それでも、この夏は、それでいい
青い空、白い雲
夏だなぁって感じがする
「青い空に白い雲、夏だーって感じしない?」
「お前、 すげえな。 全くおんなじこと考えてた」
公園のベンチで黄昏れていた俺は背後から突然かけられた声に応える。
「ふっふーん、幼馴染力高くなーい?」
見えていなくともわかる。
きっとコイツはものすごいドヤ顔をしている。
ドヤり過ぎて、チャームポイントのポニーテールが振り子のように揺れている所まで想像できた。
「で、なーにしてんの?こんなところで」
そう尋ねながら俺の隣に腰掛ける。
「観戦」
視界の端で軽快な音とともに白球が舞い上がった。
「ん」
「サンキュ」
手にしたのは、程よく冷えた缶コーヒー。
近くに自販機があるのを思い出す。
「嘘つき」
彼女の声はいつも通り、気の抜けた調子だった。
けれど、夏の陽炎のように、俺の意識を揺らす。
「何が嘘つきだよ」
缶コーヒーのプルタブを開けながら、俺は軽く目を細めた。
「ほら、観戦って言いながら、全然見てないじゃん。あんたの視線、ずっと空ばっか」
からかうような声は涼やかで――それなのに、胸の奥に熱を残す。
「そうだな。観戦はしてない」
俺は素直に認めた。
「お前が来るのを待ってた」
その言葉に、彼女は小さく息をのむ。
「……なによ、それ。ばっかみたい」
間を置き、ふっと笑う。
わざとらしいほど軽いその笑い――彼女は、知らないふりをしている。
そして俺は、それを分かっている。
彼女は空を見上げた。
ポニーテールが、さっきよりもゆっくりと揺れる。
黙って缶コーヒーを口に運ぶ。
氷の代わりに、夏の匂いと彼女の気配が胸の奥に居座る。
それが嘘だと、互いに知っている。
それでも、この夏は、それでいい。