じさせる。大人びたジャスティンの後ろ姿を、俺は仏頂面で見送った。

 そのまま窓外の景色を眺めていると、ロロカが現れた。今日は建物の近くで荷物を広げている。今日はブーメランを作らないらしい。ロロカが連日作っていた物が何か分からなかった俺は、武器や道具について書かれた書物を読み漁った。それで、あの不思議な形をした板が、かなり離れた他国の狩猟道具だと知った。ブーメランというその道具は投げると弧を描き、何かに当たる事がなければ手元に戻ってくるそうだ。

 ロロカが今日それを作っていないという事は、完成したのか、作るのを諦めたのか……?

 声を掛けてみよう。少し緊張しながら、俺は裏庭へ向かった。


 裏庭を眺めながら、ロロカは地面にシートを敷いて座っている。画材が広げられているから、絵を描いているのだろう。俺は後ろから、絵を覗き込んだ。薄く色が塗られたそれは、目の前の景色のようだ。


「へぇ、上手いもんだね」


 緊張しながら放った言葉は、少し偉そうに聞こえたかも知れない。ロロカは俺の言葉にビクリと体を震わせて振り向いた。目を丸くさせている。


「あ、っとごめん。吃驚させた?隣、失礼するよ」


 そう言いながら、平静を装いつつロロカの隣に座った。こちらを不思議そうに見るロロカに、俺はにこやかに話を続けた。


「今日は絵を描いてるんだね。昨日はブーメラン飛ばしてなかった?」


 ロロカは目を見開き何か考えた後、一度目を閉じて小さく息を吐くと俺の問に答えた。


「絵を描くのが好きなので。ブーメランは戻って来ないから、また挑戦するつもりよ」


 諦めたわけでも、成功してブーメラン作りを辞めたわけでもないらしい。会話が出来た事に、俺は嬉しくなった。


「へぇ~そうなんだ!ブーメラン作るの楽しそうだな。俺もやってみたい」


「結構難しいのよ!投げ方が悪いのか、形が悪いのか、返ってこない原因が分からないの」


「じゃあ明日から二人で色々試してみよう。今日の絵は何を描いてんだ?」


 俺はとても自然に次の約束を取り付けた。そして断られる隙を与えないように話題を移す。


「木と空を。風景画ってやつね。秋の空って良い色してると思わない?」


 俺は前方に広がる空を眺めた。高く見える秋の空。確かに、薄い水色をした秋の空は美しく見える。


「確かに綺麗だな。人物画とかは描かないのか?」


「モチーフに恵まれなくてねぇ……貴方、モデルになってくれる?」


「いいの!?やった!」


 ロロカの言葉に俺は即答した。


「……私、人物画自身無いの。下手でも怒らないでね」


 ロロカはこう言ったが、気になっている女の子に自分を描いてもらえる事が嬉しいんだ。その絵が下手だからって怒ったりなんかしない。ロロカは真剣な顔で俺とスケッチブックを交互に見る。俺はその様子を、ずっと眺めながらリラックスして絵の完成を待った。


 段々とロロカの手が止まる事が増えた。表情は渋くなっている。明らかに納得していない、という表情だ。


「出来た?」


「ごめんなさい。これでも頑張ったんだけど……」


「あっは!これ、俺?うわーすげー!」


 ロロカから渡されたスケッチブックを見て俺は思わず声を上げた。嬉しい気持ちが胸いっぱいに広がっていく。


「じ、自信無いって言ったでしょ?そろそろ帰るし、もう返して」


 スケッチブックを返すよう促すように、ロロカは手を差し出した。確かに肖像画を描く画家のような絵ではないが、ロロカの絵には愛嬌がある。


「ええ?これ欲しいんだけど、ダメかな?」


 俺の言葉に、ロロカは目をぱちくりと瞬かせた。そしてふっと笑う。


「……こんな絵で良ければ差し上げますが……お坊ちゃま、ご趣味が悪うございますな」


「嬉しいけど?明日、何かお礼を持ってくるな」


「お礼を貰うような物じゃないわよ」


 そう言いながら画材を片付けたロロカは少し嬉しそうに見えた。俺もその横顔を見ながら、明日ロロカに渡すお礼をどうするか、楽しみに考えた。




 それから俺たちは昼食を一緒に食べたり、放課後を共にしたりすることで、打ち解ける事ができた。初めロロカは俺が次期公爵である事を知り、友達になることに後ろ向きでいた。だけど俺はロロカと仲良くなりたくて、説得もしたし見掛ける度に話しかけた。そうして、ロロカは俺を友だと言い、楽しく笑い合う事が出来るようになった。

 俺はそれが嬉しかった。でも、ロロカを異性として意識していた俺は、一歩が踏み出せなかった。一緒にブーメランを投げて遊ぶロロカに好きだと伝える事で、彼女との距離が出来てしまう事を恐れた俺は、想いを伝える事が出来ないまま学園を卒業した。

 ロロカは領地に帰ってしまった。卒業してからの俺は、父の仕事を教わり爵位を継ぐ準備をしている。学びある毎日で充実している。だけど、胸にぽっかりと空いた穴があるようで寂しさを拭う事が出来なかった。


 そんなある日、アナスタシアから手紙が届いた。アナスタシアはロロカと仲の良い令嬢だ。入学から卒業まで、アナスタシアとロロカはずっと同じクラスだった。アナスタシアはロロカの世話をよく焼いていて、だがロロカとよく一緒に居た俺に声を掛けるような事は無かった。

 上品な色合いの便箋を開封して中を見ると、手紙と招待状が入っていた。

 美しい文字で丁寧な挨拶から始まる手紙には、卒業後元気にしているか、という当たり障りのない内容と、舞踏会に是非来てくれ、という招待が書かれていた。そして、舞踏会にはロロカも招いている、という事も。


 アナスタシアは、俺がロロカに焦がれている事に気付いているのだろうか。それとも、単にロロカと仲が良かったから、下心の無い親切心で招待してくれたのだろうか。


 そのどちらでも、久しぶりにロロカに会える事は嬉しい。俺は招待状の返事をすぐに送った。

 そして舞踏会当日。少し遅れて到着した俺は、舞踏会の端で酒を飲むロロカとジャスティンとベオウルフを見付けた。ドレスを着ているロロカはとても美しかった。制服を着ている時は見えなかった、露わになった肩が白い。

 一瞬見とれてしまった俺は、気を取り直してロロカの方へ向かった。


「久しぶりだな。ロロカ嬢」


 美味しそうに酒を飲んでいたロロカは、声を掛けられて振り向いた。きょとんとしていた表情は、俺を見た途端に喜色に変わる。


「イアン様!久しぶり!何か、大人っぽくなった?」


「はは!ロロカ嬢~。イアンにも男っぷりが上がったって言ってやらないのかぁ?」


「イアン様なら色んな人に言われてるでしょ~?」


「おい!それじゃ俺たちは言われてないって事かよ!?」


「あははははは!」


 俺が返事をする暇もなく、ロロカはジャスティンとベオウルフと笑いあっている……俺もロロカに男っぷりが上がったなんて言われたい。


「もう結構飲んでるのか?」


「美味しいわよ!このシャンパン。イアン様も飲みましょうよ」


 楽しそうな微笑みでシャンパンを渡すロロカ。俺はそれを受け取ると、一口喉に流し込む。弾ける炭酸と柑橘系の爽やかな甘い香りが広がった。


「……うん。美味い」


「このローストビーフも美味しいの。たくさん食べちゃったから、もうお腹いっぱいだわ」


 ロロカはふにゃふにゃと笑う。あまり見た事のないロロカの姿だ。ロロカと酒を飲むのは初めてだからだろう。しかし、こんなに飲んで大丈夫なのだろうか。

 心配になった俺は酒は程々に、ロロカを注視することにした。


 かなり酔っているロロカを、俺はついにダンスに誘う事が出来なかった。ジャスティンとベオウルフとは踊ったのだろうか。


「ジャスティン、ベオウルフ、お前たちはロロカ嬢と踊ったのか?」


「いや?俺たちずっとここで飲んでたから、踊ってないぜ」


「そうか」


 俺は少し安堵した。表情に出てしまったかも知れない。


「安心しろよ?ロロカ嬢は今日誰とも踊ってないからな」


 揶揄うような表情で俺を見るジャスティンとベオウルフ。恥ずかしいと思うが、やはり俺は安堵している。


「しかし、かなり飲んでいたな。大丈夫なのか?」


 俺が心配してロロカを見ると、締まりのない顔でロロカはまたシャンパンのグラスを手に取った。


「おい。それくらいにしておけ。飲みすぎだ」


「……楽しくって。皆と会えてぇ、嬉しかったから~」


 呂律が回っていない。貴族令嬢が酒の失敗をする事態になる事は避けねばならない。俺はその心配の芽を摘むことにした。


「ロロカ嬢。今日は楽しかったな。そろそろ帰らないと……」


「ぇえ~?もうお終いの時間なのぉ?ぅぅ……」


 ふにゃふにゃしていてとても可愛い……じゃなくて、俺は立ち上がるとロロカ嬢に近付いた。


「立てるか?無理そうなら手伝うぞ」


「立てる」


 ロロカはそう言うと、ゆっくり立ち上がった。何だかフラフラしているように見える。エスコートをするように腕を差し出してみた。


「あ、ありがとう」


 呂律の回らない声で礼を言いながら、俺の腕を取るロロカ。そして俺たちは舞踏会会場を後にした。


「まだ帰りたくないなぁ」


 楽しかった余韻から、ロロカはそう呟く。俺だって、今日が終わってしまうのが惜しい。


「そうだな」


「イアン様に会えて良かった。元気かなって、ずっと思ってたから」


「……うん」


 胸に熱いものが広がる。俺だってずっと、ロロカの事を考えてた。でもこれは、ロロカの言っている意味とは違うものだ。


「ずっとね、イアン様のことが、好きだったの」


 俺は歩みを止めた。今、ロロカは何て―――。


「……言っちゃった」


 頬を赤らめて恥ずかしそうに笑うロロカ。頬が赤いのは酔っ払っているからか……でも、ロロカは俺を好きだったって……。


「ロロカ。俺の家で、飲み直さないか?」


 緊張しているのか、喉が渇いている。そんな俺の気持ちなど知らず、ロロカはふにゃりと笑って頷いた。


 公爵邸に到着し、俺はロロカの手を引き足早に自室へと向かった。早く二人きりになりたくて。

 自室に入ると、ロロカはキョロキョロと部屋を見回している。


「ここがイアン様の部屋?広くて綺麗」


 俺はロロカの手を引き、ロロカをベッドに座らせた。その隣に俺も座る。

 何を言えばいいのか、分からないまま俺は見慣れた床を見ている。どうしよう。ロロカを連れて帰ってしまった。


「イアン様~?どうしたの?」


 俺の顔をロロカが覗き込む。俺はロロカの手を取った。


「ロロカ。俺、ずっと君の事が……」


「好き」


 ロロカの声に、俺の全身を幸福感が駆け巡る。俺はロロカにキスをした。


「好きだ。ロロカ」


「うん……嬉しい。イアン……」


 俺たちは何度もキスを交わし、お互いの服を脱がしていった。


 ロロカは何度も何度も、俺に愛を囁いてくれた。腕の中で眠るロロカを見て、俺は幸福感に包まれている。とても情熱的だったロロカに驚きながらも新しい一面を知る事が出来、嬉しかった……もしかしたらロロカは、俺が初めての相手ではなかったのかも知れない。ロロカの初めての相手には臓腑が煮えるほどの嫉妬心を感じるが、これからはロロカの相手は俺一人だ。そいつには二度と、ロロカに触れさせない。

 ロロカの額を撫でると、ロロカは俺の方へと寝返りを打った。そのままロロカを優しく抱きしめる。

 随分と酔っていた。朝起きたら、今夜の事を覚えているだろうか。裸で二人、ベッドに居る事に驚くだろう……たとえロロカが今夜の事を覚えていなかったとしても、俺はもう決めている。



 翌朝は動揺するロロカと共に朝食を食べ、食後の紅茶をゆっくりと飲んだ。ロロカは俺を襲ってしまったと思っているようだ。俺たちはお互いが求め合ってベッドに入ったのだから、謝罪も罰も必要ないのに。それならば。俺は微笑み口を開いた。


「ロロカ嬢。君には、次期公爵夫人になってもらいたい」


「はい……じきこうしゃくふじん?え?」


 神妙な顔で頷いたロロカが不思議そうな顔でこちらを見返した。可愛らしい表情に、自然と笑みが零れた。


「俺と、結婚して。ロロカ」


「それは、罰にはならないですよ……?」


 ロロカが困惑しているのが見て取れる。俺との結婚は、ロロカにとっての罰にはならないという言葉が嬉しい。


「ロロカ、俺の事好きだもんね?昨日いっぱい言ってくれたから、知ってる」


 俺がこう言うと、ロロカの顔はみるみる赤くなった。狼狽えているのか、視線が泳いでいる。

 俺は立ち上がると、ロロカの前まで近付いた。


「知らなかった。ずっと好きだった……君を手に入れたくて、君に好きになってもらうにはって、ずっと考えてた」


 ロロカの頬にそっと触れる。俺を見上げたロロカの瞳が揺れる。キラキラと美しい瞳に吸い込まれそうだ。


「昨日から、ずっと俺、舞い上がってる」


 そう言いながら、俺はロロカの唇をなぞった。ロロカが瞳を瞬かせた。誘われるように、俺はロロカに口付けた。


 名残惜しいがロロカの唇を離し、長いキスを終えた俺達はお互いを見つめあった。熱を帯び揺れるロロカの瞳を見ていると、またキスがしたくなってしまう。あんなにしていたのに。

 ロロカも同じ事を思ったのか、俺から視線を逸らした。そしてその先の何かに気付いたように目を少し見開き呟いた。


「あれは――」


 その呟きを聞き、俺はロロカの視線の先に目をやる――あれか。


「懐かしいだろ?」


「まだ持ってたの?!あんな絵を……」


 ロロカは頬を染め驚いている。ロロカがかつて描いた俺の似顔絵が飾られているからだ。大切な物なのだから、美しい額に入れて飾るのは当然だろう。


「ロロカに初めて会った時に、初めて描いて貰った絵だからな。俺の顔を描いて貰ったのは、この時だけだったけど」


「こんな拙い絵が、こんな立派な額に……額が立派すぎてチグハグだわ……」


 ロロカは困惑しているようで、少し声が震えている。


「いいだろ?俺は気に入ってる。俺の宝物」


 そう言いながら俺はロロカを包み込むように抱き締めた。



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